最終話 「未来への、意味ある抵抗!」

第3章

 

 おとぎの国− ネヴァー・ランド!

 年間の観光客数数十億人と言う、およそアルファ宇宙域屈指のレジャー・プラネット・・・・軌道からは黄金に彩られていたエメラルド・ブルーの空は、その内側からは本当に美しい澄みわたった白銀にきらめく淡いブルーのそれに変わっていた。清々しさとは、正にこの場のそれに、その為に存在したかの如き感がある。

 そんな夢の島のとある片隅の建物の影に何やら光のきらめきが起こって、3人の人影を形作った− その3つの人影はホットした様子で、ややあって辺りを伺っている。

 「なんとか、手足は付いてる様だ・・・・しかし逆言うと、転送可能ってセキュリティが甘いってことじゃないか?」 荷物で手いっぱいのピカークが、ぽつりと。

トライコーダーをさっそく取り出して機関長 「もちろん、対ボーグ・シールドと遮蔽装置の二重シークエンスの位相を越えるのは、並大抵のことではないわよ・・・・加えてここのセンサーに引っかからない様にするには。」 手をひろげて、にこやかに 「でもここでは、どんな奇跡も不思議ではないの!」

「なるほど、シアワセな人は言う事がちゃう!」 ピカーク、よっこらしょ! とビニール袋を持ち直す。

 「ねぇ、ジャム、ここの政府とは接触しないつもりなんでしょ?」 ドクターは日焼け止めのほっかむりしていた− ちょっとキャディーっぽいぞ。

「あれ、ドクター、知らないの?」 得意気に 「この惑星はダズニー・プロの経営で、政府は存在しない− 各アトラクション毎に海賊やら山賊やらギャングやらが実質支配していて、ダズニーはそのあがりを頂戴しているんだ− そこら辺に、『撮影禁止』 やら 『弁当持ち込み禁止』 やら書いてあるから、気をつけるんだゾ。」

あきれつかれたドクター、「はいはい!」

 ピカーク、機関長を覗いて 「様子、どお?」

トライコーダーとにらめっこのままの彼女、「うん、テトリオン放射の痕跡はこの一帯にはナシ・・・・ボーグは、まだ来ていない様だわ・・・・但し−」 そのちょっぴり丘になっている敷地からは、きれいにネヴァー・ランドが一望できる 「ひともあんまりいないみたい− あの通り、ガラガラ。」

「そりゃそうでしょ、ご近所にボーグが出たって言うのに、遊びに来る奇特な人はそうはいないわね− ただ、アトラクションとしてはボーグ退治もバイオ・ハザードも見分けつかないから、オツなもんでしょうけど。」 ドクターのツッコミ。

「それじゃぁっと・・・・」 どっこいしょ! 「とりあえず、山岳キャラバンの準備をせにゃぁな− シェルパやガイド、雇わへんと!」

「ガイドだとね−」 機関長が、珍しい紙のガイド・ブックを取り出す 「ゴールデン・ダイヤモンド・ピークに登るには、入山許可をこの先のロッジに取りに行かなきゃならないわ− あー、地図って見るのニガテ!」

ピカークは 「『地図の読めない女』 って、ホントなんだネ。」 

機関長、ニラミ入れて 「入園料、ちゃんと持ってきた?」

「ああ、ちゃんとプラチナチケットとラチナムが支給された− でも、俺使ったことないんだよなぁ!」 ポケットから取り出して。

そしてハゲタカの様に、ドクターがさっと持ってく 「だーめ! これはあたしが預かっとくわ!」

お手上げ− のフリしてピカーク 「ではでは、そのロッジとやらに、参りやしょう!」

 

 ロッジと言うより、そこは安物のスペース・オペラに出て来るバセイの酒場だった・・・・なーんか、やな雰囲気。外にまでプロトン・ガンを腰に巻いたツキモノの荒クレがうようよしている− あーあ、良くあるパターン! 入り口のコインロッカーに荷物をほおり込んだ3人は、腰にフェイザーをぶち込んで、その気になって木戸をくぐる・・・・

 予想にたがわず、そこは正にウェスト・ワールドのアトラクションだった。

「どこだい、受け付け?」

「右の奥のカウンターみたい・・・・」 こっそりと答えた機関長は、その奥のカウンターへと・・・・

 その時−

「よう、ネェちゃん− 俺とあそばねぇかい?」

見るからに狂暴そうなノーシカンがご挨拶にやってきた −ここはそれでもピカーク、男だ− ノーシカンと機関長の間に割って入る

「すまん、僭越ながら旦那じゃないんだが、先約なもんで・・・・」

その返しがまずかったか 「旦那じゃないんなら、立場同じだ・・・・ガキゃ、ひっこんでなっ!」

 ぶっとばされたピカーク、脇のいすの固まりに、どかーんと見事に鐘鳴らす!

でもって、その瞬間を逃さずノーシカンの後ろにつけた機関長が、軽く2倍は背丈のあるその腕を捩じあげた− 

続けて、そやつの目前に現れたドクター! 「なめんじゃねぇんだよ、このオタンコナス!」

そうタンカ切った途端、ノーシカンにボコボコのパンチを浴びせ、ついでに機関長がうしろから蹴り飛ばす! ノーシカンはピカークの隣にワープして、完璧ノビてしまった・・・・

 「ジャム、大丈夫?」 いつになく2人ともやさしく駆け寄り、ゆっくりと起こしてくれた

ちょっぴり千鳥足で 「・・・・だいじょうぶだ・・・・とりあえず心臓が無事でなによりだ・・・・」

ドクターいわく、「あなたの青春、何度やり直しても結果は同じだと思うけど!」

「えへん!」 咳払いして、ピカーク、しゃんと立つ 「とにかくここのホロ・システムには、安全装置はなさそうだ!」 と、強がりにひとホザキ!

