最終話 「未来への、意味ある抵抗!」


ついに完結章!!

 

 

 見る間にピカークの顔へと、ボーグ装甲が被いやる・・・・制服が破れ、サイバー・システムが露出した・・・・

女王様は、歓喜の輝きそのままに− 「さあ、かわいい  "コンキュウダス" ・・・・忠誠のしるしに、ひざまづいて、私の足をお舐め!」

それまでピカークだった筈のその物言わぬ機械は、ゆっくりと女王様に膝付き、そのハイヒールを手にした− 女王様の、勝ち誇ったその表情たるや!

 ところが・・・・

 黒光りするハイヒールは、バキバキと音を立てて崩れ始めた!!

 女王様の表情は歓喜から、口を半開きにした苦痛の雌叫びへ!!

ゆっくりとピカークは顔をあげた・・・・その姿は・・・・なんと、ロボコップ!!

「実は、オースティン提督に頼んでウエルズ博士に、対ナノプローブ・ロボコップ変位ウィルスを作ってもらったんだ!」 女王様の足をふっ飛ばし、ギアを唸らせてゆっくりと立ちあがる! 「パイク准将、またUのラストをパクっちまいました!」

 続けざま、あのブレスレットの腕を掲げると、量子マシンガンがその手に!! ようやっと体をあげた女王様に向け、

 「我々は宇宙艦隊だ− 抵抗は有意義だ!」

マシンガンを一発!! ずばり命中、唖然と怯む隙に− 「・・・・実は、それだけではなく・・・・」

 

 話は第1章の終わり頃−

 オースティン総合参謀はドクターと機関長と共に、医療室にやって来た。

アリサが見付けてさすがに先ずは一礼、「提督さん、こんにちは!」 で、さっとドクターに 「せんせ〜! ホロドクターの修理、機関長さんに頼むんですよね〜」

「ああ、あれね。」 ドクター、機関長をかえりみて、 「出来る?」

肩をすくめて機関長 「もちろん! ジャムにできたんだから!」

「ホロドクターに、何かあったのか?」 どうやら幸運にも、総合参謀はアレ、見ていなかったよう。

「えへん!」 咳払いしてドクター 「すみませんが提督、そこに横になって頂けませんか? 一応、全身の検診をしたいので−」

そのドクターのセリフ、総合参謀が若干ラグをもって遮る 「すまんドクター、バイオニックはこの期に及んでまだ機密保持ランク5なので、君のオフィスを借りれないかね?」

ちょっと怪訝そうに顔を見合わせるドクターと機関長− 「ええ、構いませんわ!」

 不思議な空気の中、3人は医療室の1番奥にあるドクターのオフィスへ。

入室すると総合参謀は2人に向き直り、「実はバイオニックには、全く異常がないんだ− 問題なのは、ピカーク大佐の事だ。」

2人は身体をのり出し 「ジャムが、なにかしでかしたんですか?」

「ドクター・・・・」 言葉を選んで総合参謀 「君は彼の遺伝子情報の一部に、機密保持コード1662が存在する事は当然知っているね?」

彼女は目を見開き、「ええ、勿論− 私もかねてから、知りたいのは山々でしたけど・・・・あらゆるセンサーでそのキーの為にその部位だけ表示ブロックされていましたから、いつ治療に必要になるのかと、ヒヤヒヤしてましたわ。」 機関長をみやり、 「私達に開示してくださって、いいんですね?」

「ピカークが最も信頼しているのは、君達2人だろう。」 頷く総合参謀 「私の解除コードで解除するから、彼の遺伝情報の完全版を取り出してみてくれないか・・・・」

「解りました−」 ドクターは端末からコードを打ち込み、提督があとに継ぐ。やがてオフィス壁面を覆うディスプレイに、ピカークの遺伝子配列図が現れた−

「解った!」 ドクターが声をあげ、 「彼はナノ・プローブに、生まれ付き抗体があるんだ!!」

まだ事態を把握していない機関長 「一体、どう言う事?」

 「ナノ・プローブは、母体の活性遺伝子を利用するのだが、彼の場合、その生命力と運が全く欠けているのだ。」 総合参謀、淡々と補足する

「聞いたことあるわ−」 機関長はパッと顔を輝かせ、「オツムが弱すぎて、ボーグが相手にしない生命体がいるとかって・・・・」

「似たようなケースね・・・・」 ドクターは、配列とまだにらめっこ 「これでなぜ、あのぼんくらなジャムが航宙艦のキャプテンになれたか、理由がわかったわ−」 総合参謀に面し、「−対ボーグ戦用の、切り札だったのね!」

