最終話 「未来への、意味ある抵抗!」

第7章

 

 

 ボーグ・キューブ− セントラル・コンプレックスッッ!!

 全宇宙艦隊− いや、全宇宙の悪の巣窟の中心の中心・・・・どれだけの艦隊指揮官がこの場を畏怖の念で構えているやら・・・・

 あたりは、物言わぬ生きる屍達がせっせと仕事に当たる様が展開されている・・・・ああ、なんと言うことだ− 正にここは、ピカークの憎悪の象徴的地獄絵図なのだ!

 彼を拉致した彼女を含めた  "保安部員の屍"  達は、しっかとピカークにライフルを向けている。ピカークはこの最も忌み嫌うシチュエーションに腹の底から笑い出したくなった −無心の裏切り− これこそが、私のフツーの環境だ!!

 来たゾ・・・・あの、カラダだけが・・・・ブーツに黒のレオタードに網タイツ! そして・・・・首がない! 間違いない、ホンゴウ社会犯罪者養成所の顔と言えば− 案の定、クレーンがその首を運び来る!

 「顔だよ〜ん!」

 ほらネ。

 ちょっとオカメヅラしたその首は、ゆっくりとその本体にせまりやる− やがて肩が首を飲み込み  "くちゅっ!" っと言う音と共にロックされた− ああ、キモッ!

 手に持ったムチが、「パシンッ!」 と音を立てる −間違いない− ボーグ:ナンバー・ゼロ・・・・まごうことない、"ボーグの女王様" だ!

 「ハッハッハッハ! 見事におまえの弱点をついてやったわ・・・・初めまして、キャプテン・ピカーク・・・・私がこの城の女王よ− "女王様" とお呼びッ!」 もうひとムチ、パシッ!

「やはり・・・・裏には 『ホンゴウ』 があったか・・・・数々のドローンをこの宙域に輩出し、かつ全く責任を取らないお前達の存在が!!」 怒りにみなぎらせるピカークの姿には、普段のあのボケキャラの風貌は微塵も伺えない! 

「お前の考えは古いのよ− キャプテン・ピカーク!」 体を整えた女王様は、静かに歩み始める 「我々は60年前、ほぼこの宙域を支配しかけた・・・・しかし、残念ながらその試みは失敗に終わった・・・・更に40年前、我々を完全に排除せんとする輩が無意味な抵抗を試みた・・・・」 女王様は楽しげに、ピカークに近付く 「だが、その時は我々が勝利した− 以来着々と、この宙域を支配し、ひいては遂にお前達の牙城であるアルファ宙域への足がかりとする事を念頭においた・・・・そして今こそ、その時が来たのよ!」 女王様は、通りかかったドローンの集団を指して 「ほら、御覧なさい! あれが40年前、無意味な抵抗を試みた愚かな集団のなれの果てよ− いまやすっかり、私に忠実なドローンと化したわ!」

 勝ち誇った笑みの先にあった髭面のそのドローンは、キュ! と音を立て首をこちらに向けた 「我々はボーグだ− オトナらしく迎合せよ!」 なるほど認識表に ”オシベ2372” とある!

 ピカークは不敵に笑う 「はっはっは! 40年前の彼らはなんの思慮もなく、ただお前達の存在に畏怖を抱いて悪戯な反抗を試みただけだ・・・・当時の彼らと我々惑星連邦とでは、その社会科学力は比較にならん!」

 女王様は、そんな言葉などなかったかの様に 「そんなへらずグチを叩けるのも今の内よ、キャプテン・ピカーク・・・・カワイイこの娘達の様に、お前もあっと言う間に変貌を遂げる事でしょう・・・・」 嬉しそうに、女王様はその顔をピカークにの顔へと近付け、黒光りする手袋でその頬をゆっくりと撫で耳元で囁く・・・・ 「・・・・抵抗は、無意味なのよ・・・・」

 

 

 ハーレムもまた、決して安息ではない− 今度のスフィアは、一味違う・・・・

 「右舷第8シールドに被弾! セクション26から28まで隔壁閉鎖!」 新たに保安ブースに就いた操舵長から 「シールド復旧! ボーグ進入形跡はありません!」

新副長には、すぐうしろにいてくれている操舵長に、激しく感謝していた −それがピカークの思いやりであることも知っていた− 情けないと揶揄される男の、精一杯のそれである事を。

「右舷に切って! 1/2インパルスで一端惑星の影に!」

 轟音と津波の様な衝撃が、スクリーンの激烈な閃光と一緒に− なんと、僚艦がまたしても!

「誰も助けられなかったわ・・・・残念だけど・・・・脱出ポッドの暇もなかったみたい・・・・」 ただ、めげてばかりの操舵長ではない− 「通信を感知− 上陸班からよ!」

 ドクターの珍しく悲壮な声が響く 「・・・・医療主任よりハーレムへ・・・・保安主任以下数名が負傷・・・・直ちに転送収容願います・・・・ボーグに囲まれてるの− お願い、はやく!」

「転送室! 惑星の影に入り次第、医療室へ直接緊急転送!」 間に合ってちょうだい! 「カウンセラー、お願い!」

「りょぉぉぉかい!」 カウンセラー、神妙な手つきで舵を執る!

 「こちら医療室− 副長! 聞えるかね!」 再起動されたホロドクターの声だ!

