最終話 「未来への、意味ある抵抗!」

第1章

 

恒星日誌:宇宙暦657808654126822.2

 遂にこの時が来た− ボーグとの決戦・・・・

4機のボーグ・キューブは、アルファ宇宙域辺境のカスミガセキ星系に陣取る。

こちらも布陣してまる2ヶ月の対峙− 奴等は全く動きをみせない・・・・なぜだ?

それにしても果たしてこの戦い、ジョークの域で収まるのだろうか? ブラック過ぎて、読者がヒクのではないだろうか・・・・?

 とにかく、無事に勝利を迎える事を祈るしかない・・・・

 

 ボーグ・・・・憎っくきサイバー・ゾンビ・・・・惑星連邦最強の敵・・・・

やれ8472だドミニオンだ、と言うけれど、その哲学的バックボーンは他の追随を許さない・・・・

 そして今、ブリッジのメインスクリーンは、相変わらず無気味な全長数キロものその立方体4個に占領されていた。ピカークは普段のボケナス顔はどこへやら、その様子を指令席からじっと眺めている。無論更に後方には、ドミニオン戦に継いでクリンゴン艦隊をも含めた数百隻もの連合艦隊がケチなこと言わず、ワンサとひしめきあっていた。

 おや −突然、目の前に報告用ボードが突き出される−

手繰り寄せると、その先にはお馴染みの観音様が何時もの様に笑っているのか、からかっているのかわからない顔をして突っ立っていた。

「頼まれてた対ボーグ用量子マシンガンの仕様書− 放射能が発生したとしても、うまくボーグの携帯シールドで内部からシャットアウトされちゃう様に計算しました。」

「ありがと!」 ピカークはボードを受け取り、その中身、知ったかぶりに眺めたうえで質問した 「確か君は、ボーグ・キューブの中に入った経験があるんだったよな・・・・」

「ええ・・・・」 彼女にとっては、思い出したくもない出来事に違いあるまい 「いまさら描写の必要もないけど、彼等は列をなしてただ黙々と作業に順じていた− ちょっかい出さなきゃ攻撃してこない事はわかってはいたけど、さすがのあたしもあんなアトラクション、楽しくはなかったわね・・・・」

ボードから目を離す 「ひとりだったのか?」

「いいえ・・・・男性士官がひとり・・・・でも彼は最終的にはあたしを助けて・・・・」 彼女はちょっぴり目を伏せた− 結果はそれだけで充分伝わった 「これがほんとの、『ミイラ取りがミイラ』 よね・・・・今もあそこにいるかも・・・・」

ピカークは同情の念を持つかジョークで明らめるか迷い、おどけた様子で後者をとる 「で、キミは一体その『ミイラの巣窟』から、どうやって逃げて来たんだ?」

またもやその意図を汲んでか、彼女もにこやかに 「ボーグを欺くのには何と言っても擬似ユニットを装着するのがメジャーだけど、私の場合特別仕様の 『女王様ユニット』 を装着したの!」

 ピカークは思わず吹き出した 「きっと『ボーグの女王様』に化けて脱出したのは、あとにも先にもキミが最初で最後だろう! そのカッコでいっぺん蹴られてみたかったネェッ!」

そのセクハラ・セリフをちょっと睨めしそうにニヤついて、機関長は取りかえした報告用ボードでピカークの背中を思いっ切りヒッパたいた− イテテテッ!

 更に様子を一部始終見ていた、新しく設けられた指令席真後ろの総合保安席 −なんとカヴァーがヴィトンで肘掛けがプラダの特注!− に構えるコ悪魔が、

「ジャム、これからセクハラは、ビシビシ取り締まるよ!」 と、くれーむ。

ふりむいてピカークはしかめっツラを以って 「じゃむ?」

新保安主任はてらいもせずに 「悪い? だって、あたし副々指揮官だもん!」 そしておもむろに 「ね、カウンセラー、仕事でしばらく出張なんでしょ? 代わりに兼任してあげよっか?」

ピカークは残念そうに 「彼女の出張、取り消し!」  なんか、心なしか明るく装って 「実はウチの近所のアカデミー在学中のカウンセラーを臨時に代理少尉としてスカウトしようとしたんだが、近付いて話しかけた途端、顔を硬直させて逃げ出されてしまった・・・・やっぱ民間人だから君達と違ってきちんと本人の承諾を得ようと思ったんだが、無理だったかな −今度の目玉企画人事は、ご破算!− 正に説教部屋イキはわたしだ!・・・・あはははは! あー」 だが近所を見渡すと、既にボーグ・ネタ以前に客がヒイていた・・・・

 あれ?

「ジャム・・・・」 機関長が、さも優しげにそっと耳打ち 「その娘、この前あたしの目の前に座ってた娘?」

「・・・・」 ピカーク、余りの皮肉な事態に、冷や汗と共の絶句!

