最終話 「未来への、意味ある抵抗!」

第5章

 

 その声と共に、更に手前の崖が崩れ、包囲は迫り来る−

「いやでも前に出て来い、とのお達しかな?」 ピカーク、ちょっと強がりで。

「どうやら、そうするしかないみたいね−」 ドクターはリュックを降ろす− もう無用の長物だろう。

「ジャム、どうする気?」 彼をチームリーダーとして、気を使ってくれていた機関長の思いやりがありがたかった・・・・

 ピカークはゆっくりと前へ歩み出す− 2人もあとに続いた・・・・やがて鉛筆の後ろに、反重力台座に乗っかったガマガエルの姿が・・・・

「くおおおおおーわーーん!」 ガマガエル、吼える!

またもや鉛筆いわく、「その2人をおいて、お前はここでただの分子のカケラになれ、と仰せだ− この ”宇宙ヘンタイ” のマワシモノめが!」

「”宇宙カンタイ” だ! ただでさえ風当たりが強いんだから、言葉に気をつけろ!」 ピカーク、マジギレ!

「おんなじ様なものだ!」 鉛筆はなんぞ息まいている 「構え!」

 100丁はあるだろう銃口が、全てピカークを狙う −いよいよ俺も、憧れの殉職シーンか・・・・マジカルレストランの副長みたいに、ターボリフトのドアに挟まれて肉がプルプルよりはマシか・・・・最後のカッコつけに、傍にいた2人を突き放した− 『俺の死ぬ時は、傍らに君達2人がいない時だ!』!

 「撃てェッ〜!」

 その掛け声が発せられるか発せられないかの途端、強烈な光が天空から現れ、3人にグリーンのきらめくカーテンをかけると、その光から四方八方に更なる光が放たれて、一瞬ののち、辺り全員がガマガエル含めてその場にぶっ倒れていた!

 光が収まり3人へのカーテンも解かれると、その天空の何もない所から、アトムの首だけがぬっと現れる!

「なんだアトム! 陽電子プロトコルが故障でもしたか?」 無論ピカークは、満面の笑顔だ!

更に何もない空中のドアが開き、アトムの半身が全て現れて 「さぁ、皆さん、はやく乗って!」 なんとそれは、遮蔽装置付きのシャトルだったのだ!

 ドクターは投げ出した荷物を再び担ぎ、ピカークは先ずは機関長に手を貸してタラップを辿らせると、続けてドクターも拾って押し込んだ −最後に自分もよっこらしょっと中に飛び込む− 「OK! 出発だ!」

 シャトルは扉を閉め、流れる様に再び空を駆けた! ほっとしたピカークは、アトムの隣の助手席にいた自分を発見する 「アトム、サンキュー! しかし、このシャトルは一体・・・・?」

「レッドオクトーバーのラミウス提督から借り受けました −なんでも提督の後輩が別宙域のボーグ戦で使っていたものを先程返却してもらったそうです− そっちのボーグはアルコーブの機能不全で ”再生” がうまく出来なくてイカレちゃったとか・・・・ちなみに提督から 『無傷で返せよ!』 との伝言です!」

ピカーク不満げに 「なーんだ! 『遮蔽装置付アストンマーチン・シャトル』 なんてあるんだったら、こんな苦労することなかったのに!」 後ろの2人をふり返り 「なんか、ムダ足だったみたいだゾ」 ウラミス言。

 ふたりとも、完璧ヘコたれている 「そー、よかったわね・・・・」 ドーデもいいって感じだ。

あれ、更にその後ろには20名程の保安部隊が重装備で鎮座ましている− 結構カワイイ娘もいるゾ!

「みんな、ありがと!」 保安部員達は、さり気なく会釈。

アトムが再び 「船長の予想通り、ボーグ・スフィアが出現し、ハーレムは救援に駆け付けたU.S.S.ビン・ラディンとU.S.S.フセインと共に戦闘中でしたが、スフィアはどちらかと言うと自己温存の ”逃げ” の一手なので、その隙にこのプレゼントと共に私がこちらに来た次第です。」 親切な解説。

「通信はOKかな・・・・」 ピカークが通信機のスイッチと思って指を伸ばした途端、

「船長! それは助手席射出装置のスイッチです!」 と一喝!

「ヤバイ・・・・ふっとぶとこだった!」 やり直し今度こそは・・・・良かった− 画面は新副長だ! 「副長! ひさしぶり!」

「船長! ご無事でなによりです!」 ハスキーな彼女の声が懐かしい 「スフィアは時たま次元遮蔽で鬼ごっこをしています− どうやら上陸部隊の収容を待機している感じです。」

「副長−」 ピカークは言葉を選ぶ 「すぐさま残り2艦と共に軌道離脱し、本艦隊へ戻れ− 本艦隊には2・3光年の撤退を進言するんだ!」

当然眉間に皺で 「なぜです?」

「思ったんだ・・・・やつらがネクサスの破壊を目論んでいたとしたら、とっくにここに来て破壊していると。」 舌がまだ乾いてやがる 「そうではなく、むしろ起動させてこの星系一帯と艦隊を破壊し、それから乗り込んで来る魂胆なんだ! ネクサスを天敵と思わせておけば、我々の対ネクサス防御の虚をつく事になる。」