「その通りだ、ドクター!」 総合参謀は、わが意を得たりと! 「実は彼は ”成熟チャンバー” にいた経験がある− そこがボーグ艦であることに気付き脱出したのは、若干10代のピカークただ1人だけだった− 彼には  ”負け犬” と言う概念がないのだ。その頃、丁度通りかかったスポック大使の艦に救われ、彼は数日スポック大使と過ごした− その中で彼は、自由に生きて構わない人生があることを、再度悟ったのだ・・・・」

「その話、聞いたことがある・・・・」 ドクターがぽつりと感慨に 「別れ際に渡したプレゼントのオカエシが、ちゃーんとヴァルカンから届いて、感激したって− まさにミスター・スポックとの出会いが、彼の人生の礎だったのね・・・・」

総合参謀は厳しい面持ちで、「さてさこで、君達には非常に難しい任務を与えなければならない− 本人にもクルーにも知られない様に、ピカークをボーグ艦に侵入させることだ・・・・ボーグに抗体を持ち、中からキューブを破壊できるのは、あの男しかいないからだ!」

 

 ピカーク=ロボ、満面のシルバーな笑みにて、「・・・・と、言うわけさ!」

「・・・・思い出した・・・・」 息も絶え絶えに女王様 「・・・・お前はチェンバーの仕組みに気付き、我々はお前を排除すべく、あらゆる手を尽くした・・・・折角システム的ダメージを与えたにもかかわらず、お前は連邦の手で救われてしまった・・・・」

 辺りのドローンがピカーク=ロボを抑えようとしたが、自前シールドが見事にそれを跳ね除ける!

彼はは叫ぶ 「そう− さっきのは、お前達の作ったシステムそのおかげで、青春をなくした俺の分・・・・」

 もう一発装填− 発射!! 「・・・・加えて、同じく、才能を潰された子供達の分!!」

 撃たれた胸を抑え後ずさりしながら、女王様は 「・・・・変わっている・・・・お前は、変わり過ぎている・・・・」

 「お褒め賜り、身に余る光栄です!」 さぁて、頼んでおいた特殊機能だ− ピカーク=ロボは、トリガーをガチャン、と! 「・・・・そしてこれは、失われた教育費の血税分だ!」 特性  "コンクリート弾"  を装填− 爆射!!

 凄まじい爆音と共に、女王様はコナゴナに爆裂する!

更に、新しい "女王様ボディ"  に狙いを付け、「悪しき前例だ!」

 引き金を引き、ボディは跡形なく、バラバラに!

ピカーク=ロボ、キュイーン、と首をあげ、「あー、すっきりした!!」

 主の崩壊が合図となったか、途端辺りのドローン達が制御を失い次々と倒れ、加えてボーグ・システム全体に艦隊の攻撃とあいまってスパークや火花や炎が沸き踊り、爆風が彼の金属化された頬をなでる−

 すると転送音と光が走り、アトムとホロドクターと、エミッターを付けた光電子製のホロクルー達が数体、近隣に実体化した− 目前のピカーク=ロボを発見し、全員がギョ!

