第4章
「ごはんよぉ〜!!」 ドクターの鳴らすドラが、森閑とした森の中に響き渡れば、
「わかったよ、ドクター! 聞こえてるから、もういいってば!」 脇のピカークが、ご機嫌でそのドクターのドラを抑えやる!
キャンプ・ファイヤー! 一体何年ぶりだろうか!? とにかく昔の想いが甦り、ゆえにピカークはご機嫌なのだ! 炎にはそのドクターと、体育座りした機関長の姿が映し出されていた−
「あれ、ジャッジョバは?」
「ジャッジュアなら、ドラム缶に入って水の中でお休みよ・・・・さすがにバケツじゃ入らないみたい。」 機関長がにっこり
「そーか! 我らがリトル・マーメイドはお休みか!」 ピカーク、ちょっと残念そうに 「所でドクター、本日のメニューは?」
「えへん!」 改まってドクター 「前菜が 『マシュマロのビーンズあえ』、そして 『マシュマロ入りプロミック・スープ』、メインディッシュが 『マシュマロの残酷焼』、で、デザートが 『マシュマロのチョコレートパフェ・トロイ風味』 よ!」 で、脇にちょこっと 「我が家秘伝のカツレツを、こそっと添えました。」
「マシュマロのフルコースか!」 コーヒーカップを楽しそうに 「うまそうだ!」 お付き合いにて 「カツレツも!」
「ではまず、 『ビーンズあえ』 から!」 ドクターは突き出されたピカークと機関長のブリキ皿に、まるで泥の様なあえものをドカッとよそう
ピカーク、スプーンで口へと運んで 「う・うまい!」
「ジャム、さっきっから感嘆符しか言ってないわね−」 機関長はちょっと匂いを嗅いでから、マシュマロのビーンズ和えを同じく口へと運んだ 「あ! 見た目よりいける!」
「でしょ?」 得意気な、にわかシェフ 「たんと食べてね!」
「ふたりとも、どうだ?」 ピカークはどこから持ち出したのか、こっそりと青い液体の入ったビンとグラスを 「2チャンネルでもすっかり有名になった、20年モノのロミュラン・エールだ− めったに口には出来んゾ!」
「あきれた!」 だが、機関長は目を輝かせ 「でも、せっかくだからもらっちゃおうか!」
「そんなんで、いいわけ?」 ドクターも怪訝ながら 「でも、役得だから、この際ご相伴に預かりますか!?」
「そーこなくっちゃ!」 青色の液体を2人のグラスへ− ドクターから返杯されて、まんざらでもなさそう! 「では、乾杯と参りますか−」 ピカーク、咳払いして 「”未踏の彼方に”!」
「”我らが未来に”!」 お決まりの乾杯音頭を以て、3人のグラスがカチン、と涼しげなハーモニーを奏でた
メッタに口にはできぬその青色の液体をぐいっと− うーん、やっぱほろニガい!
「全く、人騒がせよね− 実害が出なかったから良かったものの、艦隊におけるあなたの評判、決して良しとしたもんじゃないわよ!」 ドクターが毒づく
「先刻ご承知− ”パスファインダー計画” に参画するには、強力なカウンセラーの助けが必要だったのさ。」 さらりっとそしてニヤっと、ピカークは言ってのく。
すっとぼけて機関長が 「ねぇ、こないだ入り口で待っててくれたの、ジャム?」
ピカークの口から、ロミュラン・エールが思いっ切り噴き出した− くべられた炎が一瞬ボッと勢いつく!
「んな訳ないでしょ! デマチなんぞ論外! 艦隊士官のパスがあるからこそ、施設に入れるんだゾ!」 もう、ウンザリ、とピカーク!
「おやまぁ、偶然ばやりでご機嫌でらっしゃる事−」 ドクター、いなせにロミュラン・エールをくいっと! 「うーん、うまい!」
「全く、正義のヒーローは孤独だねぇ・・・・」 ちょっとタメイキと憤りで 「・・・・善意が善意にならない、せちがらい世の中になっちまった・・・・誰かさんいわく、『紳士的なれどストーカー』 との御命名!」 両手をおどけて、ひるがえす 「♪こげこげ、ボート♪ ♪揚々と♪ ♪どーせ人生、セコイ夢♪」
ドクターが吹き出す 「そーくるだろうと思った!」 そしてタカラかに 「♪こげこげ、ボート♪ ♪揚々と♪ ♪私の人生、夢の宴♪」
機関長、結構いいノリで続く 「♪こげこげ、ボート♪ ♪揚々と♪ ♪私の前途は、夢いっぱい♪」
そしてその歌、根性で20分は歌い継がれた −さすがに声がガラガラのピカークに、してやったりとドクターと機関長は歌を止める− 「気が済んだ?」
いい慰め方だ 「ああ、ありがと! すっきりしたよ!」
「それはそうと・・・・」 ドクターは既にメインデッシュを皿に盛っていた −実にすばやい展開だ− マシュマロ入りプロミックスープは既に配り終わっている 「一体全体、さっきのええかっこしーはナニ? あんな危険な形で憂さ晴らしする事もないと思うけど!」
そのスープで焦げだらけのメインデッシュを無理やり流し込んでいる機関長は 「そーよ! リモコンがうまく利いたからいいけど、普通だったら確実にお陀仏よ!」
ピカーク、ロミュラン・エールのグラスをもったいぶってくゆらし、ふたりを伺ってタメをつくった− そして・・・・
「いいや・・・・俺はあの時、決して死なないと解っていた・・・・」 一点を見詰めて、極め付けキザに 「俺が死ぬのは・・・・君たち2人が傍らにいない時だ・・・・」
言いたくて仕方のなかった −いや、これが言いたいが為に3人で山登りしたと言っても過言ではないセリフに恵まれて、得意気に2人に視線を戻したが− 「あれ?」
そこには、だ〜れもいない!