「なるほど!」 新副長は笑顔で答えた 「本艦隊へ連絡します− でも船長たちは?」

「このシャトルで、なんとかするさ− いかんせん、ディファイアントより重装備かもしれん!」 ニヤリ、とちょっとムリめのスマイル! 「これは命令だ− 副長!」

彼女の、いつも真摯なまなざしがたまらない 「解りました− 撤退を他の2艦の艦長に伝えますが、問題はネヴァー・ランド側からの防衛要請が・・・・なにせ "ビック・サンダー・マウンテン” の修理で手一杯だそうで・・・・」

「弁当持禁なんだから、防衛してやる必要はない!」 ピカーク、なぜか手厳しい 「今すぐ撤退だ!」

「では、その様に」 新副長、引き続き 「船長、保安主任がドクターと次の仕事の医療知識に関して相談したいそうなのですが、お互い代わりますか?」

「そうしよう! 健闘を祈るよ、副長!」 後部座席のモニターのスイッチを入れてやり、半分ネムリコケているドクターに 「保安主任が、次の仕事の相談したいんだって!」

「うん?」 起きたかな 「はい、はいはい!」 ドクターはそのモニターで、新保安主任と話を始めた

 機関長、また体育座りでトライコーダーをゲーム機の様に掲げ 「やっぱりこの近辺にはパラリテウム波が感知されてる・・・・何かの設備が地中にあるのは間違いないわ!」

「それって、なかなか観測されないものなのか?」 疑問符とお友達でピカーク。

「うん・・・・すぐに亜空間に散逸されちゃうんで、数キロ以内じゃないと。まずネヴァー・ランドの技術じゃ、感知できなかったハズ・・・・」 そこでふっと窓を眺めて機関長、 「あ〜! あれ! 頂上付近に何かいる!」 指差し叫んだ!

 ピカークも窓に目をやる −文字通り黄金に光る山の頂には海抜1万メートル程にもかかわらず、割となだらかな斜面が続く− 確かにそこには、なにやら数十人の人影が・・・・トレッキー・・・・じゃない、ハイカーか?

 「ねぇ! 見てあれあれ! ダズニーのキャラが、ボーグに "迎合" されてる!」

 機関長の言う通り、頂上付近でなにやら工作にせっせと勤しんでいたのは、間違いなくあのサイバー装甲にガッチリ身を固められたボーグども・・・・それもまた、お馴染みのダズニーキャラばかり!

 「きゃ〜! ピーターがボーグになっちゃってる!!」 機関長、卒倒しそう!

通信中のドクターも、「ねぇ保安主任! ターザンもボーグになっちゃってるよ!」

「え〜! そんなのヤダ〜!」 モニターから新保安主任の鳴き声が!

 「みんなそれぞれ、キャラに思い入れがあるんだなぁ・・・・それにしても、夢のない話だ!」 ピカーク、アトムに向き直り 「所でアトム、君は上陸せずにここで留守番だ−」

不服そうにアトム 「僕は皆さんより、戦闘行動に長けていると思いますが・・・・」

ピカーク、真摯に 「ナノ・プローブが君の体に与える影響は読めない・・・・君が敵になっちまったら、我々も終わりだ。」

アトムも真摯に 「解りました −しかしこのシャトルも、遮蔽を解けば安全とは言えません− 転送乗艦される可能性があります。」

暫し考えたピカーク 「確か20000m上空に、アトラクション制御電離層があったハズだ・・・・あそこで待機すれば−」 防衛コンソロールを叩き、「うん、十分射程距離だ・・・・そこから援護射撃を頼む!」

「解りました− では、船長、これを・・・・」

何か取り出そうとしたアトムに 「自己転送装置なら要らないぞ・・・・無事ならば、帰る時は一緒だ!」

「いいえ、船長・・・・このブレスレットを付けて、腕を掲げてスイッチを押してみてください。」

言われた通り、受け取ったブレスレットを付けて腕に掲げてみる− オオッ!

 そこには、特製の量子マシンガンが握られているではないか!

「小型の転送パットには変わりありませんが、そのブレスレットは量子マシンガンを転送して来る事ができます− マシンガンに、ご注文の機能も付けておきましたヨ。」

ウィンクして 「ありがと!」

 シャトルは、ぼつぼつ現場到着−

「アトム、あの丘になっているとこに付けてくれ−」 計器を覗き 「うーん、やっぱり環境制御システムがいかれかかってる・・・・気圧が自然に近付いてるなぁ。」 そわそわしている自分をとりなす様に、再び後ろをふりかえり 「機関長、量子マシンガンのレクチャーを。」

なんか憤慨している機関長 「いい! この安全装置を外して、扱い自体フェイザー・ライフルと同じ! 但し射程距離は短めに・・・・量子核が拡散しちゃうんで。16メートルが限界ってとこね。先方のシールドを抜ける為弱い特異点が出来るから、慎重に! それから、連打約6分で量子切れになるから、背中にしっかと替えのパックを背負って頂戴!」

「あたしからも、ちょっと!」 ドクターは連絡、終わったらしい 「保安部員の皆さんは一応 『"迎合" 予防措置』 をホロドクターにしてもらったらしいけど、残念ながら完璧とは言えないと思う。まかり間違って捕まっちゃった場合は、覚悟しといてね。」

「予防措置の効果は、どう確かめればいい?」 ピカーク、黙っちまったドクターを見極め 「身内に量子マシンガンを向けた時だな・・・・」 一息ついて 「・・・・その時は、死んだ仲間の皮を被った憎っくき化け物と思え!」

 シャトル、無事着地! 扉が開いて− 「じゃぁ、アトム、援護頼む!」

 アトム、険しい表情で 「どうぞ、ご無事で!」

「ありがとう!」 今生の別れかと、ふとピカークは邪念した。

 20人ほどの保安部隊が、どかどかとシャトルから降りる様は圧巻! 扉は閉まり、シャトルはその場を去った −だろう− 見えないけど、きっと。

 部隊は丘の縁に屈んだ。ピカークは、隣に居合わせた目のパッチリした美人系保安部員に目を留める 「着任したばかりかい?」 ばっちりタイプなのに、身覚えがないので・・・・そー言えばカウンセラー候補にどっか面影が・・・・

 ブルブルッ! このネタ、いいかげんにせんと!