 アトムがオゾオゾと 「船長・・・・"スポーツ選手" と "ミュージシャン" と "お笑い" とかけて?」

ピカーク=ロボ、また首をキュイーン! 「キヤツラ、○××(丿>ロ<)丿 ┤∵:.△×!!」

アトム、満面の笑みで 「うわぁぁ! やっぱり、船長だ!!」

 それを聞き及び、ホロドクターが飛んで来る! 「大丈夫かね?」

「ええ、おかげさまで!」 ピコピコっと、かざされるトライコーダーの音にのせて 「なんか、かえって元気だヨ。」

表示を見てホロドクター 「ふん、さすがウェルズ博士だな・・・・見事に表皮近隣でナノ・プローブがロボ・ミューテッドされている−」 突如、怪訝に 「うん?? 表皮から先、ナノ・プローブは全く侵入していない・・・・全て活性を失い、死滅している− 驚いた! 何と言う生命力のなさだ!」

 「そんなことより、ホロドクター、」 ピカークはすぐ傍らにいた例の保安主任のドローンを、元の体では全く不可能だった憧れのお姫様ダッコして 「彼女はどうだ? "ビックになりたい"  なんて、言い出さないか?」

再びトライコーダーで 「ああ、皮質ノードの再構成は殆ど手付かずだ −元の優しい娘に戻れるぞ− もっとも向上心を持つこと自体は、悪い事とは思わんがね!」

ピカーク=ロボ、途方もなく安堵 「よかった! 俺に愛情がないばっかりに、何人それで失ったことか!?」

ホロドクター笑い立て、「あー、そいつだけは、ずっと望み薄だね!」

 アトムから、 「船長! 元保安部員らしきドローンには、皆全て通信記章を付けました!」

 ピカーク=ロボは辺りの惨状に、「よーし、ちこっと暴れすぎたから、クレーム来る前にとっととズラかるゾ!」

 

 一行を包んだ光は、頻発する爆裂の光と危うく混じる所だったが、寸での所で難を逃れた!

 やがて、その爆裂はセントラル・コンプレックス全体を被い、キューブを被い、散逸した光の弾があたかも太陽の如き輝きを撃ち放つ− まるで、宇宙艦隊の勝利を祝う豪勢な花火や祝砲であるかの様に!!

 

 

 さぁて、ブリッジのドアがさっと開き、すっかり元通りの姿に戻ったピカークが、ドクター・ホロドクター・機関長・新転送主任、そしてサクラのママを従えて超ご機嫌な様子で現れた! ああ、またもや我が家に帰って来れたんだ!!

 満面の笑みでひとこと!! 「また文明を救ったナ!」

先ずはすっかり立派になった新保安主任が迎え、「無事でよかったわね!」

「そちらこそ! 侵入して来たボーグを、犠牲も出さずに撃退したそうじゃないか!」 ちょっと頬に頬を当てやる− まぁ最後だから、いいではないか!

 「見事な操舵、おめでと!」 カウンセラーに 「今度は僕も、どうぞよろしく!」

「やなこってす!」 カウンセラーは楽しそうに 「また新しいカウンセラーを探してくださいネ− 但し、くれぐれもストーカーと勘違いされないように!」

ニヤニヤと 「もー、サンザン、懲りまーシタ! 今度のプレゼントは、老眼鏡にするよ!」

 で、やってきたアトムと操舵長の握手と歓声!! うれしいねェ!

 そしてそして・・・・あの、まるで少年の様な笑顔の新副長のもとに到着!

「ありがとう、副長・・・・この艦は自爆させずに済んで良かった・・・・君がシアワセになれて、何よりだ!」 ちょっとテレくさそうにしているその新副長を前にして、ピカークは手招きして機関長も呼んだ− 機関長はドクターに促され、スロープをこっちにやって来る・・・・

「さて2人にプレゼント! 1年も遅れちまったが!」 ピカークが両手を広げると、腕にはダブルであのブレスレットが・・・・

 一瞬ののち、両手に眩いばかりの花束が転送される!!

 「ふたりとも、結婚おめでとう!」 ふたりにその、ココロヅクシを!

ちょっぴりイキな計らいとみんなの拍手に、ふたりはホント、嬉しそう!