そんな空気どこ吹く風の新保安主任は新保安主任で、「イジメテあげようと思ったのに、なーんだ、つまんないの!」 で、ぽんぽんピカークの肩を叩き、「ねっ、船長− 契機付けに、いま何食べたいかあててあげよっか!」

機関長が脇で頭に手をあて、「あ、もうその手の読心ネタ、こりごり!」

ピカークはお付き合いで 「はいはい、是非当てて見てください− 最近百円単位のものしか食わなくなってから、全く食欲がうせちまったんで、ほんと、こっちが教えて欲しいくらいだよ!」

「じゃぁ、やるね・・・・」 新保安主任はお決まりのポーズで指を頭にあて− 「アレ・・・・?」

「なんだ?」 けげんそうな、じゃむ。

「船長・・・・」 深刻そうに 「近所のスーパーの88円のカップラーメンしかうかんでこない・・・・脳味噌から味覚に関する情報がなくなっちゃってる・・・・やっぱ本職のカウンセラーじゃないと、治療出来そうにないよ!」

機関長が脇で笑い倒れていた− ピカークはいたたまれないここちで、「ありがとう− 良く当たるね、その占い。」

「ねぇ、ジャム・・・・」 笑いが収まりながら機関長が 「・・・・ぼつぼつ、ドクターの番組の始まる時間じゃない?」

あ、そうだった! 「では保安主任様、すまんがケーブルチャンネル3をメイン・ビュアーに出してくれ− 規律的には若干不味いが、今度ばかりはドクターの晴れ舞台だ− かまわんだろう!」

 実は例の連絡が取れる様になった 「警部の元カミさんの艦」 から、デルタ宇宙域でボーグ研究を拡充させたホロドクター・プログラムのコピーが送信され、それをドクターが彼女なりに改良し、今度のボーグ戦に臨む事となった・・・・ついては、その医療記録等を解説する番組を、全艦隊向けに放送する事にもなったのだ。一体どんな番組になるのか・・・・

 

 スクリーンにはどこから借りてきたのか、思い切りおしとやかで気品溢れるドクターの姿が先ずは映る 「連合艦隊のみなさん、こんばんわ− 健康アワーの時間がやってまいりました。今日から4夜に分けて、デルタ宇宙域において数々の武勲をお立てになったホロドクターを解説者としてお招きし、医療に関する知識を深めて頂こうと考えています。」 簡単な会釈で 「ではホロドクター、宜しくお願い致します。」

カメラはパンして、隣の席にやにシャに構えた男を映し出した− そのホロドクター・プログラムは、あのドクターが毛嫌いしていたオリジナル・プログラムより若干改良されていて、幾分健康的で鷲鼻も鼻筋の通ったものに変えられていた− あとは・・・・

「あれ、てっぺんがいささかにぎやかだゾ −確かオリジナル・プログラムには、1本もなかった筈だが− ドクター、まだアデランスにコネがあったんだ!」

横の機関長いわく 「その内、怒られるよ!」

イタズラ小僧は肩をすくめ、 「もう、怒られたさ!」

  

 ホロドクターは、実に快活だ 「みなさん、今晩は! 今日は私がデルタ宙域でデルタン持って吸収した知識を、チシキンとお教えしようと思いマンモス!」

「?」 横のドクターは、あのくりっとした目を若干ぱちぱちさせた

「−まず対ボーグ戦には、耐乏生活が必要ですね! また警察の対暴なんかも必要かな? そうそう、剣道にはもちろん、防具! ボーグまるもうけ、なんて、パクリだったなこれは! うっひゃっひゃっひゃっ!」

明らかなプログラムの異常に気付いたドクターの目は、クリクリなどと言う可愛らしい状態を超越し始めた 「あの− せんせ!!」

ホロドクターは全く意に介さない 「先生は、専制攻撃! だからその、ボーグに遭遇したら、装具のなかの防具を装着して、みをもんたしなければならんな!」

 

 この明らかな放送事故を、スクリーンの前でオーバー・リアクション気味に抱腹絶倒している男がいた−

その男に向かい、さっきから首をかしげているアトムが 「船長、これは私が記録したジョークの中でも、最も最悪と注釈のついた、いわゆる『ダジャレ』の類いですね−」 画面を指差し 「これが面白いのですか?」

涙を流して笑っているピカークに対し、脇の機関長は極めて冷徹 「よく殆どド素人なのに、ホロ・エミッターへポジトロニック・量子励起式リアクタ−から生じる共鳴ソリトン・ウェーブを拡散照射させて光粒子仮想シナプスに異常を起こさせる事を思い付いたわね・・・・一体誰の持ちネタ?」

 ちょっとばかり笑いが止まったピカークは、機関長を驚きの表情で見やる−

 