 さて、この騒ぎを若干見学していたギャラリーの中から、ややあってひとりのそこそこ可愛い女性が歩み出てきた・・・・目はグリーン、尾ひれが付いていて顔や体には斑点と鱗が散見される− しっぽが丁度人魚の様だ。

「あなた? だいじょうぶ、ある?」 たどたどしい連邦標準語で 「そのカッコ、やまのぼる− ならわたし、あないする、それ、しごと!」

おや、鴨がネギ背負ってやってきたか・・・・ピカークはにこやかに手を差し出し 「ピカーク、ジャム・ピカークだ−」 ちょっぴり考えて 「−こっちは相棒のアリーとティンク− どうか、よろしく!」 相棒ふたりとも、こそっと爆笑!

「わたし、なまえ、ジャッジュア! 体、半分が人間、半分が魚、で、おなかに虫がいる!」 ピカークと、ひれのついた手で握手。

「へえ! カイチュウ・ダイエットかぁ! おすすめできないなぁ!」 にこにこピカーク! 「よろしく、ジャッジャァ!」

「ちがう!」 彼女は一瞬険しい顔に 「ジャッジュア! 発音まちがえない、アル!」

「ごめん・・・・ジャッジァッ!」 ピカーク、さらにドツボ!

ドクターがそんなピカーク脇に追いやり、「あたしアリーよ! よろしくね!」 手を差し出し、先方からも握手がかえる

「あたしはティンク! ネヴァー・ランドへようこそ!」 機関長は、もう一方の手ヒレを握って

「アリー、素敵な声! ティンク、それ、こっちのセリフ!」 ジャッジュア、ご機嫌を戻す 「なんの仲間? ちょっと良くわからない− 普通の観光?」

笑顔でピカーク 「ユニバーサル貿易の慰安旅行なんだ− いかんせんリストラしすぎて、社員はたった3人さ!」

「そ、最近良く聞く話− 今、この手の観光惑星、それで皆ひーひー」 この娘、結構カワヨクてモテそう 「にゅうざん、きょかしょ? とれた、ある?」

「いけね! そいつを取るとこだった!」 ピカーク慌てて 「とってこなきゃ!」

「あたし、かわり、とってくる、アル!」 ジャッジュアが尾びれをヒラヒラさせた

「ちょっと、ジャム・・・・」 にこやかに、ふたりのお誘い

「ジャジャン、ちょっと待っててネ。」 ピカーク、彼女に待て、の合図で。

 さてさて、3人はひそひそと先ずはドクターから 「信用できるの、あのコ?」

「ここは機関長のESPを、信頼するしかないな!」 無責任にピカーク

「あたしESPはないって、はっきりあなたに言ったじゃない!」 そうだった! 「でもまぁ、人を見る目はあるつもりだけど・・・・」

ピカークとドクター、彼女をまっつぐみやり 「で、どう思う?」

「悪いコじゃ、ないと思う」 ぴしゃり! と機関長。

「決まった!」 ピカーク、そう言って再びジャッジュアの所へ 「正式にきみに案内を頼むことに決めた! じゃぁドク・・・・じゃぁなかった・・・・財布役のアリーと一緒に許可書を取ってきてくれ・・・・って、ふたりで平気か?」

「あんたら、入り口間違えてる− 裏の方から入れば、アンゼン。」 そーだったの。

納得して、「それではそっちは二人に任せるとして、俺とティンクは、荷物をまとめて待ってるよ!」

顔をくしゃくしゃにしてジャッジュア 「それよい! アリー、いっしょにこい! ジャム、そのあいだラクーバの調達、オネガイ!」

「ラクーバ?」

「荷物担ぐ動物・・・・人ものっかれる!」 おお、なるほど− でもフキツな名前! 「あっちが、手配所! お金で解決、すぐつく− コネいらぬ!」 ヒレで指すので、方向が良くわからん・・・・

「じゃぁ、そっちは俺達の担当だ!」 ピカーク、さっさとそれらしき方向へ

「それじゃ、お金はあなたにわたしとくわね−」 アリーが軍資金を取り出し、ティンクへ 「絶対ジャムに持たせちゃだめよ!」

「了解! −あたし、買出しもしてくるね− なにはともあれ、雑誌買っとかなきゃ!」 マユをレイズさせて、ティンク− ところで、何で先ず雑誌?

 

 

 新副長は、自分の念願であったはずのその椅子に、考え深げに自らを収めていた。

 正直、まだ葛藤はある。 疲れていた訳ではなかった・・・・宇宙艦隊における職務は決して楽なものではなかったが、楽しいものである事には違いない。しかし目前にある幸せは、それらに代えても余りあるとの誘惑に、抗するつもりもなかったのである。

 やっぱり、ラベンダーのロマンチシズムには、かなわないものネ−

 ・・・・そう言えば、カレ、ちょっとウチの船長に似てるかしら・・・・

 ブルブル! 激しく首をシェイクさせ、彼女はその一瞬の悪夢を蹴散らした!

 「なにか、ありました?」 左隣から、転送室から開放されたカウンセラー

「いいえ、別に!」 意気時々と笑顔でお返し! 「それはそうとカウンセラー、あなた制服じゃなくて診療着にしたの?」

カウンセラーは例の胸のポッカリ開いたカウンセラー用の診療着に、通信記章を付けている 「ええ、リストラ防止のサービスで− 脚線美に対抗しないと!」

にこにこっと新副長 「船長、それじゃぁ仕事にならないと思うわ−」 身を寄せて 「例の件、ぜーんぶ知ってたの?」

「え、あたしが児童保育心理学会に出張する間の交代要員に、近所の女子大生をちゃっかり充てようとしてたって件ですよね?」 負けずにニコニコっと

新副長の笑顔は凍り付く− 「いいのよ・・・・なんでもないの・・・・忘れてちょうだい!」

「実は・・・・ほんとに交代要員を申請しようかと・・・・」 カウンセラー、今度はおずおずと 「・・・・ここでの経験を買われて、"ウルトラ警備隊"からお声がかかってるんです・・・・まぁ、宇宙を守る責務は同じかなって、迷ってます。」

「え!? あなたまで辞めちゃうの!?」 新副長、びっくりで!

