最終話 「未来への、意味ある抵抗!」

第2章

 

 さて扉が開いた瞬間、ピカークは文字通りフリーズ−

 その会議室は、バスケットコートひとつ分くらいあり、銀と白の明るい宇宙艦隊トーンでまとめられている。200人程度の指揮官達が集合している様は、正に圧巻だった。ピカークは2分ほど遅れたのだが、すでに殆どが着席している・・・・

 とにかく凄いメンツだ− あれはたしか、トランス・ワープ・ドライブの開発に携わったジェフ・トレーシー提督・・・・それからあっちは 「警部の元カミさん」 以前にベータ宇宙域から自艦を帰還させたジョン・F・コーニッグ司令官・・・・こっちはU.S.S.ギャラクティカのアラマ司令官?・・・・おや、対ボーク医療研究班のチーフで脳下垂体の変節防止法を発表したデビット・バンナー博士・・・・「ハッチンコウ事件」 のキーワードのヒントになったU.S.S.アンクルのソロ提督(船長じゃないゾ!)だ!・・・・ああ、初の脳移植アンドロイドのジェイムスン教授もいるぞ!・・・・キャプテン・プロトンは有名だよな・・・・たしか彼は、カーデシアのホロデッキ監獄から脱出したプリズナー・ナンバー6!・・・・あれ、ハーロック大佐もちゃっかり紛れてるぞ・・・・クリンゴンのカング提督って、結局生きてたのか!・・・・無論、ドクターWHOもオブザーバーとして参加してくれている。

 ホロドクターに即され歩み始め、そして発表を間近に控えた彼と別れたピカークは、ネーム・プレートのある入り口近くの席に着いた。左隣の主はまだ到着していなかったが、右隣には見覚えのある壮年の美女が可憐に構えている−

 エリーズ・クイーン艦長だ!

「あのー、しつれいしますぅ・・・・」 すっかりビビりまくって、ピカーク。

「あらー、ピカーク大佐! 噂はNHK経由でお宅のドクターから聞いてるわよ!」

 なんて美しい笑顔なんだ・・・・若かりし日、26世紀からタイムトラベルしてまで会いにやってくる輩が絶えなかったと言う逸話も頷ける。

「お声の方は残念な事をしましたね・・・・ご冥福をお祈りします。」 紳士に、ピカーク。

「ええそうね・・・・突然でしたものね」 でも彼女は努めて笑顔だ 「今度はお宅のドクターに、アテてもらおうかしら− 弁護士稼業も、もう終わりなんでしょ?」

ピカーク、無論にこやかに 「らしいですね− 伝えときますよ。」

それは、空気を変えるべく− だったのだろうか? 「聞いたわよ− また副長が辞めちゃうんですってね! あなたってホント、ベビーシッター泣かせなのネ。」 ニヤニヤっと、クイーン艦長。

「貴方の様なオトナの方が副長ならばいいんですけどね− いかんせん、手のかかるクルーばっかで!」 と、アテ外れの照れ隠しでニタニタっと返す −良かった・・・・機関長の件は、まだ漏れてないや!

 すっかり彼女に気を取られていて、しばらく左隣に誰かが着席した事に気付かなかった− ピカークは何気なしにそっちに目をやって、仰天して腰を抜かしそうになった!

 提督専用艦U.S.S.レッドオクトーバーの、あの提督だ!! あこがれの伝説の超スーパー・ヒーローだぁぁ!!

 丁度その時、給仕が先ずは提督の側からやって来る− 「提督、お飲み物は勿論、ウォッカ・マティーニでよろしいですか?」

その見事な白銀の髭の男は 「いや、そいつは間違った伝説だ− ビールがいい・・・・そうだな・・・・ロミュランエールの2362年、カストルニア地方産で、きっちり4度Cだ。」 ふひょ〜、かっくいいっ!!