 まだ演説は続いていた 「・・・・従ってこの常駐テトラ・アルチミンが、脳の活性アミノ酸とアルチ一緒になって、トリクロロ・ベルチナーゼを分泌させて、トリクロシ苦労をするわけね! でもって このいわゆるゲッチンマン・セクター、いいかえるとチンチン−」

 ここでドクター、遂に爆発! 「はい、せんせー! ありがとうございました! 残念ながら時間が来てしまいましたので! かなり早いですが番組を終わらせて頂きま−す! プログラムが安定してから、また次回をお送り致しますね!」 ひきつり笑顔で 「お楽しみに!!」

 まだ喋り続けているホロドクターの声はフェードアウトし、怒りに身をふるわせたドクターが遂にキレて机に拳をおったてて、彼に向かって 「いいかげんにしなさいよ!」 と怒鳴り散らしている様子(もちろん、音声が切れているので口パクのみだったが)が見て取れた瞬間、画面は 「名曲アルバム」 に挿しかえられた・・・・

 

 ブリッジは、再びシーンとなった・・・・みんな、あとの修羅場を想像してでの事だ。

「あー、」 機関長に聞き返す 「さっきの、なんの話?」

「つまりね、誰かよからぬ奴がしかけたイタズラってわけよ、今の様子は。」 機関長は後ろ手に片眉をあげた 「怨恨の線が濃いですね、船長?」

ピカークの方と言えば、「なに? それはいかんな− 保安主任、それでは犯人を徹底的に調査しろよ。」

で、その新保安主任は 「はぁーい、そーしまーす! 先ずはホロデッキ4へのプログラム・アクセスの一覧を、艦隊士官基本台帳の番号と照らしてみまーす!」

じっと、機関長に見つめられるピカーク 「なんか、顔に付いてるか?」

「いいえ−」 彼女はにっこりと 「ただ、お気の毒になーっ、と思って。」

 

 シュポッ! これは確か昔のターボリフトのドアの音の筈だ・・・・なんで今更こんな音がするんだろ?

 そこには説明する必要もないが、普段なかなか見られない鬼のような形相をしたドクターの、今にも噴火してしまいそうな姿があった・・・・

「おのれ・・・・私の初レギュラー司会の番組を・・・・のっけからめちゃくちゃにしたのは、どこのどいつだぁぁぁぁっ!」

ひと仕事終えた新保安主任がにこやかに 「いま、しらべました〜!」 そしてピカークを指差し 「こいつで〜す!」

「きさまぁぁぁぁっ!」 ドクターはピカークに突進すると、首根っこを有無を言わさずしめあげて、そのままスロープの手摺に抑えつける!

「さぁ、今日こそは聞かせてもらおうか・・・・一体あたしを応援しているのか、からかっているのか、どっちなんだっっ!!」

「ぐげげげげ・・・・」 ピカークはイキも絶え絶え 「・・・・3,7の割合で、おーえんし・て・マ・ス・・・・」

「応援が3割かよ!」 いよいよピカークの体は宙へ 「解ったら、さっさと受信料払えっ!」

「・・・・ハライタクナクテ、ハラッテナイノデハ・ア・リ・マ・セ・ン・・・・」 もう、失神寸前!

 

 その時、再びターボリフトのドアが開いた− 

 「あら!」 そこから出て来た人影に、思わずドクターの手が緩む− 

 ドタッ! これは、ピカークの尻餅の音・・・・

 そのリフトからは2人の人物が現れた− ひとりは身長が190はあろうと言う黒い実にイカしたジャケットに身を包んだ相当の色男、もう1人はその男に幾分か抱えられた新副長だ!

「あれ、なんでこんなとこにいるの?」 その色男は、ドクターを見付けてぴっくり! 加えて横にいた新保安主任にも気付き、「あれ、お前も! 腕、あげたか?」

「えー! どーしたのぉ!」 彼女も彼女で 「今、腕だめししてたばっかなんだよぉ!」

「それがさ、宇宙基地で彼女、腹が痛いって言い出して、送って来たんだ− 大丈夫かな・・・・」 と、脇の新副長を優しく差し出す−

さっきまでの不機嫌はどこへやら、ドクターが駆け寄った− 「医療室に行く?」

「だ・だ・大丈夫です・・・・」 確かに若干顔色の悪い新副長 「随分良くなったんです− ちょっと休めば直ります・・・・」

ドクターと機関長に抱えられ、彼女は副長席に横たえられる。

トライコーダーの表示を見たドクターは 「ストレスの様ね・・・・具体的数値自体に異常はないわ・・・・」 パチン、と蓋を閉め、 「キャビンで、すこし休めば?」

新副長は、なおも 「・・・・いえ・・・・平気です。」

「無理しちゃ、ダメよ。」 ハイポを彼女の腕に、しゅっーっと1発 「安静にしててね。」

 ややあって機関長にあとを任せたドクターは、楽しげに喋っているその男と新保安主任の会話に参加すべく、スロープを戻って来た。ぶっ倒れてたピカークは、尻を撫でながら痛々しくそんなドクターに、