「じゃむ! こっち、ある!」 後ろの方から、ジャッジュアの声が−
「どーしたんだ?」 ピカーク、立ちあがって後方にいた3人と合流した
ジャッジュアは正に、水もしたたるいい人魚! 「サーベル・タイガーの鳴き声、聞こえた起きた」 聞こえたんで、起きたんだな? 「サーベル・タイガー危険! ひと、簡単に食われる!」
「何か、対処法はないの?」 片手にまだ、おたまを持っていた− ドクターは。
「サーベル・タイガー、起きている人、襲わない。寝てる人、襲う。ちょっと、ひきょう。」 ジャッジュアのエクボに水が通って、一瞬焚き火の炎が写し輝いた
「では、交代で番しかないわね?」 機関長らしい、ストレートなご意見。
そこでピカーク、思い付く 「そうだ、いい考えがある! 交代で番する必要はないぞ!」 くいっと機関長をかえりみて、「機関長、ふたりでその林の入り口の所で休もう− 但し君は、その木によっかかったまんまで。」
「え〜! それって、あたしたちだけ ”万年見張り” ってこと?」 当然不服そう
「そっか!」 主治医であるドクターは、すぐにピン! と来たらしい 「それは実にいいアイディア!」
「え! なになに!?」 蚊帳の外で珍しく焦り気味の機関長。
「だろ?」 薄気味悪い笑みでピカーク、ドクターにニンマリ− でもって機関長の腕を取り 「さぁ、マダム、おとなしくこちらへどーぞ。」 寝袋付きザックを背負い、片手にはキャンプの必需品、懐中電灯が握られている。
「あら! お2人で肝試し? デザートとコーヒーがまだよ!」 ドクターのおかえしチャチ。
腕を取ったピカークは、やっぱ 『ちっとも華麗じゃないダンディ』 がいいとこだ 「アリー、チョコレート・パフェは出前してくれ− 幽霊と一緒なら、お化けも出まい!」
機関長は不服そう 「ちょっと、どこいく気? 嫁入り前なんだからね!」
ピカーク、くれぐれも紳士的に 「"抵抗は無意味だ"!」
すがすがしい朝! 幼き日の山村留学の郷愁に浸ってあくびをしながら、その頃よく遊んだビニール・プールのもっと立派なドラム缶スタイルのそれに優雅に羽を休めているジャッジュアを、どこかの博物館の芸術作品の如く鑑賞したドクターは、早朝からひとりお片付けの真っ最中。あらかた終わると出前のパフェを撤収すべく、100Mほど離れた見張り場に赴いた− おかげでサーベルタイガーは一匹も現れなかった様だ。
いたいた! ドクターはその機関長の姿を見て、不謹慎ながら笑ってしまった− 木にもたれ、手にはフェイザーがしっかと縛りくくられており、無論彼女の習性からして、目を開けたまま寝ムってる(!)
全く嫁入り前の淑女をさらし者にするとは、悪趣味な奴だ! ドクターはその脇の寝袋でノウノウと寝ているピカークの所にやってくると、思いっ切り腹の辺りを蹴っ飛ばしてやった!
「あた!」 何をやっても感謝されない 『紳士的されどストーカー』 は、慌てふためきビビリまくって上半身を起こす 「家賃なら、あとで必ず払います!」
「なに寝ボケてんだよ!」 お得意のタンカが! 「じょーだんじゃないよ! 可哀想じゃないか!」
「だって、ドクターもわかってたんじゃん!」 ピカーク、不服申し立て 「この場合、他に手、ないっしょ!」
「う〜ん!」 ひとあくびと共に、機関長が目覚めたらしい− 一瞥では解らないけど 「おはよ〜」 で、縛られてる腕に気付き、「いや〜! 山賊に捕まっちゃったの!????」
「そんなわけないわよ!」 ドクターは、紐を解こうとかがみ込む 「ちょっとこのオタンコナスがオイタしただけ!」
「いいや、アリー、これ、ジャムのオイタとは違う・・・・」
木陰から身を半分だけ出したジャッジュアが、やけにもどかしげにそう告げた−
「?」 あさっぱらから、なんか妙な気が・・・・
ざわざわっと音と共にジャッジュアの全身が露呈すると、彼女の横には銃を突き付ける何とも無愛想な野人の姿があった− どこから見ても、友好的とは言えない。
「あらら!」 ティンクいわく 「言ったとおりじゃない! これで紐を解いてもらう手間が省けたようね!」
医療室のアリサの様子を慮るつもりが、何時の間にかホロドクターの診察台のカモに成り果てている −新副長は、時々自分の人のよさを腹立たしく思う事があった− 絶対に秘密なのだけれど。もっとも今調子が悪いのは、あのアホ船長の尻拭いをさせられた事が原因だ・・・・なんと馬鹿バカしくそれこそ無意味なストレスだったこと!