「とりあえず、今連合艦隊にあるプロメテウス級艦で、ウルトラ・ホークの分離操縦訓練しとこうかと・・・・・」 カウンセラーが返す

突然アトムが振り向いて 「カウンセラーが操舵をすると、艦が大破するとのジンクスが・・・・」 雰囲気読んで 「・・・・あるのですが・・・・彼女の場合、例外ですよネ。」 首を元に戻す

クスッと新副長 「そのご高説、第1話を読んでないと、わかんないわよネ。」

 「それはそうと、あのオヤジ、またなんかやらかしたの?」 保安ブースから新保安主任が、指令席に身を乗り出した

「別に、なんてことないわ・・・・ただ船長、ここの所やる事なす事裏目って、ちょっとしょげ気味だから・・・・あたしと機関長の事も、やっぱり考えちゃってるみたいだし−」 一方、報告ボードをさらけ出し 「ただ、良くこのミスだらけの仕事を前任者はフォローしてたと思うわ!」

「あの人って、ずっとそうじゃなかったっけ?」 腕組みして、新保安主任は姿勢を正す 「それにしても、結婚ねぇ・・・・」 ちょぴり感じ入り、「あたしとってはまだ6万光年の彼方の方が、遥かに想像つきやすい世界だわ・・・・」

「あたしにとったって 『ファイナル・フロンティア』 よ! でも、果敢にチャレンジしなくちゃァネ!」 新副長は、さもありなん− 実にエネルギッシュだ!

 「医療室よりブリッジへ! こちらアリサです!」 そんな中、突然のインターコム

新副長は肘掛に 「こちら副長− アリサ、なにかあったの?」

アリサの叫び声が! 「もー、副長! ホロドクターがずっとオペラ歌いっぱなしなんですけど、やめる様に言ってくれません!?」

 確かにBGMで、クリンゴン・オペラのたからかなフレーズが聞こえて来る

笑顔で新副長 「あら、あなたからお願いしてみたら?」

「頼んだんですけど、『君が私に命令する権限はない!』 ってかえされましたっ! あたし、ホログラムに使われちゃうんですか!?」 切迫した状況らしい

カウンセラーをみやり、彼女は可愛く肩をすくめる− それを見届けてから、「アリサ、ドクターがいない間、規約的には彼が医療主任代理らしいわヨ− 一方で医療室でオペラを歌っちゃいけないって規約はないし。」

「え〜っ! 冗談じゃないですよぉぉ! ストライキしちゃいますよぉぉ!」 例の調子で!

にこやかに 「しばしの我慢ね・・・・はやく上陸班が帰還できるよう、祈ってて頂戴− 以上!」 みんなの一切のツッコミを許さず、新副長は再び新保安主任に、「所で・・・・作戦本部から何か指示はあった?」

「いえ、それはまだ・・・・」 パネルに目をやった新保安主任は、顔をしかめた 「・・・・あら・・・・通信が入って来てる− 作戦本部からじゃないわ・・・・発信所在が不明よ!」

新副長の顔に緊張が走る 「完璧にこっちは遮蔽しているはず・・・・ネヴァー・ランド側に知れたのかしら・・・・」 運航管理席に 「アトム?」

アトムはパネルを天才ピアニストのそれで 「いいや、地上からの通信ではないよ! かく言う・・・・ボーグや僚艦からでもない・・・・この惑星に停泊中の何らかの艦船からの通信である線が濃厚だけど・・・・先方も遮蔽しているのかなァ・・・・」 珍しく、歯切れの悪い返答だ

「取り敢えず、通信内容だけモニターさせてくれない?」 新副長は立ちあがった−

スピーカーから聞こえて来たのは、こんな声だ・・・・「申し訳ありませんが、この宙域に 『ティンカーべル号』 とランデヴーした艦がいらっしゃいませんでしょうか・・・・ちなみに 『じゃむ』 なる人物が乗船していると思われるのですが・・・・」

 ブリッジ全員の頭に、一斉にクエスチョン・マークが付いた

「一体どう言う事?」 新副長は新保安主任をみやる

「どーも、この艦の事を言ってるみたいね・・・・『ジャム』 って、あいつしか考えられないし。」 首をすくめて新保安主任 「返信する?」

「無論、ちょっと待って!」 カウンセラーを− 「カウンセラー、相手の存在、感知できる?」

カウンセラーは意識を集中させた− 「ええ、非常に近くにいる気がします− しかしながら異常な悪意を感じるのです・・・・警戒してください!」

「非常警戒体制!」 副長の宣言と共に、ブリッジの照明が切り替わった! 「アトム、使えるセンサーを総動員して、相手の正体を探って!」 後ろに向いて新保安主任に 「あなたは、『ティンカーベル』 との通信チャンネルを空けて頂戴!」

新保安主任は 「待って! 『ティンカーベル』 を呼び出すには、幾つかの中継拠点を経なくては現状ではムリ・・・・こっちも遮蔽しているので限界があるし・・・・」

アトムからは 「先方の正体は相変わらず不明・・・・ただこのプロトコルとパターンを鑑みると、ロミュラン船籍である可能性が濃厚です!」

 −ロミュラン! 今、一番現れて欲しくない相手だ!