「お知り合い?」

「ええ!」 さっきとは打って変わってご機嫌で 「この人とは腐れ縁なの! 1度目は仕事の関係で離れ離れになっちゃったんだけど、2度目は一緒にカケオチして、そして3度目はあたしのカケオチ手伝ってくれたの!」

相変わらずケツなでながら 「ドクターも、随分と昔は発展家だったんだな・・・・」

徐に、「いけね! 俺、帰らなきゃ!」 話かけんとしたドクターに 「悪い− また今度ゆっくり!」 その浅黒い間違いなくバラ系表紙のトッブを飾っている2枚目は、そうキザに言い放つと各方面にカッコよく合図した

 ピカーク、情けなく近付く− 「あのー・・・・」

「はい?」 怪訝そうにその男。

「わたし、この艦の船長で、ジャム・ピカークと言います− 芝居、見させていただきましたよ。」

「あ、それはどうもありがとうございました!」 おっ、意外と改まって丁寧に。

「"製作者"には宇宙艦隊の件でいろいろとお世話になりまして− どうか、よろしくお伝えください。」

「"宇宙艦隊"?」 その男はマジで聞き返す−

ピカークは両手を広げて肩をすくめ、あたりを見ゆらし、「この世界、ぜんぶ!」

その男もひととおり辺りを見晴らし、「ああ、なるほど」 そしてピカークに向かって極めて真摯に 「どうぞお大事に!」 それからあっちの新副長に 「元気でな!」 でもってドクターと新保安主任にも 「それじゃぁ!」 と、ひととおり挨拶して、颯爽とターボリフトに消えてった。

その手前の女性陣2名も、極め付けの笑顔で手をふる− 夢見がちのしぐさで先ずはドクターから、「ああ、うちのキモダサ船長と1つ違いなんてとーてー思えない!」

同じくウットリと新保安主任は、「ひょっとして、同じ人類じゃないとか?」

オチはピカークで 「タモツルのコーナーが懐かしいね!」

 その実にくだらないセリフに覚めたふたりは、ドッチラケで部署に戻ろうとする−

「なんだか前に、ほんとにあんな会話をした気がしたんだが−」 ピカーク、首をかしげて 「やっぱ、デジャブか?」

 そこへ、ゆっくりと新副長がやって来た 「あのー、船長?」

首をさすりながらピカークは 「へーきかい?」

彼女はお世辞にも元気のない様子で 「・・・・ちょっと、お話があるんですけど・・・・」 そこには、いつもの明朗快活がウリの姿はない。

「ああ、構わんよ−」 そして新保安主任の肩をちょんちょん、と叩き、「指揮を頼む!」

「アタシ?」 目をキラキラさせながら指で自分の鼻を指し、このうえなくご機嫌に 「はぁ〜いっ!」

半分呆れ気味にかるく咳ばらいしたピカークは、ドクターと機関長を見やってから、新副長を連れてスロープを船長待機室へと向かった・・・・

 

 待機室に入り、新副長はやや力のない直立不動で机の前に。ピカークはレプリケーターに向かう−

「元副長がおいてった紅茶のレシピにドクターと機関長がやいのやいの言って、結局かなりいじられちまった・・・・きみは何を飲む? 蜂蜜入りミルクティなんてどうだ?」

彼女はらしくなく伏目がちに 「いえ、ほんとうに結構です・・・・」

「ならば失礼して、ピュア・アールグレィをホットで!」 マター・ストリームがきらめく

「あのー・・・・船長・・・・実は・・・・」 彼女は口が重そうだ

「なんだ、君らしくもない!」 ピカークはカップを取り出す 「君と私の中だ− 遠慮なく言いたまえ!」

彼女は突如勢い良く 「あたし、寿退隊したいんです!!」

 解り切ったギャグだが、ピカークはオオコケして、アールグレィをもろ頭から被った

「♪あ〜あ〜あああああ〜♪」 その思わず口にした奇妙な旋律の付いた嘆きに、ハイスクール時代 『サダマサシに似てるからスキ』 と言われて複雑な心境に至った頃を思い出す・・・・

「すみません・・・・就任したばっかりなのに、申し訳ないです・・・・でも・・・・」 彼女はすっと両手を組んで夢一杯に 「これって、運命だと思ったんです・・・・ぜったいに!」

「そっか・・・・それじゃ、しょーがないよね・・・・」 ピカークは濡れネズミのままデスクの引き出しにやってきて、一通の封筒を持ち出して掲げた 「実は君には打ち明けても良いだろうが、こうして機関長のも預かっているんだ− まだ正式じゃないけど。」