「いわゆる ”マリッジ・ブルー” なのではないかな? 全く、人間と言うのは不思議だ・・・・幸せなのに体調がおかしくなるなんぞ、ファンタジックだ− そうは思わんかね?」
新副長は診察台のウエで苦笑する 「私は、ちょっぴりスケジュールが詰まってただけです− 別段、ブルーなんじゃありません」 とは言え肩をすくめ 「まぁ、ダーティな業界に染まる事に若干嫌気がさした事は、否定しませんけど。」
「そうだろうな− 君のように実直な人間が丁丁発止に耐えられるのはせいぜい二十代までだ・・・・私も引退をすすめるがね。しかしこれほどの経歴の持ち主がまだ二十代後半とは、畏れ入ったよ! ピカーク船長なんて、もう40近いのに、まだ人生始まってないじゃないか!」 ハイポを首に 「よし、異常ナシ! 全くの健康体だよ!」
「ありがとうございました!」 ぽん! とベットから跳ねる! 「あの船長と比べたら、みーんな幸福の絶頂ですわ!」
「さもありなん!」 ホロドクターはご機嫌に 「見聞の為に是非にピカーク船長を診察したいと医療主任に申し出たら、珍しく断られた・・・・」
新副長は怪訝に 「断られた?」
ホロドクターは実に不服そう 「そうなんだ− 彼女が駄洒落以外で閉口したのは、コンビを組んで以来、これが初めてだよ!」
一体、どうしてなんだろう? 「アリサ?」 新副長はアリサのお見舞いかねて、そう彼女に尋ねた−
うーん、知らぬ存ぜぬと、なかばヤケ表情。
「なんとなく、解った!」 ホロドクターに向き直り 「ありがとう、ホロドクター・・・・診断結果はあとで報告願います。」
「いつでも訪ねてらっしゃい− お代はいらないのでオダイジに!」 ありゃりゃ!
そっとアリサに近付き 「なんかあったら、スイッチ切ってもいいわよ!」
「あたしの権限じゃ、消せないみたいなんですよ!」 憔悴し切ってアリサ
「なにを2人でコソコソ話とるのかね!?」 ホロドクターの一括!
「いえいえ、別に!」 慌てて手をシャッフルする2人− 「なんでもないでーす!」
アリサに改めて 「それじゃぁ、ふたり仲良くネ!」
無理かもしれない・・・・と心の中で思った新副長は扉をくぐる −そう、仲良くできると薦めたのは、お愛想だ・・・・それを平気で言えるようになったからこそ、自分には寿退隊が必要なのではないのか− と。
「さっさと歩け!」 蹴躓かれたピカークは、倒れそこなう
しかし、何でだ? 山賊どもにつかまったはいいが、今度はジャッジュアまでもがラクーバに乗り、歩かされているのはピカークただひとり・・・・20人はいるであろう山賊のキャラバン隊は残りの3人を夫々ラクーバに縛り付けたまま、山道をどこぞに丸半日辿っていた・・・・もうすぐ日暮れだ。
「一体、どこまでつれてく気だ?」 ピカークの上半身を縛った紐を持つ、隣の鬼の様な形相のキャラクターに尋ねる− およそダズニー・キャラではない。そんなナマハゲ達が不気味に数十人もいるのだ。
「うるさい!」 一括され、お仕舞い。
ドクターと機関長も上半身を縛られて騎上にいる。ただ、ジャッジュアが気懸りだった・・・・基本的にマーメイドである彼女が、この炎天下どのくらいの時間耐えられるのか解らない。現に彼女の顔はうしろからはよく伺えないが、その肩口は青みがかってさえいた。
そんなこんなで空の色がいよいよ黄金の輝きを増す頃、丘面が開けて突如、前方になにやら村の様なテント郡が出現した。普通TOSでは、これは奴らの野営地に決まっている。案の定、プラスターを構えた警備の鬼どもが一行を出迎え、フラフラのピカークはやっと地面に他の3人と投げ出される配慮に恵まれた。
「3人とも大丈夫か?」 カラカラの口で、絡む舌を何とかしながらピカーク。
「ええ、あたしとティンクはなんとか・・・・」 代表してドクターが 「でも、ジャッジュアが・・・・」
「ジャッゾバ!」 いや、今度に関しては舌が渇いて発音できなかったのだ。
「あたし、ジャッジュア・・・・」 生き絶え絶えで苦しそう 「・・・・ヤキソバンじゃない・・・・」
「おーい、誰か! 水を持って来い!」 ピカークが叫ぶ!