「ええ聞えます! なにか?」 自分の声が懸念だらけなのが、良く解る−

「そのままの転送では、ビームを奪取される可能性がある− それに数十人を直接医療室に転送するのは難しいぞ・・・・私のプログラムには、対ボーグ転送プロトコルの仕様が含まれている− 転送室でのオペレーション許可を願いたい!」

「直接転送の件は承知しました。ただ、対ボーグ転送処置はもう既に、施されていると思いますが−」

「エネルギーが足りない状態では、それも十分とは言えんと思うがね! 手練手管で補足する手法をご紹介に預かりたいわけだ!」 それから、本人独り言のつもりが、丸聞こえ 「・・・・だから彼女を送るな、と言ったんだ!」

タメ息混じりに 「転送室! ホロドクターが到着し次第、オペレーションを譲って!」 副長はコマンドを 「コンピューター、緊急医療ホログラムを直ちに第2転送室に転送!」 うまく働いてくれているといいのだが・・・・

「惑星の影に入ったわ!」 保安ブースから操舵長!

「あとは、祈るしかないわね−」 本当に心の底から−

 

 

 "ボーグの女王様" は、立ち並ぶプロパガンダ・ポスターをゆっくりと誇らしげに指で舐めた− それは懐かしの 「欲しがりません− 勝つまでは!」 のモンペで微笑む姿から、最新の "レッド・カード" のそれまで、伝統が脈々と受け継がれている・・・・

 「どう、ピカーク? いい写りでしょ?」 さも優しげな笑顔で女王様。

 一方のピカークは捕縛を解かれ、敵の ”秘密基地” ではお決まりの後ろ手に組んだ皮肉めいた姿勢で、そのボーグ・ミュージアムを楽しんでいた 「ただひとつ、最後のそれだけは賛成だ! 私もタバコは嫌いでね。」

女王様は嬉しそうに− 「そう! それは初めて気が合ったわね! 実はヒミツなのだけど、ボーグ・システムにとって、タバコは最も有害なのよ!」

ピカークも笑顔で 「そいつは初耳だ− 今日から愛煙家にでもなろうかな!」

女王様は指を立て 「但し、システムに影響が出るのは数十年単位でのハナシ・・・・イオン・アラシの方がもっと有害だわ!」

ピカーク再び 「おやまぁ、残念! ただ、健康の為にはいいことだ− 感謝するよ!」

笑顔の女王様 「これはこれは、ありがたいお言葉だこと。」

 "迎合" された数々の文明や文化の遺品が居並ぶミュージアムを後にしたふたりは、やがて沢山のドローンが集まり注視する、どでかいスクリーンの前にやって来た。

 「あれが "ビック・ブラザー" よ!」 誇らし気に女王様 「ドローンはデータ・リンクでの情報のやりとりが主になるけれど、生物機能部位の視覚刺激による情報伝達も重要なの −あれで視覚中枢を刺激し、情報に "権威" を与えるの− すると不思議なことに、ラーメン屋にドローンの行列が出来るのよ!」 何とも誇らし気に、女王様!

 「その効果は、我々も知っている−」 若干ブルーに、ピカーク 「ゆえに我々は一方的に情報を流す非双方向情報システムを禁止している。歴史学者の分析によると、第3次大戦もそれが原因で発生したと言っても過言ではないそうだ。あの  "ビック・ブラザー"  が情報の選択意識を失わせてしまう− 宇宙に出る為の十分な民度を育成するが故にヴァルカン人は1世紀もの間地球人を幽閉したが、その時の文化達成プログラムの中に、克服課題のひとつとして含まれていたんだ。」

女王様は、せせら笑う 「双方向情報システムは、私達のお得意科目よ! もっとも ”自励的情報発信” などと言うバグは、取り除かねばならないけれど!」 そして片手に持ったハイビジョン・カメラを取り出し、 「コレ、ほしくなーい?」

 ピカーク、アザブの和食屋から出てきたブッシュに思わず手をふってしまった時の様に、つい、うっかり! 「うう・・・・欲しい!」

ここで女王様は、極め付け優しく −ピカークが過去にされた事がないくらいに優しく− その手をとって自分へと招いた・・・・

 「さぁ、いらっしゃい・・・・お前が1番見たいものを、見せてあげるわ・・・・」

 

 

 新転送主任は、そのおっきな目をキラキラさせて、もの珍しそうにホロドクターを見詰めていた

「オジサンて、ほんとにホログラムなんですかぁ? ホンモノみたぁーい♪」

「ああ、ほんとうにそうだよ」 うざったそうに 「ちょっとそこ、貸してくれんかね?」 コンソロールにとっつき、目にもの見えぬ手際で弾きまくる

「うわわぁぁ! スゴイ♪ すごーい♪」 手をパチパチと、新転送主任!

 「ホロドクター、今惑星の影に入りました!」 新副長の声だ!

「了解!」 ホロドクターはコンソロールをタクトする!

 例の広めの転送台に光がきらめき、傷付きうめく数十人の保安部隊と、そしてそれに寄り添うドクターが間もなく実体化した。ドクターは、ひとりの保安部員にしっかとはっついている− その娘は顔が真っ青と言うより、ドス黒い。

 ホロドクターが飛んできた 「やられたのか?」 さっそくトライコーダーを!