「ありがとうございました− 船長・・・・」 ウルウルと涙で、新副長 「思えば怪しげな艦隊士官の交通違反を見逃してから、艦内公演含めて、宇宙艦隊とは不思議な縁でした・・・・でも今は艦隊を理解しているし、愛しているつもりです・・・・」 ガハハハッとアタマを掻いて、「・・・・って言えれば、いいんですけど!」

 機関長いわく、「わたしは、ムリからひっぱり込まれただけだけど!」

すかさずピカーク、耳元で 「誰かさんへのイキな計らいへの、私からの気持ちさ!」

機関長、ひゅーっと口を鳴らし、マンザラでもナサソウ!

 でもって改めて、「2人とも、俺の不幸をフミダイにするんだから、絶対にシアワセになるんだぞ!!」 知らないうちにピカークの脇に来たドクターが、拍手しながら肘でコツいた− あれ、いつの間に髪染めたんダ?

 「船長! オースティン総合参謀から通信よ!」 新保安主任より!

「スクリーンに!」 ピピッ! 相変わらずナイスガイな参謀の姿が現れた− 先方のブリッジはまだちょっぴり、お片づけ中のようだ。

 「よう、ジャム! 見事に任務を果たしてくれたな!」 ニヤリっと、参謀!

「提督もお人が悪い−」 ピカーク、困ったフリして 「わざと私をパクらさせましたね?」

「あれ、そーだっけ?」 参謀はおどけて 「まぁ一応、この場で謝っとくよ!」 それからちょっと真面目に 「残るキューブが1基、退散してった− あとのことはまあ、帰ってくるだろうあの艦に任せよう!」

お返しは何がいいか− 「提督− なんでも聞く所に拠ると、時間管理局を正式な時間艦隊に編成する案をお持ちだとか?」

「そうなんだ−」 椅子にかけ直し 「−局長のタイガー田中と次長のゴリさんに掛け合っているところだが・・・・」 ここで参謀、言葉を止めて 「・・・・私がこんなギャグ口にすること自体、宇宙艦隊を何かのクイズ旅行と勘違いしている輩には、全くわからんゾ!」

もー、楽しくてたまらないピカークは、「およそ、出演者でさえ知らないでしょう!」

「それじゃぁ、ジャム−」 そこぬけの笑顔で 「元気でナ!」

ピカークも少年の日に戻り 「提督も− 奥様によろしく!」

 ピピッ! 通信終了!

 あれ、新保安主任はラスト・サービスか、レアなミニ・スカ制服で美脚を披露してたんだ! 「次は、ラミウス提督よ!」

 ピピッ! スクリーンはあの、野性味溢れる世紀の二枚目の姿を映し出した− 「・・・・タイガーか・・・・懐かしいな・・・・」

「またお忍びでゴールデン街にいらしては?」 ピカーク、スクリーンに寄って 「私も同席できると、嬉しいですがネ!」

「100年早いぞ、小僧!」 髭がなんとも神々しい 「しかし、今度は良くやった! 正に、『一寸の虫にも五分の魂』 だ− ヤツラにも些か、こたえただろう− スカッとしたぞ!」

なんか正直、照れくさい 「いえいえ、ただ生まれつきの体質なだけで・・・・」 で、翻って 「で提督は、これからどちらに?」

彼は被っていたマドラス帽をイタズラっぽくハスに構え、「そーだな・・・・ひとりぼっちのスペース・マンは、太陽風の向くまま、気のむくまま、さ!」 笑顔がまさにワルガキそのもの! 「・・・・小僧・・・・一緒に遊べて、楽しかったゾ!」

「こちらこそ、提督−」 これほどの本心はない 「本当に、光栄でした−」

敬礼してみせるラミウス提督の姿をあとに、スクリーンは再び切り替わる−

 「今度は・・・・言わなくてもいいわね!」 と、新保安主任!

 ピカークはそのスクリーンに映るマジカル・レストランのブリッジの様子に、思わず− 「副・・・・」 イケね! 「・・・・いや、艦長! ひさしぶり!! 今度と言う今度は、ほんとーにありがとう!」

その "艦長" は、美男美女ひしめくクルーの中でひときわ輝きながら、指令席の前にしっかと構える− 「こちらこそ、またまたピカーク船長のドジッぷりが拝見できましたわ!」 相変わらずだ!