答えはいきなり横から飛んできた銃床だった− 背中を叩かれピカーク、アゴから砂に突っ込んだ
「ジャム!」 ドクターが体をにじり寄せてきた
「大丈夫だドクター・・・・このホロデッキ、フェィル・セーフがぶっ壊れているようだが・・・・」
「ここのキャラは光子構成体じゃなくて、少なくても分子合成のホンモノよ。もっとも、倫理サブルーチンは搭載しててくれてもいいわよね。」 なんか最近、皮肉めいてきた機関長− ジャッジュアに優しく寄り添ってくれていた。
落ち着く暇もなく4人は再びひっつかまれて、中央のどでかいテントまでコ突いて歩かされる。その間ピカークは、できるだけこのアジトの様相を頭に叩き込んでいた。およそ集会所か、親分のそれに違いない− 目標のテントは高さが10メートルほど、すすけた赤茶の野暮なデザインだ。
まるで不燃ゴミの様に、3人は扱われ、その入り口にぶち込まれる− 中はちょっとしたサーカスのテントくらいの広さはあるだろう・・・・豪華な装飾品が所狭しと並べ立てられている。
待てよ3人・・・・そうだ、一番後ろから来たジャッジュアがいない!
「ジャジバは?」 焦り気味にピカーク
ジャッジュアの次にあとから来たドクターが 「ジャッジュアでしょ− 随分とご執心みたいね?」 若干雰囲気読んで 「ごめん・・・・引っ張られてて気付かなかった・・・・」 で、機関長の様子を伺い、彼女もかぶりをふった。
余り待たされる事はなかった− ものの数分もしない内になにやらドラの様な音がして、仰々しいフードをした見るからに 「お付の美女」 と言った感のある女性達の行進の奥から、神輿の玉座に担がれて、ああ! ついに出ちまった!
その玉座が中央の定席に据えられると、誰が見ようとそこにはガマガエルの化けものが口パクしながら収まりきれずに収まっていたのだ!
「あーあ、とうとう商売仇キャラクターのご登場だよ・・・・」 そんなピカークの愚痴は救い様がない・・・・
「うぉおおーん、ぱふぱふぱふ、うおーあん!」 ガマガエルが、なにかホザいた
間髪入れず、侍従と思しき傍らの鉛筆の様な生命体が言葉を発する 「お前達は一体何者かと、ボスはお申しだ。」
「私達は観光でここに来たユニバーサル貿易の者です・・・・だいたい、貴方達は観光客をいつもこんな手荒に扱ってるんですか?」
「うぉーん! ぽふぁぽふぁ! うぉおおーん!」 ガマガエルのホザキが聞こえる
「『嘘をつけ!』 と仰せだ。」 また鉛筆が−
すると、そこに見慣れた箱が持ち込まれた −間違いなくラクーバに運ばせていたトリタニウムの荷箱だ− ガマガエルは手荒にそれをブチ開け、中から出て来た三種の神器 −フェイザー・トライコーダー・通信機− をばらかす 「ふぉんふぁんふぉぉぉぉ〜ん!」
鉛筆が 「これはどう見ても宇宙艦隊か連邦警察の装備品だと仰せだ−」 そして体を屈め 「はやく白状したほうがよいぞ・・・・」 こそっと。
途端、なんら躊躇もなくピカークは 「解った・・・・私達は宇宙艦隊の士官で、私の名はジャム・トムキャット・ピカークだ。」 横の2人のニガ虫潰した様な表情を感じる
で、突如ガマガエルは地鳴りのような馬鹿笑いを始め、続けて不気味な叫び声をあげた
またもや鉛筆が 「『そんな筈はない −艦隊はボーグ戦でこの星域の辺境に膠着状態だ− 脅してもムダだ。証人もいる・・・・』」
さて、その声と共にあちらの方のカーテンが開かれ、純白のシースルーの極め付けセクシーな衣装を纏った可愛らしいを絵に書いた様な美女が登場した− その様子をポカーンと口を開けたまま見詰めるピカーク・・・・
ジャッジュアだった。
何もしないでブリッジにいる事ほど、苛立つことはない− 特にこんな緊急時には。それにしても本当に、ここでテンパッていていいのだろうか? ふっと新副長は、一生懸命パネルをいじる珍しい新保安主任の顔を伺った。およそ間違いなく彼女が更に新しい副長に就任することだろう− 無事にこの任務を終えることができれば。
「♪よ〜くかんがえよぉ〜♪ ♪るるるる るるるる る〜♪」 その彼女が作業しながら珍しく鼻歌を。
笑顔で新副長が 「聞いたことないけど、それ、何の歌?」
「ああ、これ?」 笑顔で新保安主任 「フィレンギ人に習った 『金儲けの秘訣賛歌』 第126楽章よ !」
さもありなん! 手を払い 「解った・・・・ありがと!」
若干真面目に戻り 「ね、副長、船長達から定時連絡なくなって半日になるけど、大丈夫かしら?」
「これを見て−」 新副長は新保安主任に、ちょっと小型のボードパッドを渡した 「船長に皮下注射したモールス通信機からの連絡− 今山賊に捕まって、アジトに連れて行かれているけれど、連中がネクサス発生機の情報を持っている可能性もあるので、聞き出すまで静観せよ、とのオフレ。」 しなやかに、そのパッドを新副長に渡した 「はい、できればあとはオネガイ!」
「なにそれ!?」 ちょっとふくれっつらの新保安主任 「ずるいよ! もともとコミュニケーションはこっちの担当なのに− コピー取りだけじゃやよ!」
「船長とは、なが〜い付き合いなのよ− キノクニヤのロビー以来!」 ニコッと、決めてみせて!