 その封筒には実に綺麗な毛筆で、『寿退隊願(下書き)』と書かれていた。

 「君達2人に同時に退職されたら、一体この艦はどうなるんだ・・・・」 タメイキに継いで 「とは言うものの、宇宙艦隊は人権を一番に考える組織だ −今度の戦いはシャレにならない可能性がある−」 制服を整え、きつめの眼差しで 「幸せを中心に考えるならば、遠慮なく任務から外れていいんだぞ。」

 「いえ、船長−」 彼女は毅然と前髪を払った 「この任務に関してだけは、私は責任を果たしたいと思います− せっかく訳の解らない宇宙艦隊用語を覚えた経験を無駄にしたくありませんし、それに、わたし知ってます−」 しっかとピカークを見据えるその目は− そう、いつもの彼女のそれだった! 「−船長にとっても、ボーグが『白鯨』であることを!」

 ピカークの手が止まった− 図星だ。

 彼は何時もの様に深呼吸を挟み、「確かに私はボーグとロミュランの支配するサイアクの宙域で育った・・・・しかし今度の任務には、そんな個人的な恨みとは別に、この宇宙を決して死の領域にしてはならないと言う確固たる信念があるのだ− 血の通った1人の人間として、ね。」 ピカークは机の前に歩み出し、しっかりと両手で新副長の肩を掴んだ 「それだけは、忘れないでいて欲しい・・・・だが、同時に君には、私の分まで幸せになってもらいたいんだ・・・・」

 「船長・・・・」 新副長の目には、キラリ、と光るものがあった 「・・・・私は船長のそんな願いを、なんとかこの宇宙の人々に結実させてあげたい気持ちで一杯なんです −それが終わってから、幸せになろうと思います− みんなの幸せがなくて、私の幸せはありません!」

 「ありがとう・・・・」 ピカークもなんとなく、ウルウル来ている 「ところでふたつほど、言いたい事があるんだが、いいかな?」

「なんでしょうか−」 正にその目は、少女アニメの主人公の目・・・・

「1つ目は−」 ちょっと言葉を選び 「『パラダイス』 のみんなには、きちんと事情を説明して挨拶してくれてありがとう −君らしいやり方だ− 信じて良かった。」 

「ありがとうございます。」 涙がこぼれんばかりに。

そしてピカークはそっと− 「もうひとつは質問なんだが・・・・一体、あんなヤサ男のどこがいいんだ?」

 我慢していた新副長は、とうとうこらえ切れずに泣き叫ぶ!!

 

 待機室のドアが開き、ボロ泣きの新副長が出てくると、待っていたドクターと機関長と操舵長が彼女に寄り添い、

「やっぱり医療室へ行きましょう!」 と、ドクターと操舵長が両脇から彼女を支えてブリッジをあとにせんと−

「操舵長、」 呼びかけてピカーク 「元気そうで何よりだ!」

彼女はあのどこか淋し気な薄笑いで返し、スロープをリフトに。

 3人を見届けて、ピカークはそっと機関長に− 「新副長、誰かさんと同じ届出だ!」

機関長は 「ひょっとして、寿退隊!?」 驚いたフリして。

ピカーク、「人事みたいに言いなさんなって・・・・これからボーグと戦おって時に、よりにもよって・・・・まぁ、メデタイ話なんだけどね。」 タメイキ。

 その時、新保安主任が 「旗艦、U.S.S.シックスミリオンから入電・・・・オースティン総合参謀司令官がこちらに転送されるので、先ずはボーグに拉致されない様に転送保安チェックを指示して来たよ!」 彼女は、指令席から全く立とうとしない

 機敏に目ぐばせし合う機関長とピカーク 「やっぱシャトルよりマシかな?」

機関長は 「何十機ものシャトルをいっせいに目くらましで出せば、話は別だろうけど− とにかくどこかの艦に集まった、と思わせるのは不味いでしょうね。」

ピカークは 「ならば、転送プロトコルとシールドのチェックと、ファイヤー・ウォールの構築を頼む!」

「了解!」 機関長は、さっそく現場へ!

新保安主任に 「君の元担当だし、そこの保安コンソロールから更にチェックを頼む!」

「あいよ!」 なーんか、立つ意思ないみたい

「ところで・・・・君の後任はどうなった?」 もっともピカークは、指令席近くには寄ってないが。

「飛び切りのを見付けて来たよ・・・・いま、転送オペレーションの練習中だと思う。カウンセラーが出かける寸前だよ− 中止になったって教えてあげなきゃ!」 

「そうだった! いけね!」 ピカークは慌てて、そのまま転送室へ!