「・・・・残念ながら、彼女だけ− 昏睡状態だけど、でもうまくナノ・プローブの活性は抑えられてる・・・・」

「予防措置がうまく利いている様だ! とにかく、はやく医療室へ!」 ホロドクターは待機していた反重力タンカに患者をのせ、ドクターに 「君はしばらく休むんだ− 彼女は、私に任せておけ!」 辺りを見て 「ピカーク君は?」

髪を乱したまま、ドクターは目を腫らし 「拉致された・・・・」

ホロ・ドクターはそれを聞くと、そっとドクターの肩に手をやり、転送室をあとにする− 残った医療班は黙々と、転送台に倒れ込んだ他の保安部員達のケアを始めた。

 肩を治療された新保安主任が、ややあってドクターの所へ 「ドクター・・・・気をしっかり持ってくださいね・・・・」

ドクターは、新保安主任に笑顔で 「ええ、大丈夫よ・・・・」 溜息混じりで 「それにしても、あのひと、私を突き飛ばしてばっかり・・・・よっぼど、嫌われてるのね・・・・」 頬に涙が伝う−

 そんなドクターを、何も言わず新保安主任が優しく抱きしめた・・・・

 と、情け容赦なく突如の激震! 全員が足元をすくわれる!

「ボーグ・キューブが1隻、先方の攻撃可能距離内に出現! 円盤部第22から48デッキまでが破壊! 緊急シールド敷設!」 操舵長の艦内アナウンスは鬼気に迫る! 

続け様、けたたましいサイレンと共にコンピューターの声が! 「ボーグ侵入警報発令! 第22デッキにボーグ侵入! ボーグ侵入警報発令!」

 血相変えた新保安主任が胸を叩く! 「保安主任よりブリッジへ! 保安部隊を22デッキに集合させて!!」 再び量子マシンガンを構え、「ドクター、残りのみんなをお願いッ!」 一瞬のうちに、ドアからその姿を消した!

 彼女のその眩しい姿にドクターは些かこころを癒されたが、次の瞬間、彼女が再び戦場に向かう境地であったことに気付き・・・・

 

 

 ホロデッキ・・・・いや、似ているが違う。女王様は極め付け美しいヒューマノイドにその姿を変えている。どうもこの感覚からすると・・・・ネクサスに近いシステムだ・・・・ひょっとしてここが、ユニ・マトリックスの様な精神仕様のバーチャル・スペースなのやも知れない。

子供達がいる・・・・皆整然とボックスの様な空間におさまり、ヘットバンドとボード・ディスプレイに囲まれていた。

 女王様が答えを 「ここが  "成熟チャンバー"  の一部、初期化システムよ・・・・特にまだドローンになりたての子供達を、一定度もとの生命体の感覚のまま、徐々に "迎合" する為に編み出されたの・・・・彼らはまだ、自分達がドローンになった自覚がないの。」  そう語る女王様の姿は、おぞましいほど妖艶だ 「彼らに教えねばならないのは、集合体の一員としての自覚と意識、そして集合体の "常識" ・・・・加えて、効率を第一とする競争意識よ。」 顔をこわばらせているピカークが面白いらしい 「能率の悪いドローンはここで廃棄されるわ− それからもうひとつ、廃棄せねばならないのは・・・・」

 その声を待っていたかの様に、ひとりの幼いドローンがヘッドバンドを外し、突如なにやら叫び始めた! すると、辺りの未成熟ドローンが同じく立ちあがり、静かにその "欠陥ドローン" を指差しながら、こぞってマトリックス仮想フィールドを脱して攻め寄った。本来の姿に帰した幼いドローン達は、その "欠陥ドローン" の部品を剥がし始める− やがて装甲を分解され生命維持のできなくなった "ユニークな" 未成熟ドローンは、そのままぼろぼろになって息絶えた・・・・

 得意気に女王様は、「ほら、彼等はもう立派に成長した! 異質な存在をあの様に "常識" の元、排除することを学んだの! 悪いのは "欠陥ドローン" の方 −まかり間違っても集合体システムではないわ− ドローンの "迎合努力" が足りなかったのよ!」 至極の喜びの表情がそこに! 「どう? 極めて優れた教育システムだと思わない!!」

 もう、ピカークに言葉はなかった・・・・唇を噛み締め、拳を握り締めている・・・・額の血管が唸っている彼の姿なぞ、そう、見られたものではない・・・・

それでもやがて、淡々と 「先日、お前達とリンクを切った男に会った・・・・ボーグのデータ・リンク同士でも、常に 『負け犬の入れ子』 を形成し、排斥恫喝をしているそうだ・・・・彼いわく、ここにいた頃は、何も考えていなかったと言っていた・・・・考えていたドローンはこうやってイジメて、引きこもりか廃人か、犯罪者にしていたんだな・・・・」

 静かに− そして勝ち誇ったように女王様は、ピカークを見据える 「だが、その男は、すくなくとも、お前よりは幸せではないのか?」

ピカークは腹の底から苦笑い! 「そうだ・・・・そいつだけは、間違いない!」

女王様は、淡いルージュをきらめかせ 「お前の批判は、所詮その 『負け犬の遠吠え』 にしか過ぎないのだ− お前もこちらに来ればいい・・・・キャプテン・ピカーク・・・・」 菩薩の笑みをして 「・・・・楽になるわよ・・・・」

 こちらも取っておきの笑顔で− 「死んでも、イヤだね!」

 

 

 「・・・・そうでしたか、ドクター・・・・どうぞ、お気を確かに− 失礼します。」

ドクターの 『ピカーク拉致』 報告は、ブリッジを森閑とさせた。インターカムを切った新副長も、動揺の色を隠せない。言葉もないとは、正にこの事だ。

 その空気を破ったのは、アトム 「副長! 奴らはプラズマ融合装置の破壊のために、惑星地下に何かを転送し始めました・・・・」

 残念ながら、上陸班は全く用を成さなかった −なさないどころか、なんて事だ− あれほど反対したと言うのに!!