「ぜーんぜん、羨ましくもなんともありませ〜ん!」 言って返された− それもそーだ!
珍しく操舵長が唐突に 「ねぇ、それはそうとあの遮蔽艦、一体なんだったの?」
新副長はニヤリと 「お姉ちゃん、昔の一件、思い出したんでしょ?」
「昔の一件?」 怪訝そうに新保安主任
「よくある、転送装置の事故で、お姉ちゃん、複製ができちゃったことがあるのよ、ネ?」 指令席から同意を求めて 「で、その複製がお姉ちゃんの人生を羨んで、遮蔽装置付の艦を盗んで、お姉ちゃんを殺そうと図ったの。」
「待ってよ! その話、確かライカー中佐の話じゃなかったっけ?」 新保安主任が付け加える
「複数の話が複製されて、混在してしまっている様です−」 アトムが割り入る 「その話は確か 『新・トワイライト・ゾーン』 のライカー中佐がちらっと出演したシーンで、主人公が複製と入れ替わってしまう話では・・・・」
「もーいい! やめてよ! あたしの話を肴にするのは!」 あら、操舵長が初めておこっちゃった!
新副長いわく、「つまりは、もうフィクションと言う世界自体が全部ネタ切れになりかかってる証拠ね。」 肩をすくめて 「誰が誰のパクリなんてチクリ合いは所詮ヤボ・・・・だから船長、きっと自嘲の世界に逃げてるんだわ!」 自分らしからぬ話の閉め具合にちょっとびっくり− 指令席の成せる業か?
その時、言葉を打ち砕かんばかりに警報が鳴った−
新保安主任、叫び倒す! 「次元転送波感知! 前方約1万キロに強力なテトリオン放射発生!」
それから先は、言うまでもあるまい− スクリーン前方に光が起こり、そして・・・・
あ〜、また裏切られた・・・・ガックリ来たピカークは妖艶な姿のジャッジュアの姿に、あっつーまにメルアドが消えうせるキャバクラのおねーちゃんの姿を重ね合わせた。
「みんな、ごめんネ。いやぁ、不況で、まっとうな道案内だけじゃ、食べてかれないのヨ。」 なんだ、まともな連邦標準語、じゃべれんじゃないか!! 「なんか、普通の旅行者には見えなかったのよネ。」 抑揚と語尾は、誉められたものではないけれど。
「ふぁふぁぁーふぁぁぁふぁっぁ!」 鉛筆いわく 「本当のことを話せ、と仰っておられる。」
「仕方ないな・・・・」 ピカークは疲れた表情で 「俺の名は、T.J.・・・・トーマス・ジャム・フッカー・・・・通称 ”トム” だ!」
横のふたりが、またもやうつむいて吹き出している
「やっぱり、なりすましのコソ泥 (フッカー) だったのね!」 我が意を得たりと、ジャッジュア。
「チャーリーズ・エンジェルの冒頭で、映画化を予告した通りだ−」 突然サル顔で 「ジッジュバちゃ〜ん! お宝は、ちゃーんと頂くもんねぇ!」 ぜんぜん似てないし、酷いオヤジギャグ!
「クワーん!」 鉛筆が 「お目当てが何か、とお尋ねだ。」
「『ボーグ不況』 でみんなちょうど引き払ったとこだし、山頂にはお宝があるって聞き及んだもんだから。」 とりつくろって、そう、「『虹の掛け橋』 って、一体なんだ? 『ゴールデン・ダイアモンドに虹が出る時、この星に最後の時が来る』−」
突如、ガマガエルは横の鉛筆となにやら相談を・・・・核心をついたらしい。
「それは単なる伝説だ。その 『ゴールデン・ダイヤモンド』 は遥か昔から、この山の頂きに存在していると言われてはいるが、誰も見付けた事はない。お前の様な素人に見付けられる訳もない。」 鉛筆が答えた
「そいつはどーかな?」 ピカークは柄になく凄む 「ここに来る前古文書を調べたが、 『山頂の扉が黒き緑にけがさるる時、虹はダイヤモンドよりいずる』 と記されてあったぞ。」 これは本当だ −この記録から、ホロドクターは確証を得たと言っていた− それより古文書ってヤツは、なんでいっつもクイズみたいなんだ?