 「ムヒヒヒヒ」 あとには無気味な笑いと共に指令席に残った新保安主任が、悠々とアゴをしごく様が・・・・

 

 転送室には、3人いた− 1人はカウンセラー、2人目はなにやら目鼻立ちのはっきりしたヴァルカン人の女性、そして最後はこれまた可愛らしい目のぱっちりしたヒューマノイドのレディだ。彼女達は、コンソロールでやいのやいの言い合っている。

「いったいあたしは、いつになったら出発できるのよ!」 威勢良くカウンセラー!

「ごめんなさーい! もーいちどやらせてみてくださーい!」 とそのお目目ぱっちりの女のコ。

「論理的に考えて、これ以上の練習は無意味だと思われますが。」 と、ちょっと鼻っ柱のつよそうなヴァルカン女性が。

「もー、ブタイノシシを3匹も爆発させてるのよ! いくらなんでもこれ以上練習させたら、動物愛護協会に『おまえが実験台になれ』って脅されちゃうわ!」 珍しく血気盛んなカウンセラー。

「そんなこと言われてもぉ− うぇーん!」 とうとうその娘は泣き出してしまう

 その時、救いの神か、機関長が現れた! 「どうしたの?」

「あ、機関長!」 カウンセラーが目を輝かせる 「たすかったぁ!」

「トラブルみたいね−」 瞬時に状況を読んだ彼女はコンソールに割って入って、ちょこちょい! っとパネルをいじる− 「結構重症 −アイソルニア・チップの位相が根本的に狂ってるみたい」 ヴァルカン人に気付き 「あなた、科学士官ね?」

「そうですが?」 でもこうしてみると、彼女もなかなか可愛い。

「悪いけど、制御パネル、手伝って頂戴!」 頷いたヴァルカン人と共にパネルの方へ。

 ここで遅れて、ピカーク登場! 「間に合いそうか? あと10分だぞ−」 そしてカウンセラーを見付け 「よかった! 済まんが出張は中止だ。」 

驚いた表情で 「えー! どうしてですか!?」 あの目をムク表情でカウンセラー。

「実は・・・・」 バツ悪そうに頭をポリポリと 「・・・・交代要員にフラれちまって・・・・」

睨み倒して 「やっぱ、私をクビにしようと計ったんですね!」

今度は毅然と、「そんな訳ないじゃないか! 私の誕生日プレゼントにあんなに可愛らしく喜んでくれた君を、誰が交代させたりするものか!」

カウンセラー、ちょっとハニ噛んで嬉しそうに 「そう、そうですよネ!」

 その時突如、「カウンセラー! この男です! 私に『地球人の男は必ずウワキするなどと言う事は決してない』と諭した男は!」 くだんのヴァルカン人士官は、感情を抑えるのを忘れている

「こんなとこでウケ狙う為だけに、またそう言うアブイことしたんですか! もー、信じられないっ!!」 この艦にも馴れたかカウンセラー、豹変して噛み付いて来た!

びっくりしたままのピカークは 「いやーそんなんじゃなくて、この娘が『地球人の男は必ずウワキする』って言明したもんだから、じゃぁ俺のこのサビシイ生活はなんなんだって、つい発奮しちまって・・・・」

「どうやら私のその理論は、実証された様ですね−」 そのヴァルカン女性は勝ち誇った様に腕組みしてから片眉をあげ、そしてようやっとピカークの階級章に気付き、「大佐・・・・?」

「そうそう、この人がこの艦の艦・・・・じゃなかった・・・・船長のピカーク大佐よ−」 カウンセラーが肩をすくめて 「ぜんぜん威厳ないけど。」

「そうそう、この階級章、グリコのおまけだし」 ピカークは首のバッチをピンピンはたいてから、改めてそのヴァルカン人女性に手を差し出し、「よろしく、大尉!」

またあの時の様に彼女は、ピカークの握手をかえした 「失礼致しました、船長!」

ピカーク、ここでやっと気付く 「そうか! 君達がこないだカウンセラーとバケもん退治をした『ゴーストバスターズ3人娘』だな!」

3人揃って 「よろしくおねがいしまーす!」

 「お楽しみのとこ悪いけど、お手伝い、今無理そう?」 機関長が首を出す

「あ、申し訳ありません− 中佐!」 そのヴァルカン人士官は、再び作業へ。

 「このひとが、船長さんなんですかぁ?」 空気の漏れるような声で新転送主任 「うわぁ、ダサ! それに、うしろに見えるの・・・・」

カウンセラーが慌てて彼女の口を抑え、とりなす 「いやその、船長、気にしないでくださいね! なんかこの娘正直って言うか、素直って言うか、生まれたまんまって言うか・・・・」