新副長は唇を噛みしめて 「アトム− 融合炉を止める算段は?」

「プランはあります− 太陽光線を取り入れるリアクターをオーバー・ロードさせる方法です。地上に散発的被害を与えますが、やってみる価値はあると思います!」

そうか、相手の被害を慮っての上陸措置だったのね・・・・ 「準備でき次第、急いで対処して!」

アトム、コンソロールと今や一体に! 「リアクター、オーバーロード、成功です!」

 何だ、こんな簡単なら、上陸班なぞ送らずとも・・・・

途端、ヘビーなパンチが一発! 新副長は、椅子からほおり出されかける!

「一体なに?!」 ハスキーな声は、余計ハスキーに!

保安ブースの新しい主から 「キューブよ! 例の新たな1隻、艦隊を撃破して間際まで来たわ!」

 

 炸裂した爆発音が機関室を覆った! 機関長はとにかく、シールド発生のためのフェイルセイフユニットだけは死守せんと、身体を張って耐え抜いていた− これがなくなって更に乗り込まれた暁には、想像を絶した最期が待ち受けているだろうからだ・・・・

 ピカークの身の上に今、何が起こっているのか考えるだけで、彼女の胸は張り裂けんばかりだった・・・・それは既に1度、友人にも起こったことなのだから・・・・

 傍らで再び火花が散る! 絶対に・・・・絶対に負けてたまるか!!

消火装置の洗礼に、ありったけの号令がエコーする 「みんな!! 最後の最後まで、守り抜くのよ!!!!」

 

 

 ピカークは再び、セントラル・コンプレックスの元の場所に居た。奇怪な美しさを保ったままの、元保安部員達とともに。女王様はなにやら幕のかかったエレメントの脇にようやり、ピカークをあのセクシーな薄笑いで迎える。

 「ピカーク・・・・もうひとつ私達があらゆる有機生命体を "迎合" する中で学んだのは、彼等にとって生殖がかなりの社会活動の根幹を成していること・・・・これには、あなたも賛同でしょ?」

同じく薄笑いを返すピカーク 「ああ、そいつは文句なしに認める− にべもない!」 とてつもなく、いさぎいい。

「そ・こ・で・・・・」 ボーグの女王様は、そのエレメントにかかった幕を勢い良く引き剥がした! 現れたのは、新たな "女王様ボディ" − おお、超スーパースタイル!

「私の今の体は知性に満ち満ちてはいるけれど、セクシーさが足りないと感じたの・・・・"イエロー・メイト" に委託して作らせたこの新しいボディを以って、また沢山の有機生命体をメロメロにしてくれるわ!」 意気盛んな女王様!

「そいつは楽しみだ・・・・目の保養に感謝するヨ。」 ピカーク、お行儀良く 「ご活躍を応援するとしよう!」

「そう、ありがとう、ピカーク・・・・お前をファンクラブの会員番号1番にしてやってもいいわ −そしてもうひとつ− お前がキャプテン・ピカークである内に、是非見せたいものがあるの・・・・」

 女王様は、セントラル・コンプレックスのこれまたセントラルに位置する、仰々しい装置の前にやって来た− 十数人のドローン達が、盛んに作業に準じている。その装置のてっぺんには、"ビックブラザー" よろしく、スクリーンが鎮座ましていた。

 「ピカーク・・・・お前は、なぜ、この宙域において宇宙艦隊の知名度と人気がないか、疑問に思ったことはない?」 もったいぶって、女王様は首をかしげる。

 意外なとこをつかれた− 彼はちょっと言葉に詰まった 「そう、その疑念はこの四半世紀、常にあった。しかし最近、ローカルであの "警部の元カミさんの艦" がミダス・アレイを通じてガンマ宙域から中継してくる航星日誌が結構ゴールデン・タイムを抑え始めたので、感慨だ。」

 ニガニガしげに女王様 「悔しいけど、あの "腹黒アゴババア" の記録送信だけは、越境してくる故に防ぎ様がないのよ! でもDS9のログは、見事にブロックしているわ!」 華麗に手を広げ 「そして今まで、宇宙艦隊の派遣を阻止して来たのがこの最終破壊兵器− 題して 『視聴率調整装置』 なのよ!」

 ガーン!! ピカークは正に鉄拳を食らったが如く、打ちひしがれた− そうだ、そう言う訳だったんだ!! 正に、ボーグの仕業だったのだ!