「ワーククワッワ!」 鉛筆がまた 「とにかくそんなもんはとっくに調べ尽くされた −ゴールデン・ダイヤモンドの山中には、センサーだろうが掘削だろうが、なにも出てこなかった− ご苦労だったな!」
「クワクワワワアークワワン!」 堪りかねたガマガエルは脇の部下に指示− 2人の手合いは、ドクターと機関長の顔をぐいっと引きあげる
「わっわっわっわっわ−−−−!」 なーんか喜んでいるらしい。
「なかなかの上玉だ・・・・どこで仕入れた? との仰せだ。」 鉛筆が再び。
「それはその− つまり・・・・」 ピカークは言葉につまり・・・・ 「廓だ− 2人とも、ゲイシャ・ガールなんだ!」
「くわっくわわわ?」
その台詞、通事はいらん− ピカークは悟った 「ショー・ダンサーだ! 2人とも、名取り言う娘なんだゾ。」
「ちょっと!」 ピカーク、うしろからつつかれる− 2人異口同音 「一体どういうつもり!?」
ニヤっとピカーク 「一度、揃ったとこを見てみたかったんダ!」 これはホンネ。
「クワワワッワキクワワ」 通訳は、比べ物にならぬ地味な声で 「さっそく、踊りがご覧になりたいそうだ。」
待ってましたぁ! 「申し訳ないんだが、このナワ解いて、荷物を渡してくれないか・・・・」
今度こそ、ボーグ・スフィアだ!
「全艦第一級戦闘態勢!! 量子魚雷装填!! フェイザー・フルチャージ!!」 新副長の指令は、実に堂に入っている
スクリーンには、ボーグ・スフィアの不気味なドスグリーンの影が躍った!
「ボーグ・スフィアから転送搬送波射出・・・・目標はゴールデン・ダイアモンド山頂付近!」 アトムのセンサーから
「遮蔽はどうする?」 新保安主任は身を乗り出した 「したままの攻撃ではフルに撃てないわ −対ボーグシールドも十分とはいえない− 感知されたら、乗り込まれるかもよ!」
「遮蔽装置解除! 対ボーグ・シールド、フルパワー! 本艦隊に警報!」 瞬時の命令! 「フェイザー発射! とにかく惑星から引き剥がすのよ!」
ハーレムはその白銀の姿を宇宙にさらした− 間髪入れず、ボーグ・スフィアからエネルギー砲火が浴びせられる!
「我々はボーグだ・・・・オトナらしく ”迎合” せよ! さもなくば、お前達の生活を破壊する− 抵抗は無意味だ!」 いつもの忌々しいプロパガンダがブリッジに響く!
「量子魚雷、集中砲火!」 その新副長の声がかき消され、衝撃がブリッジを駆け抜ける!
「第6デッキから第12デッキまで被弾! 発射した量子魚雷はそれました!」 ボードにしがみついて新保安主任!
「量子魚雷は新種の次元変換フィールドに拡散された模様・・・・エネルギー砲も新種のクオーク励起型です! この兵器に関してのデータが不足しています− シールドの再配列を試みます!」 アトムにも焦りがみえる 「シールド安定! ゲージ断裂場を局所的にシールドに敷設しました− しかしこの試みにより、量子魚雷の発射が困難となります。」
「他に方法は?」 新副長、やっと指令席に
「ありません −断裂場を通過した量子魚雷は、起爆不能となります− 見越しての作戦ですね・・・・もっとも・・・・」 いつもの様に、ボードに指がダンスする 「フェイザーをシールド代わりに調整しその中を通して射出する事で、断裂場を潜り抜けられます− 詳細なフェイズ調整が必要ですが!」
「次元変換フィールドの方は?」 ふと見ると、環境パネルが死んだらしい− 士官がひとり、パネルと格闘中だ
「そちらは、ディフレクターからフェイズ誘導波を送って弱めることができますが、同時にこちらの対ボーグ・シールドの保持が難しくなります!」 アトムがふり返り 「どうします?」
「一発勝負ね・・・・もし奴らが乗り込んできたら、直ちに殲滅できるよう構えてて!」 肘掛のスイッチへ 「全艦に告ぐ− 量子マシンガン装備・・・・」 自らも指令席脇のそれを構え、安全装置を外した! 「ボーグ進入に備えよ!」
戦闘はお手のもの− 新副長は焦る自分と戸惑う自分を、そう言い聞かせなだめすかす・・・・
ご機嫌な顔をしたピカークは、その親玉ガエルの脇に鎮座ましている。反対側の脇には頭にハイビスカスみたいな花をさしたジャッジュアがガマガエルにしなだれかかっていた。時たまピカークはそっちにニコニコ笑いかけたが、彼女は一変、全くのそ知らぬ顔だった− うーん、慣れっこのパターン! 付近には車座で酒を酌み交わす一味の面々が並んだ。準備完了の合図が、幕間よりの手招きで悟れる。
「さて、皆々様お立会い! これより控えしは、銀河一の踊り子コンビ、その名も 『お染シスターズ〔copyright(c) byかくさま〕』! どうぞごゆるりと、ご覧こうじれ!」