「はい、がんばります!」 ああ、ため息が出るくらいイジラシイ! 危ないから、帰そうかなぁ・・・・ 「ムリするんじゃないぞ− 危ないと思ったら、逃げてもいいんだからネ。」

「はい!」 彼女は緊張の中にも、必死の笑顔!

 「ジャムッ!」 ドクターのおこごとで、ニヤ付き顔を咳払いでごまかした。

気を入れ替えてピカーク、モニターで改めて敵を伺う− あっちのキャラはこっちの軽く倍はいる。それにしても、ぬいぐるみの様な愛くるしいその姿にボーグ装甲・サイバースコープの取り合わせは、なんとも不気味だ。

「クマのプーさんは、かなり危険そうだな・・・・いいか、空を飛びそうなキャラから先に粉砕するぞ− ダンボとアラジンとそして・・・・」 機関長を伺い 「・・・・ピーターパン− それから、ターザンにも気をつけろよ!」 ピカークの額から汗が・・・・そう言えば、殆ど寝てなかったっけ・・・・ 「みんな、いいか?」

 量子マシンガンの安全装置を外す音がハーモニーとなり、全員がピカークを見据えて頷いた!

 もう、なにも必要あるまい− 「量子マシンガン構え・・・・」 息を吐き捨て 「撃て〜ッ!」

 ツンザク音が宙を切り、光の束が立て続けにダズニー=ボーグどもに命中! ボーグ・シールドが量子特異点に吸収され、一発で粉砕される!

「おお、すげええ! 岩本博士のペンシル爆弾並だ!」 ピカーク、ひとりこーふん! 「よぉし、進軍!」 すっかりサンダース気取りで、手を掲ぐ!

 来た・・・・空飛ぶキャラ達だ! ターザンが先ずはもの凄いジャンプでこちらに飛び込んでくる− 前方の保安部員が、見事に量子マシンガンを浴びせ撃退! だが、彼女の後方から禿タカ・キャラが−

「あぷない!」 ピカーク、叫び倒してマシンガンを撃つが、ああ、弾がそれて・・・・

「きゃ〜っ!」 彼女は禿タカに連れ去られ、またたく間に転送される!

「拉致して、防護処置を取らせない気ね!」 ドクター、発奮して撃ちまくり!

 来た・・・・ピーターパンとティンカーベルだ!

「ピーターは、あたしが殺る!」 機関長、目が血走った!

「あんなの食ったら、消化不良だゾ!」 ピカークはピカークで 「事情があって、俺はティンカーベルだ!」 マシンガン、空に向かってベコベコに− くそ〜っ! また外れたッ!

 いかん・・・・気付かぬ内に、数名の保安部員が拉致されたらしい− 目標の山頂施設入口が、ボーグ達の手で発掘されているのが伺えた。そんな焦燥に駆られた途端、その付近のボーグに向け、稲妻が襲い掛かる− アトムだ! 目的空域に到達したな!

 「ドクター、機関長! 一緒に来てくれ!」 ピカーク、目一杯の怒鳴り声で! 「あの入口に向かうぞ! あとの者は援護を頼む!」 目前のクマのプーさんを粉砕、ついでにドナルド・ダックやピノキオも−

 「船長ぉ〜っ!!」 その声にピカーク目を向ける− しまった!、隣に構えていたあの娘だ! さっき取り逃がしたティンカーベルのナレの果てに捕まれて・・・・ああ、一瞬の内に転送されてしまった!

 「ジャム! 危ない!」 機関長の叫び声で危うくピカークは、すぐ近くまで来ていたシンデレラを怒りに任せ撃破! めちゃくちゃ、皮肉でブルーな想いがよぎる・・・・

 怒りを煮えたぎらせたピカーク、2人と共に猛烈ダッシュ! そんな3人を、入口をガードするミッキーやミニーなどのメインキャラが、静かに待ち受けていた・・・・

柱の様に不気味に固まって 「我々はボーグだ −商標権は1万年に延長せよ− 抵抗は無意味だ。」 淡々と語り、静かにプラズマ・キャノンをこちらに向ける− 愛想のないミッキーなぞ、そう見れるもんじゃない!

 一瞬横一列に並んだ我らがトリオは、ビームを避けて散開、量子マシンガンをこれ見よがしに撃ちまくり、アトムの援護射撃も相まって、短期に入口の奪取に成功!

「いくぞ!」 ピカークは先陣切って中に飛び入り、先ずは間際のボーグを木っ端微塵に! そして進むにつれ、数体の作業中のボーグを始末した。中にいたボーグらは何れもヒューマノイド・タイプで、スフィアから来たオリジナルらしい。

 やがて、でかいトンネル状のドアにさしかかる。丁度数体のボーグがなにやら機材を中に運んでいた。およそのボーグがこちらに出尽くすのを見計らい、3人はまとめて量子マシンガンをお見舞いする! そこにいた連中は全滅、中からぞろぞろ出て来た輩も、一匹一匹油祭りにあげてやった!