「『正義と平和と自由と人権』・・・・宇宙艦隊のそんな危険思想がはびこり、お前のダチの様に仕事を辞めてしまうヤツが続出されては、元も子もないわ− 宇宙艦隊の思想は、あくまでもお前の様なオタッキーなレベルに押し留めておく必要があるのよ!!」 女王様の演説には熱がこもる− 「この装置は近隣の 『宙気』 をそいで、艦隊の存在エネルギーそのものを失わせる効果があるの− かつてジョンソンやニクソンに頼まれてカークの恒星日誌をウチドメにした時も、これを使ったのよ!」 女王様が指示するとあのモニターが光を帯び、キューブとスフィアに挟まれ、必死に防戦するハーレムの姿が映し出された! 「相変わらず無意味な抵抗を試みているわね・・・・他のハエどもも、まだ別のキューブにたかっているわ・・・・でもこれで、全てオシマイね!」 サッと手をかざし、 「ウチドメ・アレイを呼び出しなさい!」

 画面が変わった− いかにもニクニクしげなジジイの姿が・・・・あれ? 見覚えがあるぞ・・・・そのジジイは画面の前で静止すると、ゆっくりと頭のカツラを取り外す −おお、黒光りするてっぺんにインプラントが− 思い出したぞ、どこぞの某オーナーだ! やっぱりヤツは、ドローンだったのか!?

 「ユニットWY044号−」 女王様の唇が優美に 「ウチドメ・アレイを作動させ、宇宙艦隊の航星日誌を、『珍プレー・好プレー』 と差し替えておしまい!」

そのドローンは最敬礼で 「かしこまりました− 女王様!」 そして画面は再び、満身創痍のハーレムのそれへ!

指示は更に、その場のドローン達にも 「アレイが作動したら、こちらの視聴率調整装置本体も作動させるのよ!」

 ここでピカークの抑え隠していた怒りが爆発!! 「待て〜ッ! やめろ〜ッ! やめるんだぁぁぁぁぁぁ!!」 それをひしと羽交い締めにする例の彼女のドローンは、皮質ノードの作用でほぼ100パーセント運動神経が活用され、ピカークの暴れ様なぞ、赤子の手、そのものであった。

 至極の喜びの女王様は、甘美な勝利の笑みのまま、ピカークに寄り添う−

「お前もこの最後の試合を、ゆっくりと観戦するがいいわ・・・・」

 

 

 それに先ず気付いたのは、カウンセラーだった。

「副長・・・・なんかヘンです・・・・」

「なんかヘンて・・・・なにがヘンなの?」 戦略プロトコルを片目で追いながら。

「うまく言えないんですけれど・・・・なんかこう・・・・この宙域のエネルギーと言うエネルギーが、全部奪われてしまっている様な・・・・」 顔を顰めて 「・・・・うまく・・・・言えないんですけど・・・・」

「アトム?」 新副長は切り返す−

「確かに・・・・太陽の核融合活性度が失われ、惑星の気温も若干冷えています。あたりの太陽風や星間粒子も平均値よりもかなり −不自然かつ唐突な現象ですね− 本艦のエネルギー自体も、原因不明の弱体化を余儀なくされ・・・・」

「侵入したボーグは?」 焦りの色を隠せぬ新副長−

「それは既に撃退された模様− もしくは電磁パルス・フィールドの中に捕まったままよ。保安主任からの連絡はないけど、こちらの表示では。」 操舵長から 「いずれにせよ、これら原因不明のエネルギー欠損が今度の戦闘に関わりあることは、確かな様ね・・・・」

メイン・スクリーンには、スフィアとキューブがしっかりとハーレムを挟み込み、定期的に攻撃を繰り返している姿が映し出されている− また目前で火花が散り、照明が輝きを失う。

「・・・・第62デッキ付近も脆弱・・・・シールド補強・・・・」 柄になく操舵長、コンソロールをバン! と打つ! 「もう利かないわ!」

 新副長は、じっくりと考えた− じっくりと、ひとり胸の内で。

 徐に、インターカムににじり寄る 「ブリッジより機関室へ・・・・機関長・・・・」 唇を噛み締める・・・・悔しくて、悔しくて、たまらない! 「もう、残る手段は、たったひとつしかないと思います!」

 ポロポロの反物質融合炉の前で、その瀕死のアンチマターのかもし出す揺らめきの残り香の作る影が、機関長の頬にその彩りを添えていた− 何も聞かずとも、その質問の意味は解っていた

「・・・・あたしは・・・・誰も顔を知り得ない世界で残りの人生を過ごすなんて、絶対に耐えられない!」

 同じく幸せを控えた仲間のこの言葉が、新副長の意を決した! −彼女は悔し涙の中、口を開く− 正に艦内公演そのものとは、なんと皮肉な事か!! 「コンピューター、こちら副長 −自爆シークエンスの起動を要請− 先ずは、ピカーク船長の承認コード削除を確認・・・・」

ロッテンベリー夫人の声が、場違いに冷静なそのトーンで 「ピカーク船長の承認コードは、ボーグによる拉致を確認した時点で消去されました− 副長の承認コードを要請します。」

更に俯きにかげんなったが、思い切りふり払う! 「副長 −承認コード  "パラダイス2242"− 承認3分後に自爆設定!」 たたみかける様にインターカムに 「機関長、お願いします!」

 機関室のパネルに、機関長はそっと手を添える 「機関長− 承認コード  "ティンク68400"!」

また静かな声が響く 「機関長、承認コード、確認−」

 新副長は、後ろをみやる− 「お姉ちゃん・・・・」

 その操舵長のペルシャ猫の様な美麗な瞳は、毅然としながらも、やはり涙に濡れていた・・・・ 「操舵長− 承認コード  "メロンパン288620"・・・・」 涙が頬を伝い、コンソロールに一粒、きらめく。

 なんと優しい、コンピューターの声だろう・・・・ 「操舵長、承認コード、確認−」 さて、残るは、あとひとつだけ・・・・ 「−最終コードの承認を要請します−」

 指令席の肘掛をぐっと握り締め、思いのたけを、ぜんぶ、ぜんぶ、込めちぎって!