なかなか興に入ったピカークの逃げ口上! で、手にしたケースに触れるや否や、テントの中には怪しげな三味の音が響いて・・・・
でた! 幕間から眩しい着物姿の2人が、袖で顔を隠しながら静々と! 制服姿とは打って変わって、なんともはや美しい− ピカークも一瞬、うっかり見とれてしまった・・・・隣の化けガエルは、地鳴りの様な音を立てて喜んでいる。
「くわくわくわっくわ?」 更にピカークの隣にいた鉛筆が 「あの2人、合わせて幾らか? との仰せだ。」
ピカーク、一瞬オオサカ商人かグランド・ネーガス気分でそろばんをはじく 「こんなもんで、どーでっしゃろ?」
「くわわわわっくわっくわ!」 ガマガエルは、ほざいた 「『高すぎる !』 との仰せだ。」
「うーん・・・・それじゃ、おべんきょーして−」 再びそろばんを 「こんなもんでは?」
今度は笑顔(?)で 「くわ、わわわわわわ!」 納得したらしい 「『結構− 但しあの着物付で』 だそうだ。」
「よーし! 話はついた!」 ピカーク、どら平太のノリで 「もってけ、ドロボウ! って、あんたらドロボウか・・・・はっはっは・・・・あー」 睨みつけられ、ちょっと閉口・・・・
そんな会話の間も2人の舞は続いていた− ちらちらと舞う桜の花の様に、そしてその花から花へ舞う蝶の様に、扇子と袖が相まって、本当にひとつのカンバスの絵を形作っている・・・・こんなに素晴らしいんだったら、艦内公演をもっとやらせとくんだった! ピカークはそれこそステイシーのバニー・ショウに見入っていたフッカーの様に、目を細めてこんな2人と仕事ができる現実に、えらく感謝したのだった。
さてさて ”美” の極地たるそんな一幕が終わり、ふたりがゆるりと扇子をおいてお辞儀する段になると、老若男女問わず、ドロボウ達はやんやの拍手を贈った!
「くわっくわっわっわわわ−!」 もうガマガエル、極め付けご満悦!
「さて、旦那! 次は2人揃っての水芸をお見せいたしやす! どうぞ皆さん、暫し準備にお時間を!」
わいわいにぎわう宴もたけなわ、ピカークはご免なすってと人をかきわけ、ドクターと機関長と共に幕の外。無論、それは逃げ出す口実! 3人は荷物の見張りを、道具を持ち出すふりしてうまくかわし、必要最小限の機材と共にすたこらさっさと表へ・・・・
「待って! 三種の神器を取り返さないと連絡取れない!」 機関長が慌てふためきながら
「確かこっちの脇だったハズ−」 ピカークは、テント裏の暗がりに見張りと共に鎮座ましますケースを発見−
「ちょっとまってな!」 ドクターがするりと抜けると、持っていた扇子を手裏剣の様に投げ付ける− 扇子は見事見張りの額を直撃し、キヤツは一瞬にしてぶっ倒れた!
「さぁっすがぁぁ!」 ぱちぱちと拍手の2人!
「まぁね!」 得意げなお染姐ぇさん! 「さっさと取ってきな!」
「へーい!」 ピカーク、倒れた見張りにあっかんべーでそのままダッシュ。
3人は入り口付近の見張りを今度はフェイザーで倒し、そのまま闇の中に先を急ぐ・・・・『お染シスターズ』 は、見事に裾を捲りあげ、リュックを背負っていた!
はて、どっちにゆけば?
「あっち!」 「こっち!」 ふたりの振袖は、またもや食い違った方向を指した!
「つーことは、機関長の指すそれな訳ね!」 ピカークはドクターにニヤリ、とすると、彼女は肩を竦めて降参し、あとの2人に従った−
ところが、だ!
前方に立ちはだかる光と人影が・・・・
手にしたライトから浮かびあがった姿は、なんとジャッジュア!
しばらく見詰め合うピカークとジャッジュア
「ジャム・・・・」 ジャッジュアはそう言い 「逃げるんなら、こっちよ!」
一瞬、信じるか信じずべきかピカークは迷い、あとの2人の顔を伺う −『お染シスターズ』 はにっこりと微笑んだ− 甘いと言われるかもしれないが、ここはひとつ賭けてみるか! ピカークはジャッジュアのあとをライトをかざしながら追った− その方向は、入って来た正面ゲートとは全く違う。やがてけたたましい笛の音と共に、反対方向からサーチライトが・・・・ピカークはやっとの思いでそれをかわし、ジャッジュアを更に追った! 数分後、前方に野営地の柵が現れるとよじ登ろうとしたジャッジュアを脇に寄せ、ピカークはフェイザーで柵を壊した。ドクターと機関長はそこから裾を捲って抜け出し、続けてピカークとジャッジュアが続く。ピカークは通信機をようやっとケースから取り出すと、グリットを開いた!
「ピカークよりハーレムへ! 4名転送!」 返事がない・・・・ 「ピカークよりハーレムへ!!」 全くない!