「ゆわれなれてるもん! いまさら何てことないよ!」 にこやかに 「それに背後プラズマエネルギー体に関しては、もう君から聞いたし。どーぞ、続けて!」

「じゃぁ、もう1度シュミレーションしてみて−」 カウンセラー、抑えてた口を離して新転送主任に、まるでピアノのレッスン。

「はぁ〜い!」 彼女は、コンソロールと再度格闘。

 そこへドクターがやって来る− ピカークの所へ直進 「ブリッジで、ここだって聞いたから。」 声をひそめて 「彼女、身体的には問題ないと思うけど、今度の任務は任務だけに・・・・」 

マジに戻って 「俺もそう思った・・・・無事にいられる方が、不思議な任務だしなぁ・・・・」

ドクターは思い出し笑い含めて 「前の任務の時も同じ事、言ってなかった?」 からかいさま 「『彼女なしでやれる自信、ある?』」

ピカークも笑って 「『ありません!』」 あきれ顔込みで 「ほんと、公私・リアル・フィクション全てに相棒運が全くないヨ!」

 スピーカーからアトムの声で 「船長、ブリッジ側の準備は完了しました!」

機関長も 「こっちもOK・・・・但し・・・・」 視線は新転送主任へ

「えへん!」 咳払いしてピカーク、コンソロールへ 「済まないが転送主任・・・・君を信用しない訳ではないけど・・・・いかんせん相手が司令官だし、ボーグの妨害も考えられるし・・・・ここは機関長に譲ってあげてくれないか?」

ちょっと納得できそうになくも、 「はぁ〜い・・・・」 彼女はコンソロールを明渡す

「ごめんね・・・・」 機関長は一声かけて、さっそくオペレーション。

 再びスピーカーから、「船長、先方から連絡来たよ!」 保安主任様だ

「じゃぁ、やるわよ!」 機関長の真剣な眼差し−

 

 衆目の中、転送台が輝きに満ちる −ちょっと長めの転送シークエンスののちに、転送台には初老ながら尚もダンディな男が現れた− オースティン提督だ!

ピカークは幼い頃から提督のファンだった・・・・その憧れのヒーローが、いま目の前にいるではないか!

 「危険をおかしてまで、わが艦へようこそ、提督!」 それこそ、超ご機嫌で!

「やぁ、ピカーク大佐、初めまして」 手を差し出し、間違いなく太一郎な声で 「会えて嬉しいよ。」

「と・とんでもない!」 ピカークはがちがちだ− かろうじて手をさしかえす 「よろしくおねがいします・・・・テ・テ・テ・テ・テ・テッ!」

この悲鳴は、握手した手が握り潰されそうになった為にあげたものだ− 提督は慌てて手を離した

「すまん! 昨今年のせいか、腕の調子が芳しくないんだ− ルークの方がモノが良いと言ったら、ウエルズ博士も怒るだろうな」 あの片眉レイズするジョークな様子で! 「この艦には腕利きのドクターと技師がいると聞いたんで、診察かねてお伺いした次第だ。」

「奥様や、ゴールドマンさんはお元気で?」 笑顔でピカーク

「ワイフは、相変わらず若い男に目がない様だ−」 ちょっぴり苦笑い 「せっかく15年もかけて口説いたのに、そのすったもんだ記録もこないだライカーのゴールインで抜れたし!」 かなりフランクに 「オスカー爺さんの方は相変わらず元気で、チャーリーズ・エンジェルのボスのオーディションを年を理由に断わられてからは、若かりし日任務で訪れた『禁断の惑星』のイドの怪物に借りをかえすんだって、旅立ったよ− 全く懲りない爺さんさ!」

「そいつは、マニアックなネタだ!」 ピカークは何時もながらに、ひとりで喜んでいる。

「初めまして! 医療主任です!」 割って入ったドクターも、色男には目がないご様子− もっともピカークを肴にして 「このひと、前の任務では提督の声真似までして交渉に当たってたんですよ!」 

「そいつは光栄だな。」 照れるパフォーマンスで、提督 「その美貌のお噂は伺ってましたが、なるほどお美しい。ドクター、どうかよろしく− 握手は・・・・失礼させて頂きますがね。」

柄になくテレてドクター、「あ、ありがとうございます。」

 脇でピカーク、たのしそぉーにニヤ付いている。

 「えへん!」  機関長が、なぜか咳払いして近付いて来る

それに気付いた提督 「おやおや、女子高生に中佐のバッチをつけさせちゃぁ、いかんじゃないか!」

満面の笑みの機関長を見計らってから、ピカークは 「いえ提督、こちらがウチの機関長です。」

「まさか、こんな可愛らしい人が!」 さすが、オースティン提督! 「腕利きの『奇跡の職人』とは伺ってましたが、こんなにお若いとは! 笑顔が素敵だ− よろしくおねがいします。」

「いいえ、こちらこそ!」 声がカンペキ、聞いた事もない様にウラガエっている!