「・・・・0・・・・0・・・・自爆コード・・・・0!!」

コンピューターは静かに告げる 「最終コードを確認 −自爆シークエンスを開始します− 自爆180秒前・・・・」

 こころ緩む瞬時もない −また衝撃が艦を襲い、右手のコンソロールを弾き飛ばした− だが幸いにも、もう、誰かかがそこに居を構えている時ではなかった・・・・

 不気味なキューブの姿が、スクリーンを覆い尽くそうとしている− 防御が緩んだ通信システムに、奴らのプロパガンダが響き渡る・・・・

 「我々はボーグだ −オトナらしく迎合せよ− 抵抗は無意味だ!!」

 「・・・・だれが・・・・だれが、するもんですか!!」 新副長は、薄笑いすら見せて 「・・・・一緒に果てるのは、そっちの方よ!!」

 秒読みは、なおも続く− 「・・・・自爆解除期限を超過 −自爆解除不可− ・・・・自爆60秒前・・・・59・・・・58・・・・57・・・・56・・・・」

 カウンセラーが声を抑えて泣きじゃくっている・・・・アトムは毅然と、コンソロールでまだ表示を追っている・・・・そして操舵長の長い指が、優しくそっと新副長の肩に添えられた −新副長は、その手をぎゅっと、スクリーンをみやりながら握り返す −そして、ここにいない御人に祈った− 先に召されてごめんなさい・・・・でもこれは、あなたを守りたいが為のことなのよ・・・・

 ああ、だがしかし、コンソロールのアトムの表情が非情にも歪む! 「自爆シークエンスに緊急解除コードが侵入−」 あろうことか、彼女は悲痛に叫んだ! 「解除されました!」

 新副長、思わず立ちあがって 「どうやって!?」

 「副長!!」 操舵長のその声はなぜか、歓喜に満ち満ちている! 「U.S.S.マジカルレストランよ!!」

 突如、時空に閃光が輝き、最新鋭ソベリン級艦の輝かしい流体が光の帯を集めて実体化した!! 瞬く間に発射された量子魚雷の束は、あっと言う間にスフィアを木っ端微塵に撃破する!!

 スクリーンは、その救世主の勇姿に切り替わった! 「おひさしぶりね、副長 −まだ死ぬには早いわよ!」 おお、あの  "前任者"  だ!! 「援護します− キューブの指示する部位へ、フェイザーをぶち込んで頂戴− こちらの表示だと、まだそちらには若干余力があるみたいだから!」

 新副長は喜びを隠し切れない! 「解りました− ありったけの力を振り絞ります!」 だがややあって 「"艦長" ! あのキューブには、もしかしたらピカーク船長がいるかも知れないんです−」

 「ジャムが・・・・あの中に?」 艦長の誇り高きその表情に、若干影がさす−

 

 

艦長記録:宇宙暦657808654126824.8

 やっとマジカルレストランの艦長として、調子が出てきた感じだ! 本艦は現在、ミダス・アレイ修理任務の為、限定的トランスワープ・チューブ敷設実験を完了し、アルファ宇宙域に帰還中− 途中、ベータ宙域を経由するルートを開拓している。

 この任務に協力してくれたバークレー大尉と、時間調査局のあの警部にお礼が言いたい。バークレー大尉はウワサどおり、ピカーク船長にそっくりなオーラを発している人物だった。通りで2人がアカデミーで親友だった訳だ! 漏れ聞くにあのままずっとカウンセラー人事で悩んでいるジャムの話を彼に伝えたところ、非常に同情し、彼自身ディアナのアトガマを見つけている事もあって、お互いがんばろう! とのムダな足掻きともとれるメッセージを託された−

 正直、迷惑なだけだけど!

 あと、警部にはハーレムでの最後の任務以来、久々の再開を果たした− 前は、ちょっとこっちもつっけんどんだったのを些か反省し、おーらかに接したつもりだ。警部は警部で、ミダス・アレイからの中継データを取りながら、これでは元夫人を時間規約違反で死刑にせねば− と、アタマをかかえていた・・・・こちらはちょっぴり、カワイソウだ。

 

 話はそれより艦内時間で1時間程前・・・・日誌に口実を終えたマジカル・レストランの艦長 −つまりは、ハーレムの前副長− は、ギャラクシー級よりやや機能的なソベリン級のブリッジ中央席に愁然と構え、目前のテーブル兼ディスプレイに置かれたコーヒーに優雅に口を添えた・・・・だが・・・・

「ちょっと待って! これ、ミスカフェの残りでしょ! ダメよ、マカシムに代えとかなきゃ!」

あわてて士官が飛んでくる! 「申し訳ありませんでした!!」

にこり、と艦長、目一杯可愛らしく! 「いいのよ、今度から気をつけてね!」

 コーヒーを入れ替えようとした士官に向かって 「おーい、その間は、ユカマットじゃなかったっけ??」

 そう、問いかけたのは、この艦の副長だ− やや痩せたとは言え、まだまだ健康優良児そのものである。今も正に、脇に置いたレプリケーターから何やら鍋をとりだしてふーふーパクついている所だ。