いかん! 後ろから銃声だ! 前方に岩陰が− あそこになんとか辿りつければ!
「キャ!」 一瞬の悲鳴と共に、バタッと倒れる音が−
ジャッジュア!
ピカークは身を屈め、彼女を抱きかかえると、援護のフェイザービームを越えて、先の2人の待つ岩陰にやっとの思いでたどり着く・・・・ドクターが手を貸し、ジャッジュアを横たえた。機関長は単身、フェイザーで応戦を続けてくれている。
トライコーダーを掲げてドクター、「ゴメン・・・・彼女の生理機能、よくわからないわ・・・・」 一応、首元へハイポで応急処置を。
「・・・・アリー・・・・私にはわかる・・・・散弾するタイプ・・・・あたしのからだ・・・・弾には弱い・・・・きっと・・・・もう・・・・だめ・・・・」 ジャッジュアはポケットから通信記章を取り出し、ゆっくりとピカークの胸に貼り付けた 「・・・・これ・・・・さっき荷物から見つけた・・・・あなたたち・・・・ほんとに・・・・宇宙艦隊の人・・・・あたし・・・・宇宙艦隊に憧れてたの・・・・」 ピカークの襟をつかんで 「・・・・ジャム・・・・ほんとなのね・・・・」
ピカークはジャッジュアの手を握り、「ああ、ほんとうさ・・・・私はU.S.S.ハーレムのキャプテン・ピカークだ。アリーはドクターで、ティンクは機関長だ・・・・ボーク殲滅の極秘任務で先発して来たんだ。」
「・・・・そうなんだぁ・・・・だましちゃって・・・・ごめんね・・・・ばち、あたっちゃったね・・・・」 ジャッジュアの笑窪が輝く 「・・・・あたし、いつかこんな世界じゃないとこに、宇宙艦隊がつれてってくれると思ってた・・・・みせかけじゃない・・・・ほんものの、夢の世界に・・・・」
「・・・・ジャッジュア・・・・」 ピカークは思わず言葉に詰まる・・・・
彼女は力なく笑い 「・・・・あ・・・・やっと・・・・名前・・・・覚えてくれたんだ・・・・」 そして・・・・
腕の中で、なにかがすっと抜ける気がした− 目を閉じたその姿は、水泡に帰したあのマーメイドの美貌・・・・
トライコーダーを持ったドクターは首をふって俯く・・・・ピカークはそっとその場にジャッジュアを横たえた。
センチになっている暇はない− 応戦している機関長に、すぐ様加わる! 数人の追手にてこずっていた機関長だったが、新たな二丁の銃口のおかげで、ひとまず一群は粉砕することかなう。
世はすでに白み始めていた− 髪に挿した花を胸に握らせ、ピカークは無念の想いを仕舞い込む。着物を脱ぎ捨てたドクターと機関長は、それをジャッジュアにかけ更に簪をそっとに添えた。
「通信機に異常はなさそうね・・・・残る結論は・・・・」 トライコーダーとにらめっこした機関長 「やっぱり! 空の上にはテトリオン放射の嵐よ! 妨害波もギンギン! それから、山頂付近にもテトリオン反応・・・・」 眉間にしわ寄せ 「ボーグよ! 言うまでもないわ!」
2人には言わなかったが、皮下通信機も音沙汰ないとこ見て通信不全だろう 「急ごう!」 更なる追手の声が、もうそこまで迫っているのだ!
最初、岩陰の応戦で若干バテ気味の機関長の手を引っ張っていたピカークだったが、すっかり夜が明けた頃には、なぜかピカークが手を引っ張られて走っていた− なんでだろ? 陽気もよくない −昨日より寒い気がする− 空気も薄い感じだ。
「どーも、気候がヘンじゃないか?」 先頭のドクターに呼びかけてみた
「確かにそう思うわ・・・・環境システム、壊されたんじゃないの、ひょっとして?」 ドクターもさすがに、疲れ切って足取りもヘビー・・・・そう言えば、みんな徹夜だっけ。暇潰しにまた通信機をいじったが、携帯もバッチも皮下のいずれも相変わらず何も答えない。
さて、しばし崖伝いの一本道、視界がやっと開けて、丁度キャラバンしていた当時の様なまっとうな道に出た。本来なら開放感でほっとする所だが・・・・
「ねぇ、ジャム・・・・」 トライコーダーと機関長 「・・・・知らない間に、なんか生命反応にかこまれちゃったみたいだわ・・・・」
「つーことは・・・・」
前方にラクーバに乗った人影の一群が臨めた。引き戻そうとふり返った途端、崖が爆破され、戻りの道は閉ざされてしまった。
「なんか、見覚えのある人達みたいね−」 汗をぬぐったドクターは、もううんざりと言う顔だ。
まぁなかんずく十中八九、あの山賊一味に相違ない。
「かまぁえ〜!」 ぞろぞろと岩の陰から登場した連中の先頭には、あの通詞の鉛筆の姿がある− どうやらあたりじゅうから、銃口に歓迎されてしまったようだ!
「撃てぇ〜っ!」
第4章 終