 静かになった・・・・

「よし、入ってみよう・・・・」 あとの2人を促し、ドアの中に!

「テトリオン放射は、微量な残留のそれを除いて、この中には殆どないわ。」 機関長、さすがにぜーぜー息が荒い。

「ならば、閉めてもいいな・・・・」

 ピカークはドアをフェイザーで破壊、ロックした−

そこは、丁度機関室の様な数階建てのデッキで、中心部にはプラズマ・スパークしたエネルギーの波が暴れている・・・・

トライコーダーとお仕事の機関長は 「これがネクサス発生装置の様よ・・・・スーパーハイバンドのパラリテウム波が超次元レベルにおけるアイソトン変換を行い、この中で物質は言わばエネルギー・ストリームの状態で捕捉されるの・・・・ただ有機生命体の思考はもともと電子ストリームなので、そのままのパターンで保持されるわけ・・・・その思考ストリームが作り出すウェーヴ・パターンが、パラリテウム波に共鳴して、幾つかの平行宇宙を局所的に作り出すんだと思う。」 ちょっとしたご講義。

「で、止めるにはどうしたらいい?」

「ボーグ達が加工したのは・・・・残留テトリオン放射から見て・・・・」 トライコーダーを手にした機関長をトップに、皆、デッキに音を立てて爆進! 「これよ! きっとこれだと思う!」 ひとつのボックスの前で、彼女はストップ!

 その開け放たれたままのBOXには、切断された青と緑のケーブルが2本あった。

「よくあるパターンね!」 ドクターが吼える 「どっちを選ぶ?」

「ここは私の1億倍は運のある、機関長とドクターのどちらかに・・・・」 ピカーク、こそっと付け加え 「しかしなんでこんな超科学の施設に、ケーブルが2本・・・・?」

「いやよ〜! そんなの〜!」 お染シスターズ、先の提案を即却下!

「なんとか調べる手はないの?」 機関長を伺い、ドクター!

「ムリよ! 物理的な論理パラメーターで構成された機能じゃないもの・・・・いちんちくれれば解るかもしれないけど・・・・」

「よーし、2人がそーなら、やってやろうじゃないか!」 突然いきまくピカーク 「これだ!」

 緑の線をわし掴むと、ラインを繋げた!

「やめときなさい!」 2人の絶叫!

 その途端、轟音が室内にとどろき、中心のエネルギー・ウェーヴがゴジラの様に暴れ出す!

 「このバカ〜! 間違えやがって〜!」 お染シスターズ、じきじきのクレーム!

「だから2人の方が運があるって・・・・」

 そうピカークが言い終わらない内に、熱線が3人をなぎ倒し、序にゴールデン・ダイヤモンド自体をなぎ倒し、続けてアトムのシャトルもなぎ倒し、ネヴァー・ランド全体を飲み込むと、本艦隊に合流途中だったハーレムや他の二隻もはじき飛ばして、エネルギーの触手はそれでも納まらず、本艦隊にまで達し、殆どの艦を食い潰した・・・・

 やがてカスミガセキ星域を荒らしまくったエネルギー・リボンの暴発が超次元へと収束したその時、辺境域から4基のボーグ・キューヴが愁然と現れ、生き残った航宙艦を一瞬の間に破壊すると、アルファ宇宙域中心部への進軍を開始する−

 

 もはや抵抗は、本当に無意味だった・・・・

 

 

 なんだなんだなんだ!?

 ピカークは、自分が真っ裸で空を飛んでいる様な感覚を覚えていた・・・・不思議と爽快な感じだ・・・・

「パパッ! そのお肉、あたしの!」 誰だ? 誰の声だ?

 3つくらいの女の子だろうか、私に向かって話し掛けてくるではないか・・・・

 その時、気付いた・・・・とんでもない幸福感に自分が満たされている事を・・・・信じられない・・・・あんなに年中かったるく暮らしていた自分が、なぜこんな気持ちに包まれているのだろう・・・・

 「あ! お兄ちゃん! ダメだよそれとっちゃぁ!」 女の子はピカークの元を離れ、5つくらいの男の子のあとを追った・・・・「じじも、お兄ぃちゃん、止めてよ!」

 走って逃げようとしていた男の子は、壮年の男ににこやかに捕まえ、抱きかかえられた− 「そおーら! 捕まえたぞ!」

 死んだ親父じゃないか!

 一体、ここは・・・・

 ピカークにその場所は、解り過ぎているくらい解っていた・・・・30年も暮らしていた、懐かしき我が家のベランダだ・・・・泣く泣く手放した、そしてもう二度と手に入らない、あのベランダ・・・・そう、これは夏のバーベキュー恒例の、花火の日だ! なんで自分がこんなところに・・・・

 「はい、あなた、ロミュラン・エール!」 青色の液体が再びピカークのグラスに注がれた・・・・

 あなた !?

 ヨコハマの女だ !? ピカークが最も愛した女・・・・一体なぜ、出会った時の無垢なままの姿で隣にいるんだ? あの腐り切った猜疑心のカタマリと化した最後のそれでなく・・・・

 彼女はあのなんとも可愛らしい笑窪の微笑みでそっとピカークの腕を取ってきた− 絶頂な幸福感だ・・・・

 「ほら、もうこげちゃうよ、ジャムくん!」 その声はオフクロ・・・・無論まだ存命だが、しわくちゃババアのハズが、まだなんとなく若い!