「かしこまりました−」 一礼して給仕はピカークのところへ 「大佐、お飲み物は?」

しばらく呆気に取られていたが、ややあって 「あのー・・・・オレンジ・じゅーちゅ・・・・」

「かしこまりました−」 給仕は次にクイーン艦長の所へ赴きかけたが、ピカークは慌てて止めて 「あと、サイン色紙2枚!!」

「かしこまりました−」 給仕は今度こそクイーン艦長の所へ赴いたが、彼女が何を頼んだか最早ピカークの耳には入らなかった。

 じっと見詰めているのに気付いたらしい・・・・提督はこっちをやっと伺った 「なんだ小僧・・・・なんか俺の顔についてるのか!?」

「いえ、その別に−」 とって付けたニタニタ笑いで 「お会いできて、こーえーですぅ。」

「宇宙艦隊も、とうとうお前の様なモヤシ小僧を指揮官にする様になったのか!?」 マジで呆れ顔らしい 「まだ、中学生かと思ったぞ!」 良かった、機関長より若いや! 「いや・・・・待てよ・・・・」 提督はピカークのネーム・プレートをみやり、「そうか− お前か! 副長と機関長に愛想つかされた船長ってぇのは!!」

 ピカーク、一瞬にして半眼状態− 宇宙艦隊の機密保持状態、これじゃぁサイアク・・・・

 「お久しぶり、ジェイムズ− 元気だった?」 クイーン艦長が、提督に話しかけてくる。

「おやおや、エリーズ、そっちこそ相変わらず麗しいじゃないか−」 こーゆー感じにすれば良いのね 「達者で何よりだ!」 でもなんか2人とも、びみょーに険悪な空気が・・・・

 徐にクイーン艦長が、「ところでピカーク大佐、あなた、近所のアカデミーに在学中のティンカーベル好きのカウンセラーの卵をスカウトしようとして結局肘鉄食らって、みんなに言えなくて悶々としてるんですって?」 あーあ、もう、オシマイだぁ! 「彼女、巫女さんてほんと?」

なかんずく顔を手で覆ったピカークは、仕方なくボソボソとかえす・・・・まぁ、公開されてる情報だからいいか・・・・ 「ほんとうです− だから私の傷心を癒すべく、心理学専攻と言う偶然もあってカウンセラーにスカウトしようとしたんですが・・・・でも、一応挨拶まではこぎつけたんですがね・・・・」

「そう、やっぱりそうだったの・・・・」 なぜか艦長、ここで声を張りあげて 「あたしも最初はカウンセラーでそれこそ巫女さんだったんだけど、誰かさんのおかげで、超能力なくしちゃったのよネ!」 更に声がでかくなり 「あなたもその娘を、影ながら守ってあげなさいよ− ああ言う全銀河系の女の敵から!」

 あれ? それ聞いて、なぜか横の提督が身を乗り出して来る 「お言葉ですが、あれは俺のニセモンの仕業だ! 俺だったら、あんな汚い真似はせんね!」

「どうかしら?」 彼女も負けてない 「手段はどうあれ、目的は達成してたと思うわ!」

更にピカークの前に出張って 「わたしはこの小僧と違って、ションベン臭い女は嫌いでね!」

エリーズ艦長は顔を真っ赤にすると、ピカークの腕を机から払いのけ、「だから 『歩くセクハラ』 とか 『冷戦時代の絶滅し損なった恐竜』 なんて言われるのよ! 時代錯誤もはなはだしいわ! これがタジマヨウコだったら、あなた殺されてるとこよ!」

「あのー・・・・なんなら席、替わりましょうか・・・・」 その戦闘に居場所がなくなり、おそるおそるピカーク・・・・

「小僧、貴様は黙ってろ!」 ドン、と机を叩くと提督は 「俺は、そんな劣等感みなぎったイボイノシシに手を出すほど、おちぶれちゃいないぞ!」 言っておくけど、ピカークが言ったんじゃないからね!