 

 

 まぁ、予想通りと言いましょうか、なんと申しましょうか− ラクーバの割り当てはひとパーティ当りの取り決めがあり、それに加えて戦争の噂でツアーは次々中止、星系外に疎開してしまったものもいて、「ユニバーサル貿易:慰安ツアー」 の一行が借りれたのは、2頭のラクーバのみだった。結果 −およそお決まりで− 荷物をたんまり背負ったピカークが、ひーひー言いながら2人の 「姫」 を乗せたラクーバのあとを追う形になった訳だ− 恒星日誌で済ますべきこんな凡庸な説明記述は良くないが、そんな口述もハショリたいくらいに面倒で疲れた気持ちでいっぱいだった。

 ただ、陽気と天気だけは嫌味の様に素晴らしく、天は澄み渡り、風はおだやか。そして気圧と重力は最適のそれに環境調整されていた− まぁ、都市近隣のハイキング気分で”健全な”険しい山岳トレックを楽しめるアトラクション、との寸法だ。

 「・・・・全く・・・・なんでこんなことに・・・・ならなぁあかんのや・・・・」 それでもやっぱり、息は絶え絶え!

「じゃむ・・・・つらそう・・・・だいじょうぶ? かわり、ちょっと持とうか− 反重力ランチャー、わたしも使うか?」

ジャッジュアが誰に似ているのか、やっと解った −白石美帆だ− だがどうせ、疲労の末のアコギな幻想だろうが!

「ありがとう、ジャッジョア− やさしいのは、君だけだ」 ありったけの笑顔で 「ランチャーは一基しかないから、君が使えばいい。」

「あたしジャッジュア− いいかげん、おぼえて!」 一喝されて、距離をおかれちまった!

 なんでこう、いっつも誠意がうらめんだろう・・・・

「そこの下々の者、なにをつべこべ言ってるの?」 ドクターめ! 「さっさとついていらっしゃい!」 あらあら、機関長までにこにこしながら、ラクーバに楽ちんそうにくゆられてるよ!

「お〜い、アリー! この、『自前おいしいお水セット』 くらい、自分で持ったらどーなんだ!」 思わず、どなっちゃう!

「べぇ〜!」 ラクーバの背中から、思いっ切りのアッカンベーがかえってくる! 「それより、ちゃーんと、ゴミを拾うのよ!」

「はぁ〜い!」 背負ったゴミ籠に、長バサミで空缶拾う・・・・確かに、リゾート地のマナーは悪い− そこら辺、ゴミだらけや。

 でも、なんでこんなことしてんのやろ・・・・そっか、その内俺も、こんなとこに捨てられるのかぁ(シミジミ)・・・・

 プープープー!

このビープ音は、やっと手に入れたばかりの 「初代エンタープライズ型」 携帯から! ピカークは古式に則って、ジャッジュアに 「失礼!」 と告げるとちょっとパーティから脇にそれた−

 キュキュキュ! 「ピカークだ!」 たまらんネ− このグリット音ッ!

「こちら副長です− 船長、ちょっと不味い事態になりました・・・・」

 やっぱりボーグ・ソフィア・・・・じゃなかった・・・・ボーグ・スフィアが来たか?

 新副長いわく 「実は・・・・船籍不明艦が、ティンカーベルと接触した 『じゃむ』 なる人物にその接触の方法を教授願いたい旨、通信してきました・・・・先方はどうやらロミュラン船籍で、遮蔽している様です。」

 やっぱ、ボーグ・ソフィアだ!

「丁重にバックレて、おひきとり頂いてくれ− 何らかの方策で、民間を装う様に。今、こちらが宇宙艦隊である事がバレては不味い。」

「遮蔽している以上、難しいですが、方策はこちらにお任せ頂けますか?」

「無論だ」 きっばり、とピカーク。

「了解しました、船長 −なお、シールドを強化しますので、通信はしばらく不能になると思われます− 副長より以上!」 彼女は全くツッコミを入れなかった・・・・優しい娘だ− 前任者だったらナに言われていたものか・・・・

 ピカーク、自分の未練にちょっと驚く− 確かに一瞬、AGFのCMがよぎった・・・・

 「いったいなに?」 ジャッジュアが近くに覗きこんでいた

「あ・・・・なに・・・・なんでもない!」 パチン! フタを閉じてにこやかにポケットへ 「残してきた同僚から、仕事でトラブルの話さ。」

「そう・・・・それもよく聞く話!」

 残り若干2名も、ラクーバをおりてこっちにやって来た 

「なにかあった?」 機関長が艦を慮ってか、第一声を。

ピカークは、はばかってジャッジュアに 「ごめん− 仕事の話なんだ・・・・ちょっと外してくれるか?」

ぷいっと彼女、えくぼを膨らまし、「ふん! つまんないある!」 向こうに外してくれた

 2人に向いてピカーク、事情を説明する−

「なんで、『ティンカーベル』 がロミュランと関係あるの?」 ドクターのご懸念は、ごもっとも。

「それって、夢ないじゃん!」 機関長のお気持ちも、ごもっとも。

「さっぱり、訳わからん・・・・」 珍しく、ピカークは唸った・・・・

「だから、いいかげんにしなさいよって、忠告したでしょ!」 最もレアな機関長のご叱責 「あなたのコンプレックスは解っているつもりだし、ボーグ戦に支えが必要なのも理解できるけど・・・・」

「まぁね・・・・ライカーが羨ましいのかナ、やっぱし。あの嬉しそうな2人の結婚写真− ほんまもんみたいだから、笑っちゃうよなァ!」 しみじみとピカーク。

「どーすんの? 作戦本部に報告して帰艦する?」 腕組みでドクター

「いや、このまま 『ネクサス探訪』 を続けるさ− 本部を煩わせてボーグの侵攻を早めたら事だし、それにあの新副長なら、ロミュラン一隻任せても安心だろう?」 手をおっぴろげて、いかにも造作ないかの如くに。

「ギャラクシー級艦は、オンボロ・バード・オブ・プレイに撃破された前科があるわ。」

サラリと言ったドクターのそのセリフ、機関長にカチンと来る

「そんな手抜き整備は、してないぞ!」

「まーまー、2人とも!」 なだめ様などとの、ピカークの不届きな想い!