それを見て艦長、「副長! ちゃんと奥さんから監視しとく様に言われているんですから、食べ過ぎないでよ!」

聞く耳全く持たず 「なんでこの艦に着任したかって言えば、カミさんにナイショでこっそり飯がたらふく食えるからじゃないか!! なーんも食えないんだったら、あの後輩に席を譲るぞ− 俺じゃぁ、急坂、荷車ひけねぇし、アイドルならふとらねぇよーにって、あいつに注意したばっかりだから!」 ふてくされ気味に、副長はそう。

艦長は満面の笑みで返す 「ええ、ついでに荷車の死体がテキサスでよかったわ− ラガーだったら、こっちが潰されて死体になってたとこよ!」

 「人間と言うのは、食物摂取と生殖に異様な執着を持つ様だな− この副長を見れば、それが良くわかる」 そう突っ込んだのは、艦長席左隣の制御調整席に居を構える女性 −なんとその額にはインプラントが− おお、ボーグ!!

 「テン・サウザン・・・・」 艦長は、既に集合体とのリンクを切ったその親友に 「人間観察の標本として、この副長は標準仕様とはとてもオススメできないわ。」

「おい待てよ! さっきから聞いてりゃ、言いたいことばっかり言いやがって− あのなぁ・・・・」

 そう、副長がツッコミかけた途端、テン・サウザンの制御コンソロールから、けたたましい警告音が・・・・

 テン・サウザンは冷静に 「カスミガセキ星系に陣取っていた艦隊が、ボーグ艦隊と戦闘を開始した− 形勢は宇宙艦隊に不利な様だ・・・・」

 隣の2人は一瞬にして真摯な面持ちに− 「メインビュアーに配置を!」

 すぐさまビュアーに、艦隊とキューブの配置図が描写される− 2隻のキューブがひしめく航宙艦と対峙し、残る1隻がひとつの惑星に向かっている姿が見て取れた。その先の惑星には、確か1隻の艦隊艦が・・・・

 「あの艦は?」 艦長はテン・サウザンに

「あれは・・・・」 テン・サウザンはコンソロールを瞬く間に弾く 「U.S.S.ハーレムだ。」

途端、艦長の顔色が変わった! 「直ちに救援に向かいます− 操舵士! 進路をカスミガセキ星系へ!」

そう命ぜられた目の輝くシャープな面持ちの操舵士は、 「でも、艦長・・・・ここからだと・・・・」

「ハーレムって、前任艦だろ? 確か、お前も知ってるんだったよな、あそこの艦長?」 副長は前方の操舵士にも問い掛けた

その美麗な操舵士は 「はい、ちょこっと・・・・」 優雅に微笑みながら。

更に艦長が 「前にハーレムで、貴方のウワサしてたのよ− 世間は狭いわネ!」 で副長に 「きっと彼女が言いたいのは、こっからカスミガセキ星系までは、"旅人" か  "管理者"  でもない限り、おいそれと到達できないってことよね?」

「はい、そうです−」 おずおずと操舵士。

「いや、待ってくれ−」 テン・サウザンだ 「この近辺にトランス・ワープ・チューブがある− これを辿れば、カスミガセキ星域近辺にボーグの敷設した出口に行き着くかもしれない。」 自信たっぷりに顔をあげるテン・サウザン! 「ボーグのことなら、私に任せておけ!」

「わかったわ −貴方の言に従いましょう− チューブの位置を操舵席に送ってちょうだい!」 ニヤリ、っと艦長! 「それからね、副長、ピカーク大佐のことは、 "船長" って呼んであげてね− "艦長" って呼ばれるの、あの人、キライなのよ!」

「ピカークって、一体どーゆーヤツなんだ?」 副長、けげんそうに操舵士に

言いにくそうにしている操舵士に代わって、艦長がウィンク! 「一言で言うと− 面白い人よ、ネ。」 先ずは、肘掛に! 「全デッキ非常態勢 −これよりトランス・ワープ・チューブに入る− チューブ脱出後、ボーグとの戦闘に備えよ!」 お次は、さぁーて、指を掲げて、 「それじゃあ、トランス・ワープ・チューブに向け、ワープ9.9−」 ふり払い! 「発進!!」

 すわ、光の帯がレールとなって、トランス・ワープ・ゲートへと艦をいざなう−

 「トランス・ワープ・チューブへのアクセス成功 −これよりトランス・ワーブ・チューブに入る−」

テン・サウザンのその言を受け、再びコムに、「全艦、衝撃に備えよ!」

 ドン! と一瞬壁にぶつかったかの如き衝撃のあとは、微かな唸りが艦体に響く−

 「超次元センサーでチューブの敷設状況を確認・・・・グリット124-822にチューブ・コンデンサー発見・・・・これがカスミガセキ星系に通じる超時空チェンバーと思われる・・・・汎用ボーグ・プロトコルでアクセス −アクセス成功− 進路にうまく乗った!」

 スクリーンには、トランス・ワープの超次元グリッドの織り成す文様が踊っていた− 艦長は極めて冷静に、情報収集にあたっている。

 「開口位置確認− マーク、08422-5! 操舵士、位置を確認!」

操舵士から答えが 「位置、確認しました!」

副長が 「一端ベータ領域を通るとは、考えたもんだな− 正に 『いそがばなんとか−』 だ!」 で、腕組みし直して 「・・・・ボーグっつーのは、取った相手のコマを使うから、将棋みてぇなもんだなぁ・・・・一体、チェスで将棋に勝てるのか?」

艦長はそんな副長に簡素に微笑むと− 「たぶんそのフレーズ、もう使われてると思うわよ!」

 テン・サウザンから 「まもなく、チューブを抜ける−」

 ドン! 再び衝撃が− しかしそれは、途端に浴びたボーグ・キューブのエネルギー砲のそれも兼ねていた!