「イボイノシシですって!!」 もう、ヒステリー寸前だ・・・・でもイボイノシシって、彼女のことを言ったんじゃないと思うんだけど・・・・ 「もう1度、言ってみなさいよッッ!!」

 

 その時、救いの神か、オースティン総合参謀がやって来た 「諸君すまん! 遅れてしまった!」

 その実ふたりの戦争を観戦していた指揮官達は、素知らぬふりしてまじめーな顔に戻る−

 肝心の2人も、一瞬の内に、停戦。

 総合参謀が円卓上座の中央席に着席し、会場の雰囲気はいやがおうでも張り詰める。

「さて、最初にこの度の作戦においては、実験的ではあるが、パワード・スーツを初めて戦闘導入する事に決定した− これに際して、ご存知我々艦隊艦の製造にも携わる事となったバンザイ社の担当者から、まず簡単にパワード・スーツに関してのレクチャーを受けてもらおう・・・・では、どうぞ。」

 ホロドクターの隣に構えていたちょっと恰幅のいいバンザイ社担当者が、起立 「さて皆さん、我々がお勧めするタイプG4のパワード・スーツの特徴は何と言っても、その機動性と、マルチ・ジェネリック・サーボ・メカによるバイオ・インターフェイスが従来のそれよりも約6倍の感度となり、まるで素肌の様な感覚そのままで装着する事が可能になった点です。しかも、これを着て戦闘に臨む限り、”迎合”される危険性は先ず以てないと言えます。それは、当社における−」

 この男はこれ以降約20分間、パワード・スーツの機能説明に費やしたが、余り意味がないのでここでは割愛させて頂く− 興味がある方は、腐るほどあるその手のサイトへどうぞ。

 で、居眠りもちらほらの20分後、再びオースティン総合参謀から、「さて次に、ボーグになぜ全く動きがないのかを含めて− 先ずはデルタ領域での接触経験豊富なそちらのホロドクター・プログラムに報告してもらおう。」 手を差し出しての、総合参謀の発言委譲。

「えへん!」 上座脇に控えていたホロドクター、咳払いして起立 「それでは僭越ながら・・・・」

 ホロドクターは中央へと移り、続いてメインスクリーンにグラフィックが登場− 「ボーグに関して先ず我々が最も成果を挙げたのが、生命体8472との接触時にボーグを1名、クルーとして迎え入れた事です− しかしながらご存知の通り、生命体M78から先にボーグを発見したのは我々だ、とのクレームが付き、やむを得ずその新しいクルーには最初にボーグと戦った生命体M78に敬意を表して、 『セブン』 と名前を付けました −正式名称は 『セブン・オブ・ナイン』− これはいわゆるオッパイ星人におけるバストサイズの寸法です。」

 そうだったんだ− とピカークは納得しながらも、どうかイボイノシシに聞かれてません様に、と祈った。

 「さてその経験も含め、我々はついに、ナノ・プローブによる”迎合”への予防措置を完成させました−」

会場から歓声に近いどよめきが聞える −これで相手のコマが使える予測不可能な将棋から、若干推察の効くチェスに戦いが変わるかもしれない− 研究者が血眼になって探していた手法であり、なにより 「ブルーリボン」 の家族達には、願ってもいない朗報だろう。

「しかしながらその効果は一時的ですし、ヴァルカン人の様な複雑な精神構造生命体には若干期待できない面もあります −いずれにせよ早期の収容治療が必要です− 更に最新の情報によると、ボーグ側は対抗措置を取った様で、これに関してはイタチごっこですな。一応の予防措置は、戦闘要員に施すつもりですが。」

バンナー博士が 「ナノ・プローブの、細菌送搬の噂を聞きましたが・・・・」

ホロドクターは 「ジョークに聞えるかも知れませんが、ナノ・プローブ・ウィルスは、”迎合”される事で変異を起こさなくなり、数世代で死滅します− 皮肉な話だ。」 場内に、ちょっと笑いが。

 「さて本題の、なぜボーグ・キューブがこの宙点で停止しているか、ですが・・・・」 立体グラフィックが、艦隊艦船と無気味な四つの立方体を描き出す 「専門外ですので詳しい説明は割愛させて頂きたいのですが、我々の使用していた最新型の量子パルス次元重畳波スキャンによって、驚くべき発見がなされました−」 グラッフィクは艦隊とボーグ・キューブの間に、なにやら光の帯を描き出す− 「この帯は深層の亜空間に存在し、約6年周期で最深層に達します −しかし今期に限ってはなぜか浅瀬に存在し、簡易な亜空間断列が生じると通常空間に表出します− ボーグはこれを警戒し、6年周期でアルファ領域に侵攻していたと思われます・・・・」 ホロドクターは一息ついて 「このエネルギーの帯は・・・・『ネクサス』 と呼ばれています。」