「原因は、アンタでしょう!」 けだし、お2人の合唱!

「すんません・・・・」 ひたすら、きょーしゅく・・・・

「あーあ、全く手のかかるガキだよ、おまえさんは!」 ドクターはサジ折って、ラクーバに戻りかけた・・・・

 「ねぇ、ちょっと・・・・トライコーダーが効かなくなった・・・・」 その途中機関長が、当惑気味にかざしながら−

「え!?」 残る2人ともども、再び集合!

「ほんとだ! 座標精度が話んなんないくらい− これじゃぁ、まるでただのGPSだ!」 覗き込んでピカーク 「このあと、どっちにいきゃぁいいんだ?」

ドクターと機関長、揃い踏みで 「あっち!」

 但し、指した方向が違う!

「なに!? ほうこうどっち? ティンクの勝ち!」 おやおや、しびれ切らしたか、ジャッジュアだ 「ここ、ぼつぼつセンサー無力地域、原因、イワだってはなし!」 トライコーダーをみつけて 「スゴイ! 連邦のトライコーダー! どこから仕入れた? ここではよい値段!」

「旅が終わったら、オミヤにあげるよ!」 ピカーク、そりゃ貴物横領だ 「所でアリー、方向音痴でコロビグセ持ちが、どーやって山登りする気だ?」

アリーは 「ふん、おーきなお世話っ!」 憤慨して、そのままラクーバへ

「おこっちゃった! じゃむ、しつれい!」 ジャッジュアも些か奮起

「最近になって、あのレッドオクトーバーの提督の皮肉なユーモアが女性にモテてるって、全くのフィクションである事がやっと解ったよ!」 ジャムくんの、『手遅れになってから学んだいろいろ』 の一節!

「ぐずぐずするなよ!」 とっくにラクーバに戻ったふたりの声が、美しいコダマになってやって来る−

 ピカークはちょっぴり微笑むと、荷物の肩あてを正してから担ぎ直してジャッジュアに手を差し伸べ、彼女が笑顔で手を取るのを見極めてから、ふたりのあとを追った。

 

 

 「先方から、また照会通信−」 新保安主任は、キレイに手入れしたシャープな指をコンソロールに走らせながら、焦り気味 「無視すると、騒ぎになりそうよ。」

新副長は、あらゆる戦略を考え巡らせた− 問題は、敵に遮蔽艦からの通信でない様に思わせる方法だ・・・・

「軌道上に、通信衛星は何基ある、アトム?」

アトムは間髪いれず 「284基です− 内、機能中のものが226基!」

「保安主任−」 新副長はずっと仁王立ち− 「複数の通信衛星を通って、カモフラージュ通信を試みて頂戴!」

「了解− 任せといて!」 腕まくりして、舌をかわいらしくペロリっと! 「準備できたわよ!」

「チャンネル・オープン!」 ピピッ! 「こちらは、 『ティンカーベル』 と最後に接触した船です− 残念ながら、『じゃむ』 なる人物は今この船にはおりませんが・・・・」 新副長は、敬愛する前任者の姿を想像して−

「・・・・申し訳ないのだが、位置が確認できない・・・・そちらの船籍と所在宙域をお伝え願いたい−」 一見丁寧だが、不気味な雰囲気が漂う・・・・

空咳のあとに 「正体不明の船に、明かす義務はないと思いますけど−」

しばらく間があいて− 「それもそうだな・・・・こちらは、『テロリスト』 だ・・・・」

新副長は、アトムに調査合図! 「なぜ、接触方法を知りたいの?」

「それは直接、『じゃむ』 なる人物に問い正したい−」

「副長−」 アトムからの合図だ− 新副長は一端 『首切りポーズ』 で、通信をカットさせる

アトムいわく、「『テロリスト』 は、2チャンネルにも書き込まれていた、ロミュランのタルシアの流れを汲む、ガンマ・ハイドラの中立地帯を本拠とする文字通りのテロ組織です− ゆゆしき事態と言えます!」

 なんでこんな時に−

 新副長の顔が、一瞬の内に凍り付く!

 

 

 前方に崖崩れあり− キャラバン隊は、足止めを余儀なくされていた。ジャッジュア曰く、メンテ・チームはもう疎開してしまったのだそうだ。

 ピカークは崖のすぐ脇に立って、先を伺っている。道は、前方約100メートルほどが谷に飲み込まれていた。無論そこは渓谷で、道のみが際立ちそそり立っている感じだ。眺めこそいいものの、余りご機嫌な場所ではない− 再転送願うか・・・・でも、ジャッジュアになんて説明するかな・・・・

 「タケコプターかなんか、持ってないの?」 ドクターが機関長に

「それって、『のび太くんのお守り』 繋がりってこと?」 機関長はため息混じりで。

「おふたりとも、なんか言った?」 ピカーク、崖からふりかえりざま。

「いいえ、なんとも!」 このふたり、最近息が合い過ぎ!

「さてと・・・・」 ピカークは、200M程先の大木に、これも 「初代エンタープライズ・キット」 に含まれていた初期型フェイザーを取り出し、狙いを定めて撃ち放つ!

 大木は轟音と共に、あさっての方向へと倒れた!