「そうそう、艦長、私が ”公共料金廃止党” から立候補した暁には、是非選挙応援に来てくれないか −私も某市長の4世だ− 世襲の資格はある!」 にこやかに、ピカーク!

オカエシに彼女は、脇のテン・サウザンをサッと引き寄せ、「あーら、船長! このテン・サウザンがいなければ、みんな助からなかったわ− ツッパッテないで、素直にボーグ・テクノロジーにも敬意を払うべきよ!」 あらあら、またまた1本とられちゃった!!

そのテン・サウザンは、「私はあの男に、サクラをめいだ乳母車ごとシャトルでひかれそうになった− シアワセすぎて、よく人間に妬まれる!」

ピカークは、やっぱりピカーク 「おいおい、本当に集合体から切り離されたのか??」 こーして2人並んで足して2で割ると、ホント、ヨコハマの女そっくり!

「おーい、こいつの事、よろしく頼むな!」 健康そうなあっちの副長が、あの美麗な操舵手の肩に手をかけ。

ピカーク、嬉々として敬礼! 「モチロン! 言われずとも、ずっこんオーエンですばい!」

「おあとがよろしい様で−」 艦長は、あの極め付け上品なほほえみに 「それじゃぁ、ピカーク船長− そして、ハーレム・クルーのみんな、どうぞお元気で−」 で、ちょこっと手をふり、 「ドクター、保安主任− またあとで!!」

 ピカークも改まり、「お達者で、艦長− ご活躍とお幸せを!!」

 スクリーンの気品に満ちた女神像は、ゆっくりとU.S.S.マジカル・レストランの勇姿にフェード・イン− ソベリン級の見事なその艦体は、恒星の光を一身に浴び輝き、優雅に併航していたハーレムから去ってゆく・・・・

 その光景を見ながら、手をちらっとふり返していたドクターが新保安主任に近寄り、「でっかい艦ね・・・・」 と、感慨深げに。

新保安主任はドクターに、 「ジャムに寛容な、艦長の度量もでっかい!」

 ふたりは見合って、大爆笑!!

ピカーク、それを受け、 「ドクター、本部勤務の辞令が出たんだろ? 艦隊医療局の局長選挙に出た暁には、俺が応援にいってやってもいいんだゾ!」

「あーら、ジャム!」 指を1本立ててドクター、「ここは医療過誤も肉弾戦もない理想の24世紀よ− これって、あなたお得意のセリフだったんじゃない?」

ピカークにはそのセリフ、ウケたらしい− 「すっかり忘れてた!」 −クックック!

 「で、ジャム−」 機関長が脇から 「演説のお時間じゃないの?」

「おお、そーだ!」 突然、ホロドクターがしゃしゃり出た! 「ピカーク君! ちょっと待っとくれ!」 その合図と共にターボリフトから、楽団員が楽器持参でぞろぞろ出現!

「欠席したゴールドスミスの代わりに、私自らタクトをしんぜよう!」

 ホロドクターが、スロープ一杯に構えた楽団に向かって、指揮棒をふるう! 『宇宙艦隊のテーマ』 がハートを酔わす、何とも言えない叙情をもって奏でられた− そう、あの懐かしき日、ジェイムズ・カークが改装された ”彼女” を見詰めたその日の様に・・・・

 指令席前、やや斜めに構えたピカークは、左肩を心持ち掲げると、天を仰いで言い放つ!!