 場内はどよめく・・・・

コーニッグ司令は、「なぜ、ネクサスがこんなところに・・・・」

「理由は良く解りませんが、例のエネルギーリボンと全く同じ波源パターンである事だけは確かです・・・・で、その 『ネクサス』 との共通項ですが、私が調べました所、タカーン帝国・オルガニア共和国・タロス連合などの古代国家連盟のガンマ領域に対する境界線とこれらエネルギー・リボンとの配置が、かなりの部分断絶しているものの、一致しているのです。」

「ネクサスは、古代文明による人工建造物だったんだ・・・・さもありなん・・・・」 ソロ提督は、カークと同じ声で− 「正に、『万里の長城』・・・・」

「ソロ通りですな−」 ちらっと癖の出たホロドクターは、総合参謀を伺い 「ただ、ヒントがひとつだけ。」

 立体映像はリボンの突端付近を照らし出す− なんと、この近所だ! 「ここです− カスミガセキ宙域の辺境にある惑星 『ネヴァー・ランド』・・・・ここがこの近隣のリボンの中継地点と思われます。」

 ネヴァー・ランドがネクサスの入り口− 話が出来すぎ!

「ネヴァー・ランドは中立国で、我々も宇宙艦隊の立ち入りも禁止されているハズだ!」 カング提督。 

「しかり」 オースティン総合参謀が 「実はネヴァー・ランドの最高峰ゴールデン・ダイヤモンドが、ネクサスの中継装置のありかだと言う所までは突き止めてはいる・・・・そこで、だ、ピカーク大佐?」

 発表原稿に目を通していたピカークは、虚をつかれた 「はい?」

総合参謀は 「君の艦には、山岳キャラバン経験のある上級士官が2名いる− 彼女達と君の3名で、ゴールデン・ダイヤモンドの登山調査を命じる。」

「え!」 聞いてないよ・・・・なるほど、そうか、それで直々にあの2人を口説きに! 「山頂に転送とかでは、ダメですか?」

「この山は特にセンサーが張り巡らされていて、転送すれば条約違反は免れない− 無論、ボーグが出現した時のみ、保安部員の追加転送を許可する− わかったね?」

渋々ピカーク 「了解しました・・・・」

にこやかに総合参謀は 「それでは、そのピカーク大佐から、このカスミガセキ宙域の文化状況に関して、レクチャーしてもらおう− よければそのままで・・・・」

 おずおずと立ちあがる 「えー、ジャム・ピカークです・・・・よろしくです。」 相当、がちがち− 「このカスミガセキ星系は4つの文化ブロックで形成されており、先程のネヴァー・ランドを除いては全て惑星連邦準加盟国です。残念ながら、まだ貨幣経済による資本主義をベースとした遅れた社会体系であり、レプリケーターは連邦の技術援助により運用されていますが、サイアクな事に一部富裕層のみの使用に限定されています。これは連邦正規加盟基準に違反しており、改善を度々要望しているものの、全てのブロックで達成されていません・・・・」

「『貧困』 ってやつか・・・・」 脇でレッドオクトーバーの提督が。

「そうですね」 こころなしか、ピカークは悲しげだ 「この宙域の全社会エントロピーは約1426マトリックス・エージェン− かなりの不活性状態と言えます− まっとうな社会なら革命が起きているレベルだ・・・・住民は皆比較的従順で、ボーグがアルファ領域侵略前哨基地と考えたのも頷けます・・・・」

 その時、オペレーション・ブースにいた士官が、パネルのビープ音と共に叫ぶ! 「失礼します! ゲットーW政府から、犯罪集団の乗った船がボーグ・キューブに向かっているので、捕獲ないしは破壊する様、要請がありました −目標船発見・・・・乗員約2000名、ワープ8で航行中!」

「トラクター・ビームは?」 総合参謀!