「さすが、『のび太くんの射撃』− でもまさか、こっちに倒れて橋がけするのを狙ってたんじゃないでしょうね?」 と、ドクターは厳しいツッコミ。

「いーや! さすがにそこまでは!」 ピカーク、ジャッジュアの反重力ランチャーを 「ちょっと貸してネ」 ひょいっ、と足をかけると、マーティよろしく反重力ボード代わりに崖を渡ろうとした− が、かなりヨロッてる・・・・

「大丈夫〜っ? それって、人が乗れる仕様にはなってないわよ!」 口に手をかざし、機関長が叫ぶ!

「だいじょーぶ・・・・だぁぁ!」 ちょっとひっくり返りそうに!

「ジャムッ!!」 3人の乙女の叫び!

なんとか体制立てなおし− 「へっき! へっき!」 目をつぶり、何も見ない様にして・・・・

 そのヨロヨロのランチャーは、栄養失調気味のピカークゆえか、難なく向こう岸まで引き渡せた。ひょいっと着地すると、彼は倒れた大木をフェイザーで加工し始める。

 その間、反対側の岸に残された女神達は、およそ渡り難いであろうまだその姿のないオンボロ木橋を想像しながら、荷物やラクーバを整理し始めた−

ジャッジュアがティンクに 「ねぇ、ティンク、あなた達、実は盗賊? 違うか?」

「なんでそう思うの?」 あのアルカイック・スマイルで。

「だって、艦隊の備品、沢山持ってる!」

「あら、だったら艦隊士官かもしれないわよ?」 ちょっと真面目な顔して、バックのまだら紐に手を当てながら

ジャッジュアはケラケラと笑い、「ジャム、ヤワすぎ− 艦隊士官のハズがない!」

 機関長、意表をつかれて爆笑! 他方、それを見て目をパチクリのジャッジュア−

 さて、向こう岸の作業はぼつぼつ終わりを告げようとしていた。ピカークはとても持てそうにない丸太の脇を腰を駆使してひっぱり、片一方を反重力ランチャーにやっとこさ乗せた。

「げぼ!」 もー、くたくた!

「おーい、ランチャー、こっちに戻さんか?」 ドクターが 「ひとりじゃ、むりだろ?」

「なんとかなるよ〜!」 やせがまん。

ランチャーで丸太の先端を先ずは支点になるべき場所まで動かし、そこでどかんと転がし、次に反対側をのせ・・・・ピカークはそれを数度繰り返し、やっと片方を崖の端にまで持って来る事に成功した。さて・・・・残る端をランチャーにのせ、向こう岸まで渡さねばならん・・・・

様子を見ていた機関長− 「ジャム! トライコーダーでランチャーをリモコンするから、丸太をのせて縛って頂戴!」

「いや、駄目だ! 地面の上を走らすのと違って、脇に付いている訳にはいかん− 俺も同乗せにゃ!」 思いッ切りの声に、木霊がスゴイ数だ。

「ジャム! 絶対危険よ! ラクーバ抜きで、あとは徒歩にしましょう− 1人ずつランチャーに乗ればいいわ!」 ドクターの提案は悪くはないだろう・・・・しかし・・・・荷物が問題だ。

「いいや、やるだけやってみよう! 付近の丸太はこれ一本だ− 失敗は許されん!」

 ピカークは丸太の脇をよっこらせ、と我が身も収めた−

「ジャム、アリーの言う通り、ここはしばらく考えてからにしましょう!」 機関長も警告を。

 よくいる、女のコの前でえーかっこしーの御多分に漏れず、そしてハーレムで起きているであろう事への懸念ストレスの解消の為か、えいやぁ! とピカークは丸太を押さえながらランチャーにのっかった!

 「ジャム!!」 さすがの女性陣の奇声!

 最初は順調だった− よろよろとしながらも、丸太を結んだ縄を十二分に抱えて、ランチャーは崖の狭間をようやっと手繰っている・・・・しかし・・・・半分ほど来た頃だろうか・・・・突然の突風が、ピカークからバランスを奪ったッ!

 「うわぁぁぁぁ!」 瞬時のダイヴ!

 丸太は轟音と共にこちら岸の6メートル程の所に引っかかり、砂塵が舞う!

 ランチャーは、ピカークと運命を共に−

 間髪入れず、機関長はトライコーダーを調整! 「ジャム! ランチャーにつかまって!」

 ジャッジュアが、続けざまロープを投げ差す!

先ず、彼女の投げたロープがあっという間にピカークの足に巻きついた− ピカークはピカークで、脇で泳いでいるランチャーにとっさに抱き着いている− 火事場の馬鹿力そのものだ! 次の瞬間、ランチャーはバランスを取り戻し、ロープがピカークの足を引き戻した− この順序が違っていたら、ピカークの足はどうなっていたかわからない・・・・

 意外にドクターはその時点で、青くなって立ち竦んでいた・・・・無論それは一瞬で、その直後医療キットに駆け寄ったものの、その間に全ては終わっていた訳だ

 数秒後、崖から飛び跳ねて来たランチャーに情けなく抱きついた姿のピカークがびよ〜んと現れる− 慌てた機関長、ゆっくりとランチャーを調整させて、目前に軟着陸させた!