「ワープ2に変更! ハーレムを探して!」 身を乗り出して艦長は−

「U.S.S.ハーレムを第6惑星近辺に発見−」 若干顔をあげたテン・サウザン 「−自爆シークエンスを作動させている。」

艦長は、肘掛のコンソロールを目にも止まらぬ速さで叩き抜く! 「今送った解除コードでシステムに侵入し、解除して!」

テン・サウザンはコピーを確認、解除作業に− 「解除成功− お前のコードをまだ残しているとは、間の抜けた指揮官だな。」 あっけらかんと、そう付け加えて。

 「可愛そうに・・・・まだお前さんが戻ってくると思ってたんダ。」 クリーム・パンを食らいながら、副長。

含みのある笑顔で艦長は、 「いいえ、ただ単に消すのを忘れていただけだと思うわ!」

 「もうひとつ問題がある−」 やや眉間に皺でテン・サウザン 「センサーで、ボーグの視聴率調整波を感知した −この宙域のエネルギーを奪取するつもりだ− 調整波を中継しているアレイを発見したが、どうする?」

艦長はマジマジと 「−どうするって、破壊するに決まっているじゃない!」

飄々とテン・サウザンが 「いいのか、座標はここだぞ? −アレイの後ろ盾には、"電波通信塔" も控えている− お前とは因縁があったはずだが?」

その座標を見た艦長と副長は顔を見合わせ、 「いまんとこ、レギュラーないから、いいか?」 そして納得し、 「用心の為に、機能を停止させるだけにして。」

やや呆れた様子でテン・サウザン 「了解した− 共鳴エネルギー・シグナルでアレイをオーバー・ロードさせる」 一瞬ののちに 「アレイを停止させた− 宙域内のエネルギー値は平均のそれに復旧。」

艦長は間髪なく 「次は・・・・ハーレムを援護します・・・・ワープ停止− 脇につけて、攻撃しているスフィアを量子魚雷で破壊して!」

操舵士から、「ワープ停止! ハーレムのシールドをカヴァー!」

テン・サウザンの手腕に揺ぎ無い 「量子魚雷、発射!」

 瞬時にスフィアは、宇宙の塵と化す!

 艦長は優雅に指令席にかけ直し、旧友との再会に備えた− 「ハーレムに通信− 先方のブリッジをスクリーンに!」

 

 

 胸のすくようなマジカル・レストランの活躍劇に、ピカークはマジでウルウルだった! ありがとう、元副長! やっぱり帰って来てくれたんだネ (←チガウト、オモウゾ!)!

「ふん、裏切り者めが!」 ここに来てから初めて、女王様の余裕なき表情を見ることができた 「しかし、もう時既に遅い・・・・我々の勝利に、間違いはないのだ・・・・」

 後方で、『視聴率調整装置』 が轟音と共に火花を散らした− キューブのそこかしこで、火の手があがっているのが見て取れる! 女王様の言は、こんどこそ強がりだ!

「どうやらオシマイなのはそっちの方だぞ、女王様−」 ピカーク、不敵に微笑む 「ぼつぼつ、観念したらどうなんだ?」

「いいえ、まだお前のそのヘラズ愚痴を黙らせる仕事が待っているわ・・・・人権を何よりも優先する艦隊のことですもの、お前の姿がスクリーンに映し出されれば、攻撃の手もまた、緩むというものよ・・・・」 女王様は、黒の皮手袋をゆっくりと脱ぎ剥がす・・・・そこにはお馴染み、ナノ・プローブの注入装置が待っていた 「さぁ、ピカーク・・・・おちゅープレイのお時間よ・・・・”女王蜂の一刺し” って、懐かしいでしょ?」

 ピカークの体は、更にもう一人のドローンの手で抑えられる・・・・ング! しまった! 口に手を突っ込まれた・・・・舌かっきる事も、これじゃかなわん!

 「お前の新しい名前もちゃーんと用意してやったわ −”コンキュウダス”− どーお、いい名前でしょ?」 ああ、なんと言う歓喜の表情! 「お前には、特性の ”ローヤルゼリー寄せプローブ” を注入してやるわ!」

 ”コンキュウダス”!? ボーグになってもビンボーなんて、サイアクじゃないか!?

 泉の様に噴出す汗の中、その管はいよいよピカークの首元へ・・・・ああ! いよいよ生活の糧に屈する時が、やってきたのか!!

 

 麗しくピカークの頬に愛撫する女王様− 「さらばだ・・・・キャプテン・ピカーク・・・・」 その吐息はこの世のものとは思えぬ、甘美な囁き・・・・ 「・・・・ようこそ、我が愛しき "コンキュウダス"・・・・」

 

 

 

第7章 終

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