オペレーション士官は首をゆらし 「ダメです− とどきません! 転送も既に圏外! 可視通信受信− スクリーンに出します!」

全員が固唾を見守る中、スクリーンには先方の船の映像が −やせこけた男が1人だ− 「こんな生活、もうイヤだ! ボーグの方がまだマシだ!」

「待て! はやまるな!」 総合参謀が叫ぶ!

 遅すぎた・・・・ボーグのトラクター・ビームが艦を包む− と、同時にその船は爆発!

再びオペレーション士官が・・・・「乗員は全てボーグ艦に転送収容− 爆発によって亜空間の歪みが生じました・・・・不味い! こちらの集合シールドの一部領域に放射波源による破断が・・・・補正が間に合いません −次元送搬波が、このホロプログラムに重畳!」 士官は絶叫する 「テトリオン放射検出ッ!」

 その言葉を合図に、会議室の脇に無気味な光の帯が出現!

 ボーグだ!!

 その途端、目にも止まらぬスピードで、史上最高のショーが繰りひろげられた−

 先ずはオースティン参謀が正に空を飛んで、一番近くのボーグにバイオニック・キックを食らわす− そのボーグは全てのシステムが火花を散らし、床に散乱した! 着地した参謀を襲わんとした別のボーグは、返す右の鉄拳で一瞬の内にショートし炎に包まれる− すげぇぇっ!

 他のボーグも、ソロ提督のショートライフル形式のフェイザーで粉砕され、またコーニッグ司令のハンディ・メーザーが火を吹き、極め付け本物のフェイザー・ワルサーでお隣の提督も床に見事に身を投じ、体を翻して撃つ・撃つ・撃つ!

 他のヒーロー達の攻撃も含め、数十体はいたボーグは、全て一瞬の後に粉砕された・・・・床には残骸とパチパチと火花が・・・・

 それを傍観するしかなかったピカークは、ひとり立ちあがって拍手喝采したが、なんとなく白い目で見られ− やがて沈黙。

 オペレーション士官が再び 「ホログラムのエラーは正常化・・・・シールドも再び正常に起動しました −およそ侵入しやすい共有ホロプログラムを狙っての事だと思います− 他に侵入報告はありません。」

 「ふう!」 オースティン総合参謀は、額の汗をぬぐった 「久々にいい運動したな!」 

 

 ブリッジに戻ったピカークはまだあの興奮から冷めやらじと言った感じで、ワクワクしていた。屋上のヒーロー・ショーでも、ここまで胸踊る事はなかっただろう・・・・ガキの頃のヒーロー達がまだ健在である事に、なんか、涙があふれてしまいそうだった。

 「ご満悦の様ですね?」 あれ、指令席から新副長が!

「ああ、あれなら入場料を取って公開すべきだったよ!」 ピカークはニコニコと 「体、大丈夫?」

「ええ、ご覧のとおり!」 彼女はしゃっきっと、飛び跳ねて見せた− 恋する女性は、なんと輝いている事か・・・・

「若いって、うらやましい・・・・わたしはガキの頃から、オヤジだった!」 指令席に着き、ちこっと溜め息で、思い出した様に肘掛けのコマンドへ 「機関長、遮蔽装置は使えるのか?」

スピーカーから、ファンが絶えないその声が 「参謀本部から言われて、準備完了している− いつでもどうぞ!」

 気前がいいな・・・・前の任務の装備のおかげだ

「ありがとう、起動が終わったらブリッジまで来てくれ−」 肘掛けを再度叩き、「操舵長、遮蔽装置起動 −完了し次第、近隣惑星 『ネヴァー・ランド』 まで通常推力全開−」 やりたいんだよ、いつでもこれが −耳の脇に人差し指を− 「発進!」

 ぐぐっーと弧を描いたハーレムは、その姿、蜃気楼と共に宇宙とひとつに。

 「とうとう 『ネヴァー・ランド』 ?」 カウンセラー席には、ドクターがちょこんと座っていた

「あれ、カウンセラーは?」

「まだ転送室で、後輩につきっきりみたいよ!」 あーあ!