 「我々は常に自励的秩序を以て社会に臨まねばならない −それは誰をも則さず、恫喝せず、比較せず、排斥しない、相互扶助の精神を基本とすべきだ。時には競争も必要な時もあるだろう −しかしそれを、強者の怠惰と弱者の羨望のはけ口として据えてはならない− その虚に必ず、ボーグがやって来るからだ! 奴らはそれが平等にしろ公平にしろ平衡な社会を作り出し、自責の念と畏怖を駆使、生命体をその1兵卒として全く同じ  "常識" により統率せんとするだろう− 宇宙は必ず、熱死へと導かれる筈だ!」  ここで一息ついて、みんなを見据え、「宇宙が常に、生きてし生くるものの為であるが故、我々は多様な存在を慈しみ育む− それが宇宙がこれ在る、目的と価値そのものなのだ−」 ここで力を込めて 「−惑星連邦と宇宙艦隊に栄光あれ− ネヴァー・ギブアップ! ネヴァー・ネヴァー・ネヴァー・ネヴァー・ネヴァー・ネヴァー・サレンダー!!!!!!」

 ポツリ・ポツリ・・・・の拍手が、やがて割れんばかりの拍手に代わった!! キャプテン・ピカーク、ここにこそ在り!!

 「ブラボー! ブラボー!」 ホロドクターがアンコールの様に手を鳴らし、紙吹雪がブリッジに舞い踊った!

 だが−

その知らせは、声をはりあげた新保安主任のブースから・・・・ 「船長! 艦隊司令部からの通信よ!!」

 一斉に拍手が鳴り止む− 「『ボーグとの戦いが一区切り付いた今、ハーレムは一端地球に帰還し、ピカーク大佐においてはその任を解き、この度の活躍を考慮して准将に昇進、同時にかねてより懸案であった "トイレ"  問題担当委員会委員長に任命する− その詭弁の才を十二分に発揮し、科学的整合性に粉骨努力してもらいたい!』」

 ブリッジは、シーンと静まりかえった− ピカークも、ちょっと突然の事態に当惑気味・・・・

 アトムがその沈黙を破る− 「『そんな命令、クソ食らえ!』」 珍しい暴言に一斉に注目を浴びると、「僕が人間なら、そー言ったと思いますよ− 基本的なダジャレですけど!」

ホロドクターが透かさず呟く 「ホホーッ! これで私も立派な人間だ!」

 で、傍らにいた新副長と機関長が、一斉にピカークに花束を渡しかえした− 「お疲れさまでした!」

 ピカーク、勢い指令席に座り付き、「花束もらったの、生まれて初めてだよ!」 クビを持ちあげ、段差ある真後ろの保安ブースにスカートの中身を覗かないよう注意しながら、怪訝に新保安主任に問い正す− 「で、俺のこーにん辞令は、誰に?」

「ふっへっへ!!」 鼻を指で指しながら、勝ち誇った様に "新艦長" ! 「このア・タ・シ!!」

 ゲゲッ! マジで!?

 ピカークの耳元に機関長 「あたし、やっばり寿退隊しようかな!」

 ドクターが、呆気に取られながらも結局覗き見を試みているピカークの顔をむんずと元に戻し、 「ほら、最後の命令よ!」

 気を取り直してピカーク、ゆっくりと指令席に身をゆだね、機関長をちらっと伺ってから、また遥か宇宙に臨み、「『右から2番目の星に、夜明けまでワープ!』− だったよな?」 更にみんなをゆっくりと眩しげに仰ぎ見て−

 ありがとう −5年間、みんなには本当に感謝だ− ありがとう!!

 再度正面に− モチロン、指を掲げて!!

 「発進!!」

 

 

      恒星日誌:宇宙暦657808654126828.8

 こうして、5年間に及ぶ私のU.S.S.ハーレムでの指揮官としての任務は終了した!

もう、ラザロが墓穴から蘇っても、ビジャーやクジラがやってきても、

私がこの中央席に座ることはないだろう・・・・

この艦の歴史と冒険の旅は、きっと誰にも引き継がれはしないと思うが、

誰かがちょっとでも、宇宙艦隊の素晴らしさを感じてくれたら、それで嬉しい−

 勇気を以て、誰も考え得なかった境地へと、はばたく為に!!

 

 

U.S.S.ハーレムは、前途恒星の輝きの中また光を受け、自らをもその光と化した−

なにせ人類の冒険は、まだ始まったばかりなのだから!!

 

 

スタートレック:ハーレム 今度こそ、完!

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