 「ママ! お兄ちゃんがいじめるんだよ!」 さっきの女の子がヨコハマの女の美しい膝上にちょこんと収まる

「だめじゃないの! いい子にしてなきゃ! お兄ちゃんも!」 彼女はそう言うとピカークの腕を取り、 「言ってやってくださいな!」

「お前が甘やかすからだぞ!」 親父がビールに、枝豆をほおばりながら

「何言ってるんだ! 息子を散々甘やかしたのは、どこのどいつだ!」 ピカーク、思わず言い返す!

「このやろ!」 ご機嫌の親父は、そう言いながら兄の方を抱き寄せ、膝の上に載せた・・・・

 そう言えば親父・・・・親父が死んだ夢を見たんだ・・・・あれは、最悪の夢だった・・・・

なにもこんな楽しい時に、そんな夢を思い出さなくとも・・・・アカデミーの若き教授であるピカーク博士には、今や何も不満に思う事はなかったからだ。

 あ! 花火の音だ!

「うわぁ〜い! すごいやぁ!」

男の子が親父の膝から飛び出ると、ベランダの柵に今にもよじ登らんが勢い!

「あぶないぞ!」 親父が抱き留めていてくれている。

「ほら、すごいね〜」 諭す様に、オフクロが妹の方に話し掛けている。

信じられないくらい、見事な花火だ・・・・まるで胸の中にまで、はじけ散ってしまっているような・・・・

 そして・・・・

 あの可愛らしいくりくりした目をして、ヨコハマの女はピカークの腕に静かに寄り添ってきた・・・・ああ、ぼかぁ、幸せだなぁ!

 ・・・・待てよ・・・・なんかヘンだぞ・・・・

 俺の人生、こんなにうまくいくはずがない!!

 いや、いった試しもない・・・・むしろ確実に邪魔され潰され、夢はなきものとされる・・・・

 なんなんだ、これは !?

 

 「これがネクサスなのよ・・・・」

・・・・その声は、部屋の方から聞こえてくる・・・・誰だ・・・・?・・・・

その清楚で気品溢れた和服姿はもう、すぐにでもわかった−

 サクラのママだ!

「ママ・・・・」 愛しい人から離れたピカークは、唖然とした表情でベランダから部屋に入り、ママに近付く 「・・・・なぜ・・・・一体・・・・」

「あなたの人生、こんなにうまく運ぶはずないでしょ? それだけでもう、証明は十分だわ。」

ピカークは何か突然、可笑しくてたまらなくなった 「私に子供! 確かにそうだ! そんな事は絶対にありえない!」 でも・・・・ 「じゃぁ、なぜ、ママがここに?」 一変、今度は怪訝に。

「それは、今度のお話ではここくらいしか出番が作れないからよ。」 ママはにこやかに、やさしく 「完全に精神エネルギーの存在となったあなたは、もう自分の想いの世界でのみ、生きる事が許されるの・・・・」

 誰かが袖を引っ張った− 「パパ! 花火きれいだよ! あっち来てみないの?」

このまま理想の幸せの中で暮らしたい・・・・子供の頃からの夢の生活が、今、目の前に溢れかえっている・・・・しかしピカークには、究極の宿敵であり、この理想の生活への前途と青春を踏みにじったボーグへの復讐もまた同じくらいに具現化したい夢であった・・・・

 ピカークは優しく屈み、息子であったかも知れないその少年に語った 「いいや、パパはあとからいくよ・・・・特にジジには、可愛がってもらうんだ・・・・お前が生まれることをひたすら望んでいたからな・・・・」 目一杯の笑顔で 「さぁ、いきなさい!」 

 彼がちょっぴりさびしそうに去るのを見計らい、ピカークは毅然と立ちあがった −自分のミスで人類が破滅したやも知れんのだ− なんとしても、やり直さねば!

「ママ!」 ピカークは再びサクラのママに向き直り、 「私はゴールデン・ダイヤモンドの頂上に戻らなければならない! ママ、力を貸してくれ!」

ママは、にこやかに付け加える 「私はあなたの想像の産物にしか過ぎないわ・・・・でも助けてくれるかもしれない人がいる・・・・彼はもう、ここに優に1世紀はいるのよ・・・・」

 

 

 どしゃぶりに番傘をさしていた− いや、ピカークが、だ。

場所が変わった− 今度はあのベランダではなく、なにか山小屋の様なロッジの前だ・・・・

 男がひとり、浸水を防ぐためか、土嚢を黙々と積んでいた。軒があって、傘はさしていない。彼は極めて古臭い宇宙艦隊の制服を着ていた・・・・セーター式のざっと120年は前のものだ・・・・背は2メートル近く、がっしりとしたガタイで清廉なハンサムである。

 間違いない− 信じられないが、間違いない!

「・・・・パイク・・・・クリストファー・パイク准将!」

 その男は、ピカークの声に気付き、顔をあげて微笑みかけた− 「あいにくの日よりだな!」

「ええ、そうですね・・・・」 いかん! ナッチーの翻訳のようなチープなセリフを吐いてしまった!