 駆け寄ったドクターを目の前にして、ピカーク、やっとこさランチャーにへばり付き 「おーい、晩飯まだかぁ〜!」

 

 

 こっちは、もっと緊迫した状況だった−

 「なぜ、先方は越境できたのかしら?」 新副長は、アトムに再度切りかえす−

「ガンマ・ハイドラからなら中立地帯に沿って来れば、ここまでは然程遠くはありませんし、『ネヴァー・ランド』 側は現にその自治ルートでロミュランからの客を受け入れています− 連邦も黙認していたのが実情です。」 アトムは、指揮官としての友人に敬意を払って

「ありがと!」 そして保安コンソロールに 「ねぇ、 『ティンカーベル』 はまだ呼び出せない?」 こう言う時、新副長は血がたぎってしまうのだ −いっそ攻撃したい欲求にこそ、駆られる

新保安主任も焦り気味− 「いかんせん 『テロリスト』 の通信に阻害されちゃって、経由通信がままならないのよ!」

「こまったなぁ・・・・」 うっかり呟いてしまった自分に、再び舌打ち! 「アトム、先方の位置はどーしてもつかめない?」

アトムは 「どうやら、例の新型遮蔽装置を搭載しているよう− 先方の遮蔽は完璧ですね・・・・」

そーなれば新ネタしかない! 「カウンセラー、あなた、テレパシーで 『テロリスト』 の正確な位置を探れない?」

カウンセラー、あの目をさらにきょとんとさせて! 「あたしに、先方の 『妄想の相手』 をしろとでも!?」

新副長、慌てて 「そんな事言ってないッ! 純粋に存在を探って!」

カウンセラー、ちょっと当惑気味に 「やってみますけど、相手がテレパスかこの世のものではないと、効果ないかもしれませんよ!」

新副長、ちょっと興じて 「お願い!」 続けてアトムに向かって 「無論、貴方がそこで手を握ってあげて!」

「了解!」 カウンセラー、運航管理席のアトムと代わり、アトムはその脇で優しくカウンセラーの手を取ってコンソロールの宙域図にかざし、カウンセラーは精神を集中させ始めた−

 「第1中継ステーションとの連絡がつきました −引き続き、第2中継ステーションにプロトコル送搬− どれくらいかかるか、これでは読めないわね!」 真摯な新保安主任− 決める時は決めてくれる!

「お姉ぇちゃん−」 新副長は、助けを求めるかの様に操舵長に呼びかける 「一端、軌道を離脱して頂戴 −但し、ゆっくりね− カウンセラーを乱さないように。」

「わかったわ−」 このうえなく優しく、お姉ぇちゃんは妹の命令に順じる 「スラスターで離脱して、この宙域の絶対座標に一端停止するわね−」 アドバイスもきちんと添えて。

「ええ、そうして・・・・」 途方もなく安堵 「・・・・ありがとう・・・・」

保安コンソロールから 「中継ステーションの協力で、『テロリスト』 の通信を傍受!」

「スピーカーに出して!」 新副長は、きびすをかえす!

まもなく、スピーカーからはおどろおどろしいこんな声が・・・・ 「・・・・間違いない・・・・ロミュラン・エール1千ダースの密輸を極秘に行ったのは、目前の船籍不明艦にいる 『じゃむ』 なる人物だ・・・・船籍不明艦は強引に接触して、『ティンカーベル』 にそのケースを運び入れたハズだ・・・・奴は悪質なストーカーだ!」

「ロミュラン・エールの密輸!?」 新副長は絶句する− 「それで資金稼ぎしてたって、それってフィレンギの間違いじゃないの!? 大体、『ティンカーベル』 って、交代要員を運んで来ただけじゃない!?」

「あたしもあの艦がそんなことに関係あるなんて、信じられない− 一応、乗船チェックはしたもの」 新保安主任から 「それにジャムがストーカーなら、もうとっくに捕まってると思う!」

「ここのクルー全員のマネージャーがそう思ってるわ・・・・全く、どーなってんのかしらね!」 新保安主任、艦内公演の一件が脳裏に 「−とにかく、『ティンカーベル』 側との接触を続けて− それから、上陸班との連絡はとれそう?」 苛立ちを隠せずに

「連絡自体は可能よ −でも、セキュリティが甘くなって、敵に位置がバレるかも−」 なんとも珍しい神妙な新保安主任 「遮蔽装置のレベルをいじる必要も・・・・」

「構わない− やって頂戴!」

 

 

 無事丸太橋を渡り終えた一行は、山並みのちょっとした平地に今夜の宿を構えることとした。夕刻の空も、また黄金色に輝き、それはそれは美しい眺めだった −ただピカークは、ハメを外したバツとしてその野営テント一式を設営する役目を担っていた− もっともバツじゃなくても、やらされてはいたろうが。

 へとへとになりながら、やっと最後のぺグを打ち終えたその時− 例の通信機が鳴る

バック・ポケットから得意気に、キュキュキュッ! 「ピカークだ!」

「ああよかった!」 慌しそうな新副長 「船長、お伺いします− 『ティンカーベル』 に乗船した時、1千ダースのロミュラン・エールのケース群を目撃なされましたか?」

「ロミュラン・エール?」 ?? 「ああ、カウンセラー候補に渡したやつね −ただ、ぶっつんであったケースなんぞ見てないよ− 在庫がなくて苦労したくらいなんだから・・・・それがどうかした?」

「それのロミュランの密輸品との関係って、心当たりあります?」

「あ?」 今度はピカークが当惑する番 「あれは 『ティンカーベル』 の艦内に置いてあったものを、正式に購入したものだよ−」

「で、船長、レシートは受け取りました?」

「いや・・・・あ、しまった・・・・かなり慌ててたんで、購買におきっぱなしだった!」

「それって、『ティンカーベル』 の購買ですね?」

「そうだよ− ヴィンテージのロミュラン・エールには個別番号があるからね・・・・もっとも御存知の通り、いまだに連邦領域では禁輸品だけど− 解禁されたんかしら?」 のんぴりと、バケーション・モード。

「解りました、船長! これで解決つきそうです− どうも!」

 疑問符いっぱいのピカークは再度連絡を試みたが、空電がのるだけ−

 

 

 「解ったわ! 『ティンカーべル』 に連絡をとって、ピカーク船長が購入したロミュラン・エールのレシートと番号を照会して、経由ステーションを通じて送って頂戴! 密輸品との疑いが晴れれば、『テロリスト』 は他を探すはず!」 いつになく激興、「急いで!」

「先方の位置がつかめた!」 アトムが集中しているカウンセラーに代わって!