「さてと・・・・先ずは申し訳ないがお2人に腕を診てもらおうかな− そこら辺の装置を壊して歩いたら申し訳ないんでね。」 提督は意外と、冗談好きらしい。

「バイオニックは私達も若干専門外ですし、アトムを呼んだ方がいいかもしれませんわね」 と、ドクター。

「いや、是非君達2人にお願いしたいんだ・・・・」 ピカークの方へはチップを差し出し、「済まんがジャム、その間にこの報告書を元に近隣星系の勢力情勢をまとめておいてくれないか− いかんせん、社会科学専攻の指揮官はこの連合艦隊では君だけだからな。それから、2000時に初の指揮官全体会議をホロシステムでおこなう事に決定した− それまでにレジュメっといて欲しい。」 ちょっと素に 「全く、奴等なに考えてこんなに居座ったままなのか・・・・」

「了解しました、提督!」 久々のキオツケで!

「スティーヴでいいさ!」 ウィンクと共に、提督はドクターと機関長を従えて、医療室へとドアをくぐる−

 「かっこいいなぁ・・・・ガキのころのヒーローは、いつまでもヒーローだよなぁ・・・・」 感慨にピカークは、そう呟いた・・・・

「ああなりたかったんじゃないですか?」 またもや瞳をキラつかせて、カウンセラー。

「提督の『カジュアル・ジーンズ』はかなり真似させてもらったんだけど、なぜかこうなっちまった!」 ない肩をすくめてピカーク。

「あら、船長も結構捨てたもんじゃないですヨ− あたし的には・・・・」

 今度はピカークが満面の笑みをうかべる番だった− やっぱ彼女に続投してもらって良かったぁ(いくらなんでも、こんな事はありえないゾ)!!

 

 1時間ほどだろうか− ピカークがその課題を前に、待機室でひとり頭を抱え始めてから。

 カスミガセキ星系の各惑星の文明・文化レベルは最悪で、本来ここが戦略的重要拠点でなければ、連邦はおよそ彼等とコンタクトを取る事はなかっただろう− こりゃ、手の打ち様がないワ。ボーグが密かにアルファ領域の侵略拠点にせんとしていたのも、頷ける。

 チャイムが鳴った− 「どーぞ!」

 ドクターと機関長が、なーんか不思議な雰囲気で入って来た 「どうだった? 提督のご様子は?」

「あー」 ドクターは、やたらそわそわした感じ 「バイオニックは調整したんで、もう大丈夫 −別の艦で呼ばれたって、お帰りになられた− あなたによろしくって。」

「?」 2人とも、じろじろピカークを目ナメしている 「なんだ、一体?」

「あのー」 機関長が 「ホロドクター、会議への出席を提督から指示されたから、あたしが直しといた。」

「まぁ、あの件に関しては水に流してやろう!」 ドクターの信じられぬ弁? 「所で、ジャム、体はなんともない?」

「相変わらず、年中かったるいだけさ。」 ちょっと立ちあがり 「ほんとに、ナニ?」

「別に別に!」 機関長も機関長で 「それから、ホロデッキは会議用にカスタマイズしといたから、いつでもOKよ!」

で、結局、「それじゃ、あたしたちこれで− ちゃんと発表出来る様に、がんばってね!」

 ふたりとも、笑顔で手をふり、退散。

「なんか、キモワル・・・・」

 さっきのカウンセラーと言い、みんなやっぱ長期カンヅメの影響だろうか・・・・

 

 遂に来た・・・・2000時!

 ピカークは以前、学会の発表日を間違えて、散々な目に会った事があった(汗)。ホロデッキ・ドアの前に立った今も、その時の心境だ− 先ずは最初のドアでホロデッキに入室。

 その若干暗がりのコーナーにはホロドクターが待っていた。例の一件のあと、さすがにちょっと気がひける。

「君が、ピカーク君か。」  ホロドクターは会釈で 「医療主任から噂は伺ってるよ− どうかよろしく。」

「こちらこそ、よろしくお願いします。」 トラブルの犯人を知ってるんだろうか− それにしてもなんで俺は敬語使ってんだ? 「あのー、調子はいかがですか?」

「うん、あの医療主任に勺されると堪らんね− あ、オチョウシちがいか!」

 ダメだ− なおってねーや。

「君は、オペラは観た事あるかね? ワグナーならこの世紀の決戦をどう描くか、楽しみだよね−」

なんか更に喋り倒しそうだったので、透かさず、「すみませんが、もうぼつぼつ時間なので・・・・」

「おー、そうか!」 こぼれんばかりの笑顔で 「では、参ろうか!」

 更に奥にあるもう1つのドア− そこを開ければ、きっととんでもないお歴々が並んでいらっしゃるのだろうが・・・・ 

 

 

第1章 終

 

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