「そこの土嚢をとってくれんか? そいつで完成だ!」

唖然としていたピカーク、やっと気付いて 「ああ、これですね?」 自分の近くにあった土嚢をかかえ、パイクに渡す。

「これでよしと!」 パイクは手をはらい 「ピカーク大佐だね? お仲間が中でお待ちだ− あがれよ、どうぞ!」

パイクは勇んで家の中へと入っていく。ピカークも若干警戒気味に、番傘を置いてあとに続いた。

 いかにも南部風のロッジと言ったその部屋の中央のテーブルに、見慣れた人物がふたり−

「ドクター、機関長! 無事だったか!」 ちょっと怪訝に 「ふたりとも、本物か?」

テーブルから立ってお染シスターズ、 「ええ、間違いなく、お互い本物って確かめあったわ− ジャムこそ、無事でなにより!」

「再会できて良かったな・・・・みんな仲良い証拠だ・・・・互いの希望が合わなければ、ここではそうは会えるものではないだろう。」 パイクはオープン・キッチンに向かう 「ゆっくりしてってくれ! ここは俺の家だ・・・・」 取り出した皿を前にちょっぴり止まり 「いや、家だった・・・・もう140年も前だ・・・・このレディ達から、今がいつかを聞いたんでね。」

 食事の支度をしているらしいパイクに、機関長が手伝いに参じた。ピカークはドクターに居残る様に促し、ふたりテーブルに着く。

「まっすぐここまでこられたのか?」 ピカーク、こそっと。

ドクター、結構ご機嫌で 「いいえ! 先ずは結婚式から始まって、こどものころの家族団欒、果てはおばあちゃんの縁側の日々まで−」 ちょっと伸びして 「あーあ! 全部、しあわせだった!」

ピカーク、極め付けニヤけて 「若干、現実に引き戻して悪かった!」

ドクター、あのキラキラした眼差しで 「で、ジャムの方は?」

タメイキ混じりで 「はぁ・・・・潜在的願望を露呈されちまったよ! 俺の場合、虚無感だけが残った・・・・」

楽しそうにドクター、「それはお疲れさまでした!」

 「できたわよ〜!」 機関長とパイクが、皿一杯の豪華なディナーを抱えて戻ってきた− ドクターとピカーク、ちょっぴりお手伝い。

 「こいつはうまそうだ− さっき、呆気に取られてせっかくのバーベキューを食べ損なってね!」 ナイフとフォークをひっつかみ、 「いっただっきま〜す!」

「遠慮なくどんどんやってくれ・・・・無料のバイキングだ」 パイクも嬉しいらしい 「実物の人間・・・・それも宇宙艦隊の仲間が来てくれるとは、正に夢のようだ・・・・」

「たしか・・・・」 もぐもぐとピカーク 「タロスWにいらっしゃったのでは?」

パイク、おどけた仕草で 「いまもそうさ! 君達がどの入口から入って来たのか知らないが、タロスとここはネクサスとしてひとつなんだ。」

「じゃぁネクサスは、タロス人が開発元なので?」 あー、こんなうまいサラダ、何年ぶりだ?

「まぁ、幾つかの古代文明が協力し合って作ったらしい・・・・タロスWにあったのは、言わばプロトタイプだな。」

「ネクサスは、対ボーグ用に作られた "兵器" だとする仮説があるのですが、真偽の程はどう思われます?」 しまった! ボーグを知っているだろうか?

パイク、結構豪快に肉を平らげながら 「ああ、それはほぼ確実だ。タロスの古い記録を見せてもらったことがある。」

「ボーグをご存知で?」 ピカーク、フォーマルに。

「君は知らんだろうが、タロス人の記録を見る前に、古いエンタープライズの資料の中にそれとおぼしき謎のサイボーグ生命体が記された記録を見た事がある− 22世紀の話だ。」

「当時、ボーグが連邦領域に来ていたと!?」 信じられない! だとすると、ネタ切れのあてこすりだ!

「残念だが、その通りだ− なんでも21世紀に既に来ていたらしい。」

思い当たるフシあり! 「ああ、わかった! それは、きっと21世紀に奴らが侵攻した時のなごりだ!」

「21世紀に侵攻!? タイム・トラベルでもしたのか?」 マナコをしっかと、パイク。

「ええ、前の侵攻の時にやらかしましてね・・・・いかんせん、タイムトラベルものは人気があるので・・・・それを救ったのはやっぱり、あなたの艦です。」

「エンタープライズか・・・・懐かしいな・・・・」 物憂げなパイク、しかし立ち戻り 「だが不思議と、もう一度あの指令席に座りたいとは思わなかった・・・・私には、宇宙を探検するより穏やかなNGOの方が合ってたんだ。」 で、おもむろに笑顔で 「ネクサスに入り込んだボーグ・ドローンは、どうなると思う?」

しばし、考えてから、「そうか! 元に戻るんだ! 我々にとっては過剰な自己解放でも、彼らにとってはまっとうな自己復活なんだ!」 ピカーク、いきまく!

にやり、とパイク 「仰るとおり!」 彼は青色の液体の入ったビンに手をやり、 「ロミュラン・エールは、飲んだ事あるかね?」

3人は一斉にクスクスと 「ごめんなさい −あっちこっちで頂いてるんで− 私はアールグレィ・マティーニをご相伴に。」 代表してピカーク− 無論手元にはもう、その琥珀色のグラスが置いてあった。

機関長は 「あたしは頂きます!」 にこにことパイクの勺を受ける。

「じゃぁ、あたしは御返しに・・・・」 ドクター、パイクのグラスにエールを注ぐ。

「ありがとう、ドクター。」 パイクはゆっくりと盃をかかげる 「こんな美人士官に囲まれて、君が羨ましい・・・・」

ピカーク、サーブをかえす 「あれ、そちらも美人の副長と御付きの士官がいたと聞き及んでますよ。」

今度はパイクが笑いこけ、 「そんな昔の話、すっかり忘れていたよ!」

 改めてピカーク、切り出す 「バイク准将・・・・今、我々はボーグに再度の侵攻を受けています・・・・実は私のミスで、およそあちらの現実世界では、惑星連邦はボーグに敗退してしまった可能性があるのです。私はどうしてもあちらに戻って、ミスを取り戻さねばならない・・・・ご協力、賜れませんか?」