 後部ターボリフトが開いて、機関長ご登場 「遮蔽装置異常なし −順調に作動中− 対ボーグ・シールドも異常なし!」

 「あんがと! パワード・スーツの詰み込み、免除されて良かった! ちょっと待っててくれ−」 副長席にみやり 「さてと、副長 −わたしとドクターと機関長は、 『ネヴァー・ランド』 に極秘上陸を命じられた− 君達は軌道上で待機していてくれ。」

「たった3人で、ですか?」 当然の危惧だ

「あそこは、宇宙艦隊の立ち入りを禁じている。ハデな人数で繰り込む訳には行かないんだ。」

「せめて、数名の保安部員を・・・・」 食いさがる新副長

「実はその要請は参謀本部側で却下された・・・・但しボーグが出現した場合のみ、待機した保安部員を転送してくれ。」 前任者と違い、ピカークにおどけた様子はない

「わかりました」 彼女も前任者とは違い、素直にピカークの命令を尊重した− 無論前任者は前任者で、悪い訳ではなかったが。 

 ピカークはなぜかつかつかと操舵長の所へ −耳元で− 「このあいだのコンサート、ステキだったみたいだね。」

突然の呼び掛けにびっくりで 「あっ、ありがとうございます!」

「私達は留守にするが、妹分の副長とやんちゃな保安主任の仲を、うまくまとめて欲しい・・・・実質この艦を仕切れるのは、君だけだ。」 こっそりと。

「はい、わかりました・・・・」 彼女もこっそりと。

 指令席の所まで戻ると、新副長がなにやら報告用ボードを持って立っていた。

「どうやら、なにか船長用のメッセージらしいのですが・・・・」 ボードを渡しながら、新副長は 「あのー、船長・・・・待機室でお読みになられた方がよろしいかと存じます− それも、ソファの前で。」

「?」 とりあえず、ボードを受け取って 「じゃぁ、ドクター、機関長、話があるんで待機室へ来てくれ。」

 3人はちょっぴり不信気に、待機室へと入っていった。

 

 待機室へ入った途端、先ずピカークは新副長の言いつけ通り、ソファの前で報告ボードに目をやり、 −そして−

 「ペィッ!」

 そう叫んだかと思うと、気絶してソファにぶっ倒れた!!

 慌てたドクターと機関長はソファに駆け寄り、ドクターはピカークの頬っぺたをひっぱたく−

「ね! しっかりして!」

「うー」 ただただ唸るばかりのピカーク。

「今度の副長も、あとの事考えて、やり手ね。」 トライコーダーで、スキャンを始めたドクター。

その脇で、機関長が拾った報告用ボードを読み始める 「『キャプテン・ピカーク、アダモちゃんに惨敗 −他人に気配りなんぞの甘ちゃんが、非情のボーグと戦えるのか!?』・・・・タブロイド報告かぁ!」

ドクターの方は 「だめ! 相変わらず生命反応が薄い!」 ハイポ・スプレーを首に、シューッ!

それで、ちょっぴり気付いたらしい 「・・・・めりー・くりすますって、挨拶してわかれたばっかなのにィ・・・・くー・・・・みず〜!」 虫の息でほえずら。

「待ってて!」 ドクターはレプリケーターまで− 付き添いは機関長に交代。

 息絶え絶えに 「・・・・これで今度の任務の人事は、最終決定だぁ・・・・すまんが待機させといたU.S.S.ティンカーベルに帰還許可を出してくれないか・・・・」

機関長はピカークに毛布をあてがいながら、「え! まだ交代用艦待たせといたの!?」

「・・・・全く・・・・頭んなかがティンカーベルだぁ・・・・」

吹き出した機関長 「イタズラが過ぎるからよ −でも良かったじゃない− 最終話にして、念願のリアル失恋よ!」

「くそ〜! お笑いなんぞ、この宇宙から根絶してやる! テレバイザーで人の貞操をおもちゃにするなんぞ、言語道断だ!」 ちょっと力尽きて 「・・・・すまんが、カウンセラー呼んでくれないか・・・・」 

 戻ったドクターが顔を出す 「彼女にカウンセリングしてもらったら、交代の話、ばれちゃうわよ!」

化け物の様な顔つき 「そ〜だったぁ〜! ああ、カウンセラ〜!」

ドクターはイラつく 「全く、この艦にはカウンセラーが10人は必要だわ!」 呆れて腕を突き出し 「はい! お水!」

ピカークはそのコップを受け取り、顔を若干あげて口をつけると 「あっちゃ〜っ!」 途端に飛び起きる− 熱湯!