「攻撃しちゃえば?」 新保安主任のぼやき

「騒ぎになれば、作戦に支障を来すわ− それだけはダメ!」 だが昔の自分だったら、同じ事を言ったに違いない−

取ってかえして新保安主任 「どーして船長が、ロミュラン・エールを買った情報が流れたのかしら?」

新副長いわく 「きっとカード情報か何かから漏れたんでしょう −あのひと、金欠だし− 先方もこの宙域の物流情報に目を光らせていた訳だし・・・・」

たて続け保安コンソロール 「『テロリスト』 からの通信よ!」

言葉なし− 新副長は指をかざしてスピーカー、との合図を!

「最終通告だ・・・・そちらの艦に乗船している 『じゃむ』 なる人物を引き渡さなければ、貴艦を破壊する− 『じゃむ』 なる人物は極めて危険だ− プログラムを改変し、1千ダースのロミュラン・エールを横流ししようとした!」

「プログラム改変・・・・ガンマ・ハイドラのロミュラン・・・・終わったあとのロミュラン・エール・・・・これって!? 正に!?」 新保安主任、吼える!

アトムから 「正に例の 『解決法のない卒業シュミレーションテスト』 のシナリオ通りです −奇遇ですね− もっとも奇遇と言って先方に通じるかどうか疑問ですが。」 首をかしげ 「やっぱり、解決法ナシ?」

「これって、もしかして 『ネヴァー・ランド』 のアトラクション・プログラムじゃないの? ダズニーが、アカデミーのシュミレーターからそれこそ忍び込んで持って来たとか!?」 目を輝かせて新保安主任! 「ひょっとしてバーマン長官が言ってた”民間人体験ツアー”?」

新副長、そのジョーク一蹴! 「それより、連絡は?」

場をなごませるつもりの気遣いを蹴られて一瞬、ムカッと! 「まだ!」

「仕方ない・・・・」 指揮官としての初めての決断・・・・ 「アトム! 先方に照準を合わせて、光子魚雷発射準備!」

そのアトム 「『テロリスト』 艦の僅かなエネルギー・サージ感知− 先方も発射準備中と思われます! こちらも光子魚雷準備よし!!」

「それでは・・・・」 新副長が発射合図を出そうとした、正にその瞬間!!

保安ステーションから! 「今2つ目のステーションを経由して 『ティンカーベル』 から通信が入った! −レシート番号その他購買情報を送搬− 『テロリスト』 に経由!」

 ブリッジは水をさした様に、シーンと・・・・

おごそかな声がスピーカーから 「・・・・どうやら、違っていたようだ・・・・一応、ありがとうございます・・・・」

アトムから 「『テロリスト』艦からのエネルギー・サージ停止・・・・退却した様です!」

 どかっと指令席について新副長 「ふぅ・・・・」

「人に迷惑かけといて、お詫びなし?」 新保安主任が 「まったく、『じゃむ』 もジャムで、人騒がせなんだから!」

 新副長は気が抜けて、ぐったりしながら席に戻るカウンセラーに 「ありがとう」 とやさしく声をかけるのが、精一杯だった・・・・

 

 

 「いやぁ、悪かった・・・・こんな事になろうとは・・・・」 ピカーク、通信機を手に反省しきり。

「まぁ、結局は何もなく終わったので、よかったですけど」 新副長は、優しいよね、ホントに。

「通信を中継してくださった2つのステーションについては、この場を借りてお礼が言いたい− ありがとう!」 真摯にピカーク。

「ほんとうですよ・・・・きちんと、お詫びしておきますからね! 全く、『卒業試験は、戦争で受けてない』 んじゃなかったんですか!?」 それでも、さすがにあきれ半分か?

 「へっへっへ! 結局受けちゃったね!」 穴があったら、なんとやら!

 「船長、ぜーんぶ聞いちゃいましたよ!」 あーあ、その声はカウンセラー! 「”オチャノミズ”にも現れたら、即タイホですからネ!」

冷や汗のピカーク 「あそこは、俺のテリトリーじゃないよッ!」 ただしニヤっと 「実はティンカーベルに乗船した時、すぐ横に君の 『保母さんポスター』 が貼ってあって、どっちを選ぶのかそこまで迫られるのか! と、ひとりでバカウケしてたんだ!」

「せんちょうっ!!」 カウンセラーの激怒の声が!?

「ごめんごめん!」 ピカーク、慌てて取り成し 「やっぱ、カウンセラーは玄人の艦隊士官に留めておくよ− それが最低限のエチケットだし!」 そして、やっぱりちょっぴりセンチに 「無論、彼女は彼女で本当に裏のない素晴らしい”カウンセラー”だったが・・・・それにしても、彼女が何事もなく無事幸せになれたのは、ひとえに副長と機関長の 『サイテー男被害者の会』 の支援のおかげだ! 現に2人とも、幸せになっちゃったしね!」

 横から機関長がヌッと 「だってさ、副長! お互い、この 『宇宙一の不幸者』 のなーんばいも幸せになっちゃいましょうネ!」

新副長は 「はぁ〜い、機関長! そうしちゃいましょうネッ!」

笑いっぱなしのピカーク 「全く、君たち2人を5年前にスカウトしたのは、実にラッキーな偶然だったよ!」

 実はちょっぴりほろ苦い失恋の味だったのだが、これで懸案の人事も決し、「俺は人並みの幸せなんぞ、求めちゃいけないさ!」 と、ピカークは改めてボーグとの決戦に、その意を定めたのであった!! 

 

 

第3章 終

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