パイクは穏やかな様子で 「無論、戻れる様、念じる方法はご伝授するよ− しかし、ご同道はムリだな。」

ピカーク、残念そうに 「なぜです?」

 パイク、ナプキンで口をぬぐうと 「先ず第一に、歴代のエンタープライズの指揮官は、全て行方不明か惨めな末路だ・・・・幸せに引退できたのは、知ってる限りでは私の前任のボブ・エイプリルだけだ。第2に、私の本当の姿はこんな健康体ではない・・・・現実の世界に戻ったところで、およそ役には立つまい。」 ややブルーだ。

 ドクターが口火を 「しかし、細胞再生技術は1世紀前のそれとは格段に進歩してますし、今なら治療は可能かもしれませんよ。」

「お気遣いありがとう、ドクター。」 さびしげに 「だが、タロス人達でさえ、私を修理する事は出来なかった・・・・」

 「そのタロス人達は、一体どこに?」 機関長が、今度は口火を。

「みんな天寿をまっとうした・・・・もう既に種としての生殖機能も衰退し、私が最後のひとりを看取った・・・・もういいかげん、タロスに対する進入禁止令は解除してもいいんじゃないかな?」

ピカーク、思わず前の任務を思い出して、顔を崩し損ねる。

 そこでパイクは丁寧にグラスを置き、「・・・・だが、しかし・・・・君達と話していたら、お陰でなんとなく勇気が湧いて来た −そうだな、修理が必要なのは、体の方だけではないんだ、ドクター− そっちの修理は君達の力を借りて、もう出来るかも知れない・・・・」

 

 また場面が変わった− 今度は馬小屋だ。

 ちゃんと4人揃っての到着・・・・そこはとても小奇麗で、救世主が生まれた所と看板が立っていても、不思議はあるまい。

 「ここは?」 ピカークがパイクに。

 「いままで避けていた場所だ− 6年前・・・・いや、126年前のあの晴れた日だ・・・・決して戻らないと誓ったあの事故の日・・・・」 感慨深げに− されどなぜか晴れ晴れとしたパイクの笑顔が 「・・・・君達のお陰だ− 決して戻れなかったあの事故の日に帰れたんだ! やり直すぞ− 人生をもう一度取り戻すんだ!!」

 彼はそう言い放つと、疾風の如く愛馬にまたがり、あっと言う間にその場から表へと駆け抜けた!

ピカークは鞍を見付けて近くの馬にどかっと被せる− 「ジャム! あなた、馬なんか乗れた!?」 ドクターの突っ込み付き!

「ここはネクサスだ− 願いはなんでも、かなうのさ!」 ピカーク、ひらりと馬にまたがり、パイクのあとを追う!

 なだらかな、そして美しい地平線を覆い尽くす草原の大地− パイクの愛馬はそこをまるでペガサスの羽の様に飛び抜け、やがて緑のハードルで囲まれた芸術とも称せる完璧な庭園の馬場に辿り着いた。そこで彼は一端馬を止め、ひとつ孤高のハードルに狙いを定めると、意を決して華麗にジャンプした! 

 太陽が馬とパイクをひとつに照らし輝き、彼等は見事にそれを越え、再び大地へと舞戻る! 彼は満足気に再び騎上からハードルをみやった− と、その時・・・・

「あなた〜っ!」 ひとりの可愛らしいプロンドの女性が、スカーレット・オハラそのものにスカートを抑えてパイクに向かって芝生を踏みしめ、突き進んで来た!

「ビーナ! ビーナ!」 パイクはそう叫ぶと、馬から飛びおり、彼女をしっかと抱き寄せた! 一通りキスを済ませ彼は彼女を騎上へと誘い、幸せに満ちた笑顔で彼女を抱えた・・・・

 その頃、やっとピカーク、そしてちょっと遅れてドクターと機関長の乗った馬が追い付いた・・・・3人は神々しいパイクとその女性の姿を、若干の驚きを以て迎える。

 「私の妻だ・・・・タロス人達が救った女性でね、50も年上の女房だったんだ・・・・もう、本物の彼女はこの世にはいない−」 だが彼女は、騎上からピカーク達客人を幸せそうに笑顔で迎えている 「−いなくなってから、わたしはこうして彼女の想いを再現する事はなかった・・・・勇気がなかったんだな。」 そして今飛んだハードルを指差し 「あれもそうだ・・・・もう何も臆する事はない・・・・なにも感じなかった・・・・」 心なしか、さびしげに 「・・・・みんな現実じゃない・・・・しかし直視する勇気を、君達が与えてくれた・・・・」

 パイクは馬をゆったりと、ピカークの馬の脇に寄せる− 「宇宙艦隊の船長だって?」

ピカークはそっと 「ええ、もちろん!」

パイクは笑顔で 「引退後の予定は?」

ピカークは 「引退どころか、まだ先の仕事の予定さえ立ってません!」

にこやかにパイク 「いいことを教えよう −決して指令席にしがみ付くな− 身を引く時を知るんだ・・・・そうすれば、必ず人として幸せになれる!」

「U.S.S.ステーションの船長も、同じ事を言っていました−」 ニヤリと、ピカーク 「でも、あなたはいつまでも私達のスーパー・ヒーローだ・・・・夢は夢のまま夢の世界で・・・・決して、ご同道は願いません!」

パイク、極め付けの笑顔で 「スポックだったら・・・・人間と言うのは、極め付け感情的で甘すぎると一蹴するに決まってるな!」

「スポック大使にならお会いした事があります− それが私の人生の唯一の糧です・・・・未だにご健在です!」 今度はピカークが感慨に浸る番!