得意げにドクター 「ショック療法!」

 「あー、目ー覚めた!」 彼はしばらくそのソファに腰掛け頭を抱えると、ややあって立ちあがり、待機室の窓枠にやって来る・・・・

 「結局コバヤシマル・テスト、解決策なく撃沈ってわけね・・・・あなたは、カークみたいな夜這いしてプログラム変更できちゃうプレイボーイじゃないしね・・・・」 ドクターは若干真面目な表情で、「大丈夫?」

 ピカークは待機室の窓枠に手をかけ、表をうかがう 「『キャプテン・ピカーク、アダモステに敗れる』 か! ふん! 人に気を使ったがゆえに、またババひいちまった!」 珍しく激興して、「20年間探し続けた悦材が、自分のすぐ身近にいたんだぞ! こんなチャンスは二度となかったろう!」 ガン! と枠を叩き 「おまけに目前には、あのボーグ・キューブだ!」 窓の外には、通常航行中ゆえに4機全てが伺える・・・・ 「余程戦略を考えん限り、この艦隊で4機は無理だ・・・・このままではこの宙域の人々が自らボーグの支配に甘んじようとするのは、目に見えている・・・・一歩間違えばカスミガセキ宙域ばかりでなく、惑星連邦自体がおしまいかもしれない・・・・今は戦わねばならない時だと言うのに、情けない・・・・」 そしてちょっとばかり、哀愁に満ちて・・・・ 「・・・・副長も機関長も、やめちまうし・・・・」

 「あたし、仕事辞めない!」 機関長が毅然と 「相棒も言ってみれば、同僚だし・・・・それにほら、あの人、私がちらかした機材、わらかすのうまいし!」 微笑んで 「・・・・機関長は先ず何よりも、艦と結婚してるし・・・・」

「人に気を使わなくなったら、貴方はもう、あたし達のキャプテン・ピカークじゃぁない・・・・」 ドクターも負けない笑顔で 「『損を甘んじて受ける勇気』・・・・それが、あなたのモットーじゃなかったの? かっこつけて心にもない事、言わない方がいいわ!」 ドクターこそ、かっこいい!

「ふたりとも・・・・ありがとう・・・・」 向き直ったピカークの目には、光るものが・・・・

 ものを言う必要のない時間が、そこに存在した− 男女に友情などないと言う奴、クソくらえ!

 「さてと、これで一件落着ね!」 ドクターは腰に手を当て 「・・・・山登りの支度、しなおさなくっちゃ」 2人とも示し合わせて部屋を出ようと−

「用件は済んでないよ−」 ピカークが呼び止める 「改めて命令を伝えてない・・・・」

ドクターは 「登山命令とネクサス追跡なら聞いた− 提督御自ら!」

機関長は 「あなた、あたし達について来れる?」

真剣にピカーク 「これでも、もとボーイ・スカウトだ!」

2人は笑って 「そのご様子じゃぁ、どんなもんだか− じゃあ、あとで第1転送室集合!」 ドアが開いて、キャラバン経験者達は旅支度に。

 「ほんとに、俺、こんな状態で平気だろうか・・・・」 ピカークの愚痴は続いた・・・・

 

 丁度 「ネヴァー・ランド」 に到着した頃、キャラバン隊はお見送りと共に第1転送室に集合していた。脇のモニターには、ベースのブルーの大気に黄金の膜がかかったこの世のものとは思えない夢の惑星の姿が映し出されている・・・・

 モニターに顔をつっこんで機関長 「”宇宙に忘れてきちゃった婚約指輪”って感じネ。」 さすが、名詩人!

「おやおや、忘れちゃいけませんよ、マダム?」 ピカークは涼しげだ 「ほんとに、この任務が終わったら、ハネムーンにもう1度いかがですか?」

「考えとくわ!」 そのマダムは、昔懐かしいピーターパン登山帽を被っている− まだ売ってたんだ!

 「ねぇ、ジャム、それって小奇麗なホームレスってカッコよ」 ドクターは可愛らしい赤いヤッケで、ヒマラヤで使ったものかもしれない 「頼むから、あたし達とはちょっぴり離れて歩いてね。」

確かにピカークは、茶橙のヨレヨレ・ジャンパーをニ枚はおり、ボロボロの登山靴に朽ち果てたリュックを背負っている− 「3年B組ジャム・ピカーク」 の名札付き。おまけに余った荷物を、ビニールの買い物袋にさげていた。

「でもね、ドクター、ちょっぴりオシャレしたんだ−」 ピカークが 「ナ! オジさん」 の様にジャンバーをばっと開くと、中のTシャツには 「山に登ろう!」 の文字が!

「もう!」 ドクターは額を覆う 「やめて! オネガイ!」 そのままフラフラと転送台へ!

 ニヤニヤしながら、見送りの副長とアトムの所へ。

「アトム、無事帰ってきたら、今度こそ艦内ライブ、見にいくからね!」

「期待しないで待ってます− 船長! 今度は耳栓してこないでくださいネ!」 元気にアトム!

耳に指をあて、「シールドと遮蔽装置のお守りは、頼んだよ!」

 「船長・・・・」 どこまでも真っ直ぐな眩しい新副長の姿− 「私が代わりに行くのは、どうしてもダメですか−」

「そいつだけは、願いさげだ!」 ポーンと軽く、彼女の肩を指ではじく仕草で 「君には、僕の分まで幸せになってもらわないと・・・・新郎に恨まれたくないからな!」

 あれ、横に鼻に指を当てた機関長が立っている 「あたしは?」

「だって、そちらさんはお仕事続けるんざんしょ?」 真面目腐った顔で 「それにまだ寿届、正式じゃないし(注:宇宙暦657808654126822.8現在!)」

「はぁ〜い!」 幾分かヘソを曲げ、転送台へ。

 改めて新副長に向き直り、「それじゃぁ、ボーグと戦う事になったら、どうか気を付けて・・・・スフィアだけ、次元転送させて来る可能性は十二分に考えられる・・・・作戦本部との連絡は密に− そして慎重に。」

「解りました− お気を付けて!」 ハッピーな、いい笑顔してるぅ!

「よろしく!」 ピカークは、ちょっぴり古風な敬礼を真似た!

 さて、転送コンソロールには、新転送主任となんにも知らないカウンセラーの姿が。

「どうだい? すこしはカモフラージュできそう?」 ピカークは可能な限り優しく。

「ええ、地上付近で実体化するなら、なんとか先方のセンサーをごまかせそうです。」 なぜか答えたのはカウンセラー・・・・

「ぜんぜんへっきでーす!」 あっけらかーん、と新転送主任 「準備できましたぁぁ!」 パネルがその声に合わせてピコピコ唸ってる

 ピカークは荷物を背負い直して転送台へ− 横のドクターがコソっと 「ほんとうに、大丈夫?」

後ろから機関長がコソっと 「大丈夫、あたしが調整して、時限で機能ロックしといたから。」

吹き出しそうになるのを抑えてピカーク 「クルーはお互い、信用しないとね。」 声をもどして 「いつでも、どーぞ!」

 「それじゃぁ、いきまーす!」 ちょっぴり気の抜けた新転送主任の声 「てんそーぉぉ\(^o^)/」

 

 ロッテンベリー卿の企画書に 「まるで妖精のきらめきの様に・・・・」 と書かれていたそのままに、光のせせらぎは華麗にティンクして、3人をネヴァー・ランドへといざなう・・・・

 

 

第2章 終

 

戻る 次へ HOME  どーかご感想!