「そいつは、魅惑的だ!」 パイクはビーナを抱きしめ直すと 「さて、ではお3人に、決して忘れる事のない過去をやり直す方法をご伝授するとしよう・・・・あとは、ネクサスの停止プロセスはあのケーブル・ボックスのそれではないから、注意する様にお伝えしとこう・・・・」 穏やかにスーパー・ヒーローは、かく語る 「また宇宙に危機が訪れた時は、訪ねて来なさい− 私はずっと、ここにいるから・・・・」

 

 

 ピカークはドアをフェイザーで破壊、ロックした−

そこは、丁度機関室の様な数階建てのデッキで、中心部にはプラズマ・スパークしたエネルギーの波が暴れている・・・・

トライコーダーとお仲間の機関長は 「これがネクサス発生装置の様よ・・・・スーパーハイバンドのパラリテウム波が・・・・」 機関長、発言を途中で止めて、「二度同じ事を言う必要はないわね!」

「こっちだ、きっと!」 ピカークはパイクの指示をなぞる 「このボックスだよな、たしか。」

新たなボックスの前に立った機関長は 「うん、きっとこれ! エネルギーの凝縮度が付近より顕著!」 トライコーダーを再調整し、 「これで、准将に習ったパターンのソリトンウェーヴを射出すれば・・・・」

 マシンの唸りはその途端、綺麗に収まった!

「やったぁ!」 3人は抱き合って喜ぶ!

 不思議だ・・・・ぐっすり休んだあとの様に、疲れがふっとんでる。

通信記章を叩く 「ピカークよりアトム! 聞こえるか?」

「ご無事でしたか!! 今、迎えに参ります!」 幾分はしゃいだ声が元気に響いた!

 笑顔がすっかり板についた3人は、先ずは量子マシンガンでロックされたドアを破壊− 外のボーグの遺体にやや顔をこわばらせたものの、やがて出口の光を浴びて安堵の息を合唱連呼する。

 頂上近辺は再び夕刻になっていた− 見渡す限り、破壊し尽くされた台地・・・・破壊し尽くされたキャラクター人形たち・・・・

 来た− シャトルは遮蔽を解いている!

「お〜い!」 思いっ切り手をふる3人!

 金色の光を浴びてシャトルは着陸、ドアが開いてアトムが再び首を出す 「船長、スフィアは生き残った上陸部隊を収容すると、本艦隊に戻ったらしいです−」 ちょっと言葉を選び 「残念ながら、こちらの保安部隊はあなた方を除いて、全員行方不明ですね・・・・」

 

 

 おお、我がブリッジ!

 まさか、無事に戻れるとは思わなかった− ひょっとして、まだネクサスにいるのでは?

「おかえり!」 ドアの一番傍にいた新保安主任が笑顔で迎えてくれた− しばらく見ないうちに、すっかり綺麗になりやがって!

「ただいま!」 ピカーク、相当ご機嫌!

 スロープの先陣切ってアトムが運航管理席へ! ピカークはカウンセラー席を通って・・・・あれ?

 カウンセラーは、黒髪に奇妙なおさげをしている− 実にエキゾチックだ。

「なんだ? どーした? 失恋でもした?」 呆気で尋ねる

「ちょっとウルトラ警備隊に出張任務で・・・・リストラされたら、あっちでがんばろうかと!」 睨み目で 「ここに座るなら、ついでに気象予報士の免許も取らなきゃね!」

「よしとくれ! カウンセラーはキミ以外には考えられんよ− 『そっとしといてくれ』 なんて女の言う事なんぞ、もー、信じやしないよ!」 さすがに懲りたか、ピカーク!

「あら、そーかしら!」 ふくれっつらも、やっぱ、かわいいね!

 で続けて、指令席を渡してくれた我らがヒロインに 「留守をありがとう− また会えて嬉しいよ!」

「おかえりなさい、船長−」 真面目に慮ってくれていたのは、君だけさ! 「ご無事でなによりでした!」

「その実、今正に晴れやかな湾岸宙域任務に戻りたいと、ご所望なのでは?」 いじわるく!

「今更、ご冗談でしょ!」 なるほど、この笑顔にみんな元気をもらったハズだ!

 「本艦隊より連絡!」 後ろから新保安主任! 「ボーグキューブ、宙域線を越え侵攻! 連合艦隊と戦闘状態に入りました!」

 やっぱりネクサス発生機のデッドを嗅ぎ付けたか− いよいよだ!

「ブリッジより機関室! 機関長、損害の方はどうだ?」

 

 機関室では、グリーンのキャップを被ったミセス機関部隊がせっせと活動中! デッキ中央で腰に手をあて指揮ってる ”発電隊長” は、ピカークの声に怒やし返す!

「あたしの目の黒い内は、反物質炉に事故なんか、おこしゃぁさせない! 全システム修理完了− 異常ナシ! エネルギー、じゃんじゃん使い放題よ!」

 

 新副長とピカークはその機関長の応答に、目を合わせ微笑み合う− 「なんか機関室、気のせいかババ臭いな!」 同時に着席!

「よーし、ワープ2で星域辺境まで帰還− 全デッキ第一級戦闘体制!」 もちろん、指を掲げて! 「発進!!」

 

 

 

第